日本で見るポールスターのボディカラー“レーベルブルー”は、北欧の斜光の下で見るのとは、まるで印象が違っていました。スウェーデンで見たそれは、同色の国旗に煽られていたせいもあるのでしょうが、自然、ナチュラル。違和感ゼロ。
しかし、日本へ持ってくると、ただならぬ存在感を漂わせています。遠くまで視認性の高い、目立つソリッドの“青”をまとうには、なんらかの意図があるはず、と身構えさせるほど。メルセデス・ベンツのシルバー、フェラーリの赤でさえ、これほどまで特別な印象を与えるのは、もはや難しいのではないでしょうか。
それが確信に変わるのは、20インチホイールの造形を見た時。スポークがマッチョに外側へ盛り上がっているんです。ポールスターが名門ブレンボ社と共同開発した6ポッドのキャリパーを収めるために、スポークがキャリパーと干渉しないよう、外側へ逃げるデザインになっているんですね。細マッチョどころか、ムキマッチョ。
その気になってドアを開け放ち、乗り込みます。デカいシートにカラダを沈めて走り出すと、拍子抜けするほどフツー。サスペンションがガチガチのセッティングになっていないか気にしていたものの、完全に杞憂に終わりました。
3リッターの直列6気筒エンジンは、ボルグワーナー製のツインスクロールターボチャージャーで過給され、350馬力(258kW)/5250回転、51.0kg-m(500Nm)/3000〜4750回転を発生。停止状態から100km/hへ到達するのに要する時間は4.9秒とアナウンスされています。
フツーにお買い物へ行ったり、渋滞をかいくぐって帰省したり、日常の脚として気負わず使える印象。ハイパフォーマンスカーを支配下に収めているというアドレナリンの誘発はありません。もっとも、昨今のハイパフォーマンスカーは、たいていそういう感じですが…。
6速ATのシフトノブをスポーツモード側へパンッと倒し、まるでパッシングするようにパドルシフトをパシパシッと2速まで落とすと…。
「ファンッッッ、ファーーーーーーーアッ!」
マジか? というような快音が頭のてっぺんを一気に貫いたような気がしました。ポールスターのエキゾーストシステムにはフラップが備わっていて、必要に応じてこれが全開になるんです。すると直6ターボエンジンが豹変。間髪入れずに戦闘モードへシフトしちゃいます。
決して高回転タイプではありませんが、パンチのあるトルクが電子制御式AWD(四駆システム)を通じて無駄なく路面へとたたきつけられ、加速力へと変換されていく感じです。
私が観戦したSTCCで走っていたマシンはワンメイクで、市販モデルとは直接、関連性はありませんでした。それでも、このS60ポールスターの直6ターボエンジンは実戦向き。レースで闘える手応えさえ感じさせます。昨今のレースは、クラスごとに性能調整が入り、トップスピードなどに差が出にくいようになっています。コーナーから立ち上がる際の加速や、中間加速にアドバンテージがあった方で、バトルで競り勝つ武器になるんですね。その点、S60ポールスターの直6ターボは、そういったたくましさを感じさせるんです。
箱根ターンパイク。登りも得意。グングン駆け上がる。コーナーの入り口でブレーキング。試乗車は走行距離が1万km以上走っていて酷使された感はあったものの、6ポッドブレーキのキャリパーが直径371mmあるベンチレーテッドディスクに激しく咬みつきます。
そして、コントローラブル。ペダルを踏む力と制動力の関係がリニア。ターンの姿勢を作りやすいんです。ボディ全体が沈んだタイミングで、ソロリとステアリングを当てていくと、コーナーの出口を目指して涼しげに旋回していきます。
危なげない。
いやぁ、これ以上のスピードで進入するのはマジで嫌。レーベルブルーの限界はもっと奥。いつかサーキットで、続きを試してみたいと本気で思いました。
ショッピングモールへの足からサーキットまで、守備範囲が広いというより、そのジギルとハイド的な二面性が印象深いS60ポールスター。羊の皮を被った…というような形容詞がお好みなら、アイスホワイトかオニキスブラックメタリックのボディカラーを選ぶとなお良いでしょう。レーベルブルーは早晩、狼の色として知れわたる覚悟が必要ですから。
ちなみに、ポールスターモデルは世界限定750台。日本へはS60が10台、V60が40台の合計50台のみが上陸します。11月11日現在、V70は残り20数台、S60は残り2台とのことでした。
<SPECIFICATIONS>
☆S60ポールスター
ボディサイズ:L4635×W1865×H1480mm
車重:1780kg
駆動方式:4WD
エンジン:2953cc 直列6気筒 ターボ
トランスミッション:6速AT
最高出力:350馬力/5250回転
最大トルク:51.0kg-m/3000〜4750回転
価格:829万円
(文&写真/ブンタ)
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