■見えない部分にもメスを入れた緻密な改良
まずは新型CX-8の“全グレードに共通する改良ポイント”を、具体的に見ていこう。
始めに、見た目においては、ホイールの色と仕上げが変更された。エントリーグレードに設定される17インチホイールは、色をダークシルバーからグレーメタリックに変更。そして中間グレード「プロアクティブ」の19インチホイールには、シルバーの輝度を高めたシルバーメタリック塗装を、上級グレード「Lパッケージ」用の19インチホイールには、高輝度ダーク塗装を採用している。そのほか外装面での変更は、リアのナンバープレート灯の光源が、LED化されたことくらい。デザイン面で高い評価を得ているCX-8だけに、これは納得の内容といえる。
一方の中身は、大きく変わった。まず走りの面では、よりしなやかに動き、路面をとらえられる足回りを目指し、サスペンションセッティングが変更されている。加えて、ステアリング操作に応じてエンジン制御を連携させ、ハンドルの修正舵を少なくしてくれるなど、スムーズな車両挙動を実現するマツダ独自の電子デバイス“GVC(G-ベクタリング コントロール)”が、次世代版に進化。コーナー外側のタイヤに対し、乗員には分からないレベルで瞬間的にブレーキを掛けることで、旋回から直進状態に戻る際の挙動を安定させる機能を加えた“GVCプラス”へとバージョンアップされている。これは、先行して改良された新型「CX-5」に続いての導入だ。
次に新型は、静粛性という目に見えない部分にもこだわった。車両後部にある制振材の量を増やしたほか、リアゲートにウインドウを固定する際に用いる接着剤の塗る位置を変更し、その空間で発生する耳障りな共鳴を抑制。それら細かな改良により、3列目シートの静粛性を一段と高めている。
さらにインテリアでは、エアコンの操作パネルを変更し、車内デザインの水平基調を強調。また、前席のセンターアームレストの高さを15mm下げ、より自然にヒジを置けるよう変更している。このほか、すべてのパワーウインドウをワンタッチで開閉できる機能を追加したほか、インフォテインメントシステム“マツダコネクト”をApple CarPlayとAndroid Autoに対応させるなど、利便性も追求している。
しかも新型は、安全面においても、追突被害軽減ブレーキに夜間歩行者検知機能を追加するなど、発売から1年足らずしか経っていないにもかかわらず、各部を大幅にブラッシュアップ。世に出したクルマを絶え間なく進化させ続けるというマツダの真摯な姿勢が、その改良内容からも伝わってくる。
■パワーユニットのトピックはガソリンターボの追加
続いてお伝えしたいテーマは“パワーユニットの拡充”。これは、新しいCX-8における最大のトピックといえるだろう。
これまでCX-8に用意されていたのは、2.2リッターのディーゼルターボ(190馬力/45.9kgf-m)のみだった。だが今回の改良で、2.5リッターのガソリンターボと、同じく2.5リッターの自然吸気ガソリンエンジンを追加。選べるエンジンが一気に3種類へと増えたのだ。
2.5リッターのガソリンターボは、先にCX-5へ追加されたものと同一で、最高出力230馬力を発生する。イマドキのエンジンとしてはパワーが控えめに感じられるかもしれないが、注目すべきはその最大トルク。42.8kgf-mという数値を自然吸気エンジンに例えると、4リッタークラスに匹敵するほどの力強さで、おまけに、極太のトルクをわずか2000回転という低回転域から発生させる。ターボエンジン=高回転域で元気がいい、という仕上げではなく、大排気量の自然吸気ガソリンエンジンやディーゼルエンジンのように、低回転域からの太いトルクで悠々と走る乗り味が、新しいターボエンジンの魅力といえる。
今回は、テストコース内という限られた条件下での試乗だったが、低回転域からグググッとクルマを押し出していく力強さは、とても好印象。その領域での加速感は、まさにディーゼルターボに近いものがあった。
一方、これまでのディーゼルターボと異なるのは、やはり高回転域でのフィーリング。マツダのディーゼルターボは、ディーゼルエンジンとしては滑らかに回り、一般的なディーゼルのそれに比べると、高回転域でのフィーリングに優れる。とはいえ、新しいガソリンターボは、回転の伸びとパワーの盛り上がりにおいて、それ以上の心地良さ。低中回転域では太いトルクでディーゼル級の力強さを発揮し、高回転域ではガソリンエンジンならではの爽快感を両立している。もし、走りの気持ち良さを第一に求めるなら、新しいガソリンターボはCX-8のベストチョイスだといえるだろう。
一方、新たに追加された自然吸気のガソリンエンジンは、190馬力/25.7kgf-mで、ガソリンターボやディーゼルに比べると、スペックはかなり控えめ。その分、それらに比べると「ガツン!」とくる力強さはないが、決して遅いわけでもない。ガソリンターボやディーゼルほどの性能は不要で、リーズナブルにCX-8を手に入れたいという人にとっては、ちょうどいい選択肢となるだろう。
ちなみに自然吸気ガソリンエンジンは、基本的にCX-5に搭載されるものと共通だが、CX-5のそれとは異なり、燃費向上のために負荷が軽い状態では2気筒分の燃焼を止める“気筒休止システム”が搭載されていない。その理由を開発陣に尋ねると「CX-8は車両重量が重い分、気筒休止によって燃費が向上する伸び代が小さいため」との回答だった。
こうして、選択肢が大幅に増えたCX-8のパワーユニットだが、ひとつ残念なのは、ガソリン車はエンジンと駆動方式の組み合わせに制約がある点。現時点では、自然吸気ガソリン車はFFのみ、ガソリンターボ車は4WDしか選べないのである。前者は、車両重量とのバランスを踏まえた上の設定なのかもしれないが、後者に関しては、もしガソリンターボ+FFの組み合わせが選べたら、4WDよりも20万円ほど車両価格が抑えられる可能性がある。
ちなみにディーゼルターボ車には、FFと4WDの駆動方式が用意されるが、エントリーグレードの「XD」に関しては、今回の改良でFFモデルが廃止され、4WDに一本化。そのためFF車を選べるのは、中間グレードの「XDプロアクティブ」と、上級グレード「XD Lパッケージ」のみとなった。
■エントリーグレードはアンダー300万円から!
次のテーマはズバリ“価格”のお話。先述したパワーユニットの拡充によって、新型CX-8のエントリーグレードは車両価格が大幅に引き下げられ、手が届きやすい存在となった。
改良前のエントリーグレードの価格は、ディーゼルターボを搭載する「XD」で319万6800円〜。それが今回、ディーゼルエンジンより安価な自然吸気ガソリンエンジンを搭載する新エントリーグレード「25S」(289万4400円〜)が加わったことで“アンダー300万円”のCX-8が誕生したのである。その差は約30万円と大きく、これまで「CX-8が欲しいけれど高価で…」と考えていた人にとっては、大きなニュースといえるだろう。
こうした価格レンジの拡大も、実は今回の改良における重要な“裏テーマ”。パワーユニットの選択肢を増やすと同時に価格帯を広げることで、より多くのユーザーを振り向かせたいというマツダの狙いが伝わってくる。
その一方、最上級仕様のXD Lパッケージは、価格が27万円ほど引き上げられた。もちろんそこには、しっかりとした理由があり、さらに上級で上質な装備が追加されたのだ。
例えばメーターパネルは、大きな7インチのTFT液晶パネルを組み込んだタイプに格上げされ、フロントシートにはベンチレーション機能も組み込まれた。また、フレームレスインナーミラーやインテリアイルミネーションの導入や、室内照明のLED化も実施。従来にも増して、他グレードとの差別化や上級化が図られている。こうした“さらなる上級化”も、今回の商品改良を語る上で外せないテーマといえるだろう。
新型CX-8の改良メニューは、単なる仕様向上というレベルを超えている。むしろ、CX-8の多様化ともいえる内容だ。従来よりも多くの、そして、より幅広いユーザーの理想に合致するクルマとなり、これまでの美点であった上級感も、よりハイレベルになっている。まさに、死角を減らし、長所を伸ばしたことで、CX-8の商品力は格段に高まった。
<SPECIFICATIONS>
☆25S プロアクティブ
ボディサイズ:L4900×W1840×H1730mm
車両重量:1730kg
駆動方式:FF
エンジン:2488cc 直列4気筒 DOHC
トランスミッション:6速AT
最高出力:190馬力/6000回転
最大トルク:25.7kgf-m/4000回転
価格:325万6200円
<SPECIFICATIONS>
☆25T Lパッケージ
ボディサイズ:L4900×W1840×H1730mm
車両重量:1880kg
駆動方式:4WD
エンジン:2488cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:6速AT
最高出力:230馬力/4250回転
最大トルク:42.8kgf-m/2000回転
価格:424万4400円
(文/工藤貴宏 写真/&GP編集部、マツダ)
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