■ファンも納得のたたずまいと格段に向上した快適性
オフロードコースを中心としたMT車のみの試乗会から約3カ月、久しぶりの対面となった新型ジムニー。先代モデルである3代目のJB23型から大胆な変更を受けたエクステリアが、ひと目でそれと分かるのは、やはり初代、2代目モデルをモチーフとしたディテールを散りばめているからでしょうか。それとも、機能から導かれたディメンションが、ジムニーならではの個性だからでしょうか。
新型のボディサイズは、全長3395mm、全幅1475mm、全高1725mmと、全高が45mm高くなったほかは先代と共通。ホイールベースも2250mmと変更はありません。スクエアなボディやサイドウインドウ上の“雨どい”の採用など、機能を重視しつつも愛らしくまとめられたたたずまいは「そうそう、ジムニーってこうだよね!」と、古くからのファンも納得できるデザインなんじゃないかと思います。もちろん、軽自動車規格なので、サイズを拡大できないという事情があるのも事実ですが、定められた枠の中で、ジムニーらしさを上手く表現しているといえるでしょう。
インテリアも従来モデルから大きく変わっていて、ダッシュボード回りも乗用車的な雰囲気から、カシオの腕時計「G-SHOCK」などを連想させる、武骨なスタイルへと改められています。デザインに関しては、内外装とも“プロの道具”を意識したというジムニーですが、見やすいメーターや使いやすいスイッチの配置からも、そんなこだわりを感じさせます。
さて、運転席に腰を下ろして真っ先に感じるのは「室内が広くなったな」ということ。フロントウインドウやサイドウインドウの角度が従来モデルより起こされたことで、フロントシートの頭部からウインドウまでの距離が拡大され、車内空間にゆとりができたのも事実ですが、水平基調のインパネの採用などで、視覚的にも広さを感じるようになりました。また、フロントシートは一見すると平板に見えますが、クッションのストロークもあり、座り心地はなかなか良好。これならちょっとした長距離ドライブでも快適に過ごすことができそうです。また、先代では窮屈だったリアシートの足下スペースも拡大されており、どうにも靴やつま先の収まりが悪い、なんてことはなくなりました。
■今やジムニーも、やはり売れ線はAT仕様に
官公庁や森林組合も使用する“プロ用ツール”としての顔も持つジムニーは、現代のクルマとしては珍しく、MT車比率が高いモデルでもあります。信頼性や整備性、そして「ここぞ!」という時の扱いやすさや頼もしさでは、やはり、MT仕様が有利なのは間違いありません。しかし、街乗りやロングドライブを主な用途とする一般のユーザーから見ると、やはり購入するならAT仕様、という人が多いはず。
実際、先代モデルのユーズドカー情報をチェックしてみると、MT車とAT車との比率は1:2といったところ。街中で見かけるジムニーの3台に1台がMT車というのも驚きではありますが、売れ線はやはり、AT仕様のようです。ということで今回は、上位グレード「XC」のAT仕様をテストドライブに連れ出しました。
先代のAT仕様に比べ、真っ先に大きな進化を感じられたのは、高速道路における快適性。従来モデルは、100km/hでのエンジン回転数が4000回転を超えていましたが、新型では同じ4速ATながら、80km/hで約3000回転、100km/hで約3750回転へと引き下げられ、車内の静かさも一般的なコンパクトカーに大きく劣ることはありません。確かに、今や軽自動車のトランスミッションはCVTが主流になりつつあり、トルコン式ATも多段化が進む昨今「古典的な4速ATって、どうなのよ?」と思われる人もいるかもしれませんが、少なくとも乗り味という点においては、デメリットを感じることはありませんでした。
またエンジンは、先々代の最後期モデルから先代へと受け継がれたK6A型に代わって、R06A型へと刷新されていますが、走り出した直後の印象はというと、いい意味で「おとなしくなったな」というもの。パンチはあるものの少しピーキーな性格だったK6A型に比べるとマイルドな味つけであり、さらに、新型の静粛性が向上したこととの合わせ技で、クルマそのものがひと回り大人になったかのような印象です。
このR06A型エンジンは、排気量658ccの直列3気筒ターボで、最高出力は64馬力、最大トルクは9.8kgf-mを発生します。K6A型に比べると、最大トルクこそ若干ダウンしていますが、低速域でもアクセル操作に対する反応はリニアですし、加減速時の扱いやすさも大きく向上しています。ボア×ストローク比で見れば、ショートストロークタイプのK6A型に対し、ロングストロークタイプのR06A型という素性の違いもありそうですが、何よりシーンを問わないスムーズで伸びやかな加速感は、電子制御の20年分の進化を感じられる瞬間といえるでしょう。
■街乗りはもちろん、高速道路でも文句のない乗り味
新型ジムニーは、乗り心地やハンドリングが洗練された点も、街乗り派ユーザーにとっては朗報といえるでしょう。本格オフローダーらしく、ラダーフレームや前後リジッドアクスルといった基本メカニズムの形式こそ先代モデルから継承していますが、ラダーフレームにメンバーを追加することで剛性アップを実現したほか、新開発のボディマウントゴムやステアリングダンパーの採用により、操縦性や乗り心地も大幅な改善を遂げています。
例えば、大きめの段差などを乗り超える際、従来モデルは少なからず「ガツン!」という衝撃を感じることがありましたし、ステアリングに「ブルッ!」という振動が伝わることもありました。でも新型は、そうした不快な振動を感じることが少なくなりましたし、高速走行時のステアリングフィールもしっかり、かつ、しっとりとした感触です。
「これなら日常のアシとして十分使えるよね」という快適性と実用性を手に入れた、新型ジムニー。とはいえ、それらはあくまで従来モデルと比べてのお話。3速ATで高速巡航時のエンジン回転数が5000回転も当たり前だったJA22型、洗練された見た目とは裏腹に、ピーキーな乗り味だったJB23型と乗り継いだ筆者としては、隔世の感がありますが、流行りのコンパクトSUVや軽ミニバンと比べると、分が悪いと感じられるシーンも少なくありません。
例えば、購入に当たっての比較対象が、最新の軽自動車やコンパクトカーという人は、丁寧に走って12~13km/Lほどという新型ジムニーの燃費は、あとひと声、いや、ふた声は頑張って欲しい! と思うことでしょう。また、広く快適になったとはいえ、軽SUVとして高い評価を受ける同社「ハスラー」ほどの積載性や乗り心地を期待すると、肩を落とすことになるかもしれません。
でも新型ジムニーには「そんなの些細なコトだよ!」と笑い飛ばせる魅力があるのも事実。ジムニーでしかたどりつけない場所、ジムニーでしか経験できない楽しさがありますし、例えハードなアドベンチャーに挑戦しなくても「ドライブついでに林道で冒険してみようかな?」なんて思えるクルマなんて、そうそう存在しません。興味があるという前提つきではありますが「プロツールは敷居が高いし、特殊なクルマなんでしょ?」と、耳学問で腰が引けている人は、そんな先入観など忘れ、まずはアタックしてみることをお勧めします。
<SPECIFICATIONS>
☆XC(AT)
ボディサイズ:L3395×W1475×H1725mm
車重:1040kg
駆動方式:4WD
エンジン:658cc 直列3気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:4速AT
最高出力:64馬力/6000回転
最大トルク:9.8kg-m/3500回転
価格:184万1400円
(文&写真/村田尚之)
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