【UX海外試乗】入魂のSUVが間もなく登場!小さくても走りはしっかりレクサス風味:岡崎五朗の眼

■レクサスクオリティ実現のために高コスト設計を導入

ーーレクサスのブランニューモデルUXは、全長4495×全幅1840×全高1540mmというボディサイズを採用しています。そのサイズ感などから判断する限り、トヨタ「C-HR」(ボディサイズ:L4360×W1795×H1550mm)と多くのメカニズムを共有したクルマと見て間違いないでしょうか?

岡崎:UXは、トヨタが掲げる“クルマづくりや仕事の進め方の新たな方針”である“TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)”に基づいて開発された“GA-Cプラットフォーム”を、レクサス車として初めて採用したモデル。GA-Cは、これまでトヨタの「プリウス」シリーズ、C-HR、「カローラスポーツ」などに採用されてきたので、端的にいえば、UXはC-HRベースのコンパクトSUVといって間違いではないね。

とはいえUXでは、高級車ブランド・レクサスのクオリティを満たすために、“レーザースクリューウェルディング”と呼ばれる特殊な溶接方法を用いたり、構造用接着剤や環状骨格構造といったボディ剛性の強化策を多用したりしている。また、軽量化を目的に、フロントフェンダーやボンネットフード、ドアパネル、骨格などの一部にアルミ材を使っているんだ。

つまり、高級車ブランドらしく、贅沢なまでにコストを投じて、しっかりとした、そして軽量な車体を作り込んできている。その分、遮音性などはレクサスブランドに恥じない仕上がりになっているね。C-HRを始めとするトヨタ車では、コストの問題でさすがにそこまで踏み込めていないんだ。

ーーレクサスにはすでに「NX」、「RX」、「LX」というSUVのラインナップがありますが、UXはそのエントリーモデルという位置づけですね。

岡崎:確かにその通りなんだけど、実はこの先、UXはレクサスブランド全体のボトムラインを支える重要なクルマになる可能性が高い。というのも、今、レクサスのボトムラインを支えているハイブリッドのハッチバック「CT」は、デビューからすでに8年が経とうとしていて、デザイン面でも機能面でもドライビングクオリティの面でも、完全にひと世代前の商品になってしまった。そんなCTを積極的に選ぶ理由を見つけるのは難しいよね。確かにCTは“最も安いレクサス”ではあるけれど、今後は多少価格が高くても、UXを選んでおいた方がいいですよ、と個人的にはいいたいね。

ーーCTと比べて、そこまでUXを推される理由は、どんなところにあるのでしょうか?

岡崎:CTは、プラットフォームもパワーユニットも“非TNGA”の先代プリウスをベースに作られたクルマで、曲がりたがらないし、エンジンは非力だし、今となっては美点は省燃費くらい、というクルマになってしまっている。その点UXは、最新のGA-Cプラットフォームの採用でフットワークは軽快だし、エンジンにはトヨタの先端技術を導入した結果、結構、力強くて燃費も良くなっている。だからCTと乗り比べると、クルマの動きとか、動きから伝わってくる質感というのが、大幅にレベルアップしているのが分かるはずだよ。

もちろん、CTは今後も継続販売されるし、そう遠くない将来に、後継モデルが登場するだろうけれど、それまでの間は、実質的にUXがレクサスのボトムラインを担っていくことになるだろうね。

■エンジンとトランスミッションは初物

ーーUXのパワーユニットに関しては、どのような印象をお持ちですか?

岡崎:UXのパワーユニットは、2リッターの自然吸気ガソリンと、2リッターのハイブリットというラインナップ。いずれも量産車最高レベルの熱効率を誇る“高速燃焼エンジン”で、キビキビとした走りを味わえるのが特徴といえる。

面白いのは、従来のトヨタ/レクサスのハイブリッドカーでは、エンジンは思いっきり燃費志向のチューニングになっていて、動力性能面の足りない部分をモーターで補う、という性格だった。でも、UXの2リッター自然吸気エンジンは、エンジン単体でもしっかりと力強いし、さらにハイブリッド仕様はモーターがアドオンされている分、パワーとトルクがしっかり上乗せされていて、単なる燃費志向の味つけから完全に脱却している。速さや加速感といったパフォーマンスを重視したハイブリッド、という印象だね。

ーーその辺りは、トヨタがヨーロッパ市場向けに打ち出した、ディーゼルエンジン廃止の方針を受けての味つけでしょうか?

岡崎:きっと、そうだと思うよ。これまでの、省燃費で力強いディーゼルエンジンに代わる存在として、新しいハイブリッドをプッシュしたいんだろうね。

ちなみに、UXのベースとなったC-HRは、1.2リッターのガソリンターボと、1.8リッターエンジン+モーターのハイブリッド仕様というラインナップだから、燃費重視ならハイブリッド、走りを重視するならガソリンターボ車、という二者択一を強いられた。でもUXは、細かいチューニングこそ異なるものの、自然吸気エンジンもハイブリッドも基本的には同じエンジンで、エンジン単体でもよく走ってくれるし、ハイブリッドはモーターのサポートがある分、加速などの力強さがアップしている。カタログ数値こそまだ不明だけど、きっと燃費データも良くなっていると思うよ。

ーーちなみに、自然吸気エンジンでもよく走るというのは、何か秘密があるのでしょうか?

岡崎:エンジン自体の出来がいいというのはもちろんだけど、TNGAの思想から生まれた新しいトランスミッション“ダイレクトシフトCVT”が組み合わされているのが大きいね。

これは、1速で発進する時だけメカニカルギヤを使い、走り出したら通常のCVTで変速していくという独自の仕組みで、巧みな制御と相まって、小気味よい加速フィールを実現している。従来のCVTにありがちな、発進時のルーズな印象がほとんどなく、とてもダイレクトに加速していく印象なんだ。

また、メカニカルギヤを組み合わせた結果、CVTのプーリーやベルトを小型化できたため、アクセルを踏んだ瞬間の慣性、つまり、大きなプーリーを「よいっしょ」と回すような重いフィーリングが軽減されていて、とても軽快に回ってくれる。効率を重視するあまり、従来のトヨタのCVTは加速フィールがとてもルーズで、時にそれが不快に感じたけれど、新しいダイレクトシフトCVTは、非常によく仕上がっていると思う。

ーーダイレクトシフトCVTは、トヨタ/レクサス車としては日本初の導入になりますね。やはり、CVTのルーズな変速フィールを嫌っての開発だったのでしょうか?

岡崎:レクサスはUXのことを、実はSUVではなく“クリエイティブ・アーバン・エクスプローラー”と呼んでいる。アーバン(都会)という言葉が盛り込まれていることからも明らかなように、都市部でも無理なく取り回せるということが、UXの掲げるコンセプトのひとつ。だから、ダイレクトシフトCVTで自然なドライブフィールを追求したのだろうし、徹底的に死角の少なさにもこだわっているし、車両感覚もつかみやすい。それらの相乗効果として、とても運転しやすいクルマに仕上がっていたよ。

■最上級セダンにも通じるレクサステイストを実感

ーーUXのフットワークに関して、特筆すべき点はありますか?

岡崎:今回、面白いと思ったのは、「LC」から始まった新世代モデルに通じる“レクサスらしさ”というものが、UXに乗ってとても色濃く感じられたことだね。レクサスが目指す「すっきりと奥深い」というフットワークは、正直、言葉では分かっていたものの、それが実際にはどんな味わいを指しているのか、正直、あまり理解できていなかった。

レクサスのいう「すっきり」としたフットワークとは、例えば、ハンドルを切った時にクルマが向きを変える際、ドライバーの操作に対して応答に遅れがないこと。一方の「奥深い」フットワークというのは、例えば、走行時に後輪の安定性がしっかり感じられて、車体の揺れやロールの収まりがいいことを指しているらしい。

そうした“らしさ”というものに対し、今まではあまりピンと来なかったんだけど、今回、UXに乗ってみて、これまでのLCや「LS」、「ES」のハンドリングフィーリングや応答性と比べた結果、レクサス車全体に通じる一貫性みたいなものを感じとることができた。レクサスが目指している方向性が、おぼろげながら分かってきたんだ。

実はこれって、とても重要なことだと思う。メルセデス・ベンツは「Sクラス」に乗っても「Aクラス」に乗っても「Gクラス」に乗っても、各種操作フィールにねっとりとした印象があって、確固たる“メルセデスらしさ”を感じられる。だから、たまに味つけの異なるメルセデスをドライブすると「こんなのメルセデスらしくないよ」と評価してしまうよね。同様に、BMWやアウディ、ポルシェやフェラーリといったプレミアムブランドには、やはり一貫した世界観や乗り味が、エントリーモデルから最上級モデルに至るまで、きちんと串刺しされていて、各ブランドが掲げる走りの“ブレない軸”みたいなものを、しっかりと感じられるんだ。

実はその走りの軸が、かつてのレクサス車からは感じられなかった。それが今回、新たなボトムラインを担うUXに乗ってみて、なんとなくではあるけれど「これはLSのファミリーだね」という印象を得られたんだ。

どうやらレクサスは、クルマの開発を指揮するチーフエンジニアだけでなく、然るべき立場に就いているすべての開発メンバーたちに、上級モデルのLSやLCをドライブさせて、新世代のレクサスが目指す走りの世界観、方向性をきちんと共有する活動を始めているらしい。

その活動は、LCの開発時から始まったものだけど、LS、ESを経て、最新モデルのUXに至った今、その成果をより鮮明に感じられるようになってきた。UXは、レクサスのボトムラインではあるけれど「LSとステアフィールが似ているな」とか「凸凹のある道を走った時に路面からの入力の収まり方がLCに似ているな」といったことを、感じられるクルマに仕上がっている。

これは、プレミアムブランドとして、大きな前進だと思うよ。最新モデルのUXでここまでカタチにできているのだから、今後、世に出てくるレクサス車には、結構、期待できそうだね。

(文責/&GP編集部 写真/レクサスインターナショナル)


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