■“ひと皮むけた”STIスポーツのインテリア
WRX S4 STIスポーツ アイサイトは、レヴォーグと同じくバーガンディ/ブラックの内装(フロントはレカロ社製シート)となり、サスペンションには、STIチューニングのビルシュタイン製倒立ダンパー&コイルスプリングがおごられます。各部にSTIのロゴやエンブレムが付いた専用部品が用いられ、価格は409万3200円。同じエンジンを積む「レヴォーグ2.0 STIスポーツ アイサイト」の405万円を上回る価格設定ですが、量販を目指すレヴォーグに対し、「WRX S4」はよりスポーツに振った、いわばスペシャルモデルですからね。カタログには、「走り、スタイル、質感すべてにSTIのDNAを込めた最上級モデル。」とうたわれます。
…と、ココまで書き進めておいてなんですが、もしかしたら「スバルのWRX S4って、どんなクルマだったっけ…?」と思われている方、いらっしゃいませんか? 「スバル車のエンジンなら、馬力、トルク、ボア×ストロークの数値までソラでいえるぜ」なんていう熱心なスバルファンの人には信じられないかもしれませんが、WRX S4、世間一般的に、意外とその存在を知られていない気がするんです。
念のためにおさらいしておくと、新世代の2リッターターボを搭載したオートマ(CVT)のWRXが、WRX S4。名機“EJ20”型こと従来型のエンジンに、6速MTを組み合わせたハードバージョンが「WRX STI」ですね。
いち消費者としては「そもそもWRX STIと、WRX S4のSTIバージョンって、紛らわしくない?」なんてイチャモンのひとつもつけたくなります。「STIという同じ単語が、車名とグレード名とに、階層をまたがって使われているのが混乱の元では?」と、甲斐のない分析をしてみたりもしますが、それはともかく、WRX S4 STIスポーツ アイサイトのドアを開けると「おおっ!」、ツートーンのレザー内装がいいですね!!
STIのシンボルカラーであるチェリーレッドもエキセントリックで目を引きますが、やはり広い面積に使うとなると、バーガンディの方が落ち着きます。“RECARO”と“STI”という、ぜいたくなダブルネームが刻まれたフロントシートは、ホールド性が高いだけでなく、クッション感も十分あって、座り心地もいい。
ドアの内張りやシフトレバー回り、アームレストなどにも、バーガンディとレッドステッチが反復され、室内がトータルにコーディネイトされています。
以前、レヴォーグのSTIスポーツに試乗した時にも抱いた感想ですが、スバルのインテリアデザイン、ひと皮むけましたなぁ!
■幅広いクルマ好きにアピールできる可能性を秘める
WRX S4が搭載するエンジンは、WRX STIのショートストーク型とは異なり、スクエアのボア×ストロークを採る新しい“FA20”型ユニット。ターボチャージャーの過給を得て、最高出力300馬力、最大トルク40.8kgf-mを発生し、1550kg(サンルーフ付き)のボディをあっけなくハイスピード域に引き上げる強心臓です。
ターボエンジンのフラットな出力特性と“スポーツリニアトロニック”ことマニュアルモード付きCVTとの組み合わせが相まって、妙な表現ですが、どこかトローンとしたフィールのまま、気づくと思わぬ速度域にまで達してる! うーん、さり気なさ過ぎるハイスペック。もちろん、絶対的な性能は申し分ありません。
足回りは、いかにもスポーティといった感じで締まっていて「本籍:サーキット」とまではいかないけれど、ともすると、山岳地帯へステアリングを向けたくなるSTIチューニング。街乗りが中心だと、時に「タイヤの主張が強いな」と感じる場面もあります。WRX S4は、ベースの「2.0GTアイサイト」が225/45R18、上位グレードの「2.0GT-Sアイサイト」と今回のSTIスポーツ アイサイトは、245/40R18とひとまわり太いタイヤを履くのです。
WRX S4 STIスポーツのステアリングホイールを握っていると、皮肉なことですが「もしかしたら、このクルマからはWRXの冠を外した方がいいのでは?」という気持ちになってきます。エンスージアストの方には「オートマのWRX」というどこかネガティブなイメージを与え、一方、一般ユーザーには「過剰にスポーティ」と受け取られかねないからです。熟成が進んだWRX S4は、すでにモータースポーツの栄光に彩られたWRXの名を活用する段階は過ぎ、ファナティックなスバルファンの枠を超え、より広くクルマ好きにアピールするステージに移っているのではないか、と思うのです。
ご存知のとおり、日本のセダン市場は縮小の一途で、国産車のメインターゲットは、3ボックススタイルに慣れ親しんだ年配の方々。一方、セダンという車型が持つもうひとつの特質=高級車は、おおむね輸入車にさらわれてしまっています。
そんな中、手頃なサイズで高い動力性能を秘めたWRX S4には、もっと存在感を示して欲しい。そのためには、もう少し走りに“演出”があっていいかもしれません。分かりやすく速さを意識させる加速感とか、多少なりとも乗員をおもてなしする乗り心地とか。スポーツセダンに400万円前後のお金を出すとなると、例えば、BMWの「3シリーズ」だって射程に入ってきますからね。かつての、水平対向エンジンの排気干渉から生じる“ドコドコ音”が影を潜めてしまった今、それに変わるなんらかのアピールが必要ではないか、と思うのです。
…バーガンディのレザー内装に囲まれながら、つい贔屓のクルマを引き倒してしまいました!? WRX S4 STIスポーツは、ちょっと古い言葉ですが、ビジネスパーソンズ・エクスプレスとしてクールに使い倒したら、結構カッコいいのではないかと思います。スポーツと上質。このクルマには、今後のスバル車の方向性を指し示す要素が、濃厚に詰まっていると思うのです。
<SPECIFICATIONS>
☆S4 STIスポーツ アイサイト
ボディサイズ:L4595×W1795×H1475mm
車重:1550kg(サンルーフ付き)
駆動方式:4WD
エンジン:1998cc 水平対向4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:CVT(スポーツリニアトロニック)
エンジン最高出力:300馬力/5600回転
エンジン最大トルク:40.8kg-m/2000〜4800回転
価格:409万3200円
(文&写真/ダン・アオキ)
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