■果たしてCOTY辞退は誰のため?
【はじめに】
スズキとスバルの辞退というニュースが大きく報じられた2018-2019のCOTY。個人的には、両社の辞退は本当にユーザーのためになるのか? という疑問を抱き続けている。
世間を騒がせた責任から、スズキとスバルはCOTYのノミネートや受賞を辞退した。その一方で、全国のディーラーでは「これはいいクルマですよ」などと売り文句を並べ、ジムニーやフォレスターを売り続けている。もしCOTYを辞退するくらい反省しているのであれば、それらのクルマを売ること自体が、問題といえるのではないだろうか?
確かに、完成検査に関わる不適切事案は許されるものではない。しかし、問題を起こしたメーカーのクルマであっても、専門家がきちんと評価し、COTYに選ばれたならば、購入を検討している人たちも安心して買うことができるはず。また、すでに両社のクルマを買った人たちも、自分たちの選択は間違いではなかったと確信を持てることだろう。
COTY本来の目的とは、そういうクルマ選びの指標を打ち出すことにあるはずだ。だがいつの間にか、COTYは“業界のお祭り”という立ち位置になっていた。メーカーのため、開発者のため、メディアのため、という意味合いが色濃くなり、残念ながら一部では、“10ベストカー”には10台のクルマではなく、10のメーカーもしくはインポーターに残って欲しい、という忖度が働くようなことも。また“業界のお祭り”という位置づけだけに、メーカーやインポーターの間で「不祥事を起こした時に浮かれたことはしたくない」という心理が働くのも当然のことだ。
とはいえ、専門家が確固たる評価を下すCOTYは、ユーザーに対してしっかりと、クルマの魅力をアピールできる絶好の機会でもあるはず。そう捉えれば、COTYにノミネートされ、もしも各賞を受賞したとしても、それはメーカーにとって決して不謹慎なことではないと思う。
もちろん今回の問題は、メーカーだけの責任ではない。COTYは、その年の10台を選び、その中からベストの1台を選ぶという、本来の意味での“いいクルマ”選びに立ち返るべきだ。今回の波乱を踏まえ、われわれ選考委員やCOTYの運営に携わる実行委員会は、ユーザーにおすすめできるクルマを選ぶ、クルマ選びの指標を打ち出す、といったCOTY本来の目的に、今こそ立ち返らなければならない。
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スバル「フォレスター」
“10ベストカー”に選出されながら、受賞辞退という道を選んだスバル。そのノミネートカーであった新型フォレスターは、確かに先代よりも進化したクルマといえる。例えば、インテリアのデザインや仕上げは格段にレベルアップしているし、コーナリング性能は高くなり、乗り心地も快適になった。だがそのすべてが、個人的には想定の範囲内。あくまで正常進化のレベルにとどまっていて、さほどインパクトを感じられなかったのも事実である。
とはいえ新型フォレスターは、ものすごく真面目に作られた、いかにもスバルらしいクルマともいえる。控えめなルックスは、派手さよりもドライバーの視界確保を優先した結果だし、もっと大きなタイヤを履いた方がカッコ良く見えるにも関わらず、あえてタイヤ径を小さくすることで最小回転半径を抑えてきた。また、リアのコンビネーションランプをできるだけ細長い形状にすることで、荷室開口部の幅を可能な限り広げている。そういった努力や気配りは、確かにインパクトこそないものの、何年か使っていくうちにきっと「ああ、いいクルマだな」というドライバーの実感に繋がっていくはずだ。
そういう点で新型フォレスターは、後方側面の視界を割り切ってまでカッコ良さを追求したトヨタ「C-HR」とは真逆の存在といえる。C-HRのようなクルマ作りも個人的にはありだと思うし、おそらく買った瞬間の喜びは、C-HRの方がフォレスターよりも大きいだろう。しかし、仮に5年乗った後の満足度は、きっとフォレスターの方が上回るのではないだろうか。
ビジュアルインパクトには欠けるし、スペック面での飛び道具もないが、とても真面目に、丁寧に作り込まれた新型フォレスター。そういった、魅力をじわじわと感じられるクルマ作りを徹底したスバルの開発姿勢、設計思想は、とても高く評価できる。それだけに、今回の“10ベストカー”の受賞辞退は、非常に残念でならない。
トヨタ「カローラスポーツ」
個人的には、カローラスポーツと「クラウン」が、今回のCOTYでどのくらい上位にランクインするのか、非常に注目している。カローラとクラウンはトヨタを代表する車種というだけでなく、まさに日本を代表するクルマ。その2台がともに、同じ年のCOTYで“10ベストカー”に選出されたことは、とても意義のあることだ。
1980年代後半から'90年代の始めにかけて、日本の自動車メーカーは世界のライバルに追いつきかけていた。しかし、バブル経済の崩壊で各社の経営は傾き、“失われた10年”という言葉に象徴されるように、いいクルマを作ることよりもコストカットへの注力に追われた。そこに追い打ちを掛けたのが、2008年のリーマンショック。その結果、日本車は、壊れない、広い、安い、燃費がいい、といったことだけしか取り柄のない存在になってしまったのである。
そうした悪循環からようやく脱却し、高く評価できるクルマを、業界トップを走るトヨタがカタチにした。カローラとクラウンという日本を代表する2台を、世界のライバルに対し、再び追いつけ追い越せというレベルにまで高めてきたことは、ようやく日本車もここまで来たか、と感慨深いものがある。
カローラスポーツは、何しろボディがしっかりしている。そしてサスペンションはきれいに動き、ハンドリングも気持ちいいと感じられる正確さ、リニアリティを実現。ドライバーがハンドルを切れば、切った分だけきれいに曲がってくれるから、走らせていてとても気持ちがいい。そういった走りの基本を、開発陣は相当真剣に煮詰めてきた。また、個人的にこれまで嫌いだった、“キーンルック”と呼ばれる個性的なフロントマスクを起点とするトヨタ車のデザインも、新しいカローラスポーツではなかなか板についていて、カッコいいな、と思えるレベルに仕上がっている。
もちろん、壊れない、広い、安い、燃費がいいといったクルマに慣らされた目から見れば、カローラスポーツの室内やラゲッジスペースは狭く、エンジンやトランスミッションといったパワートレーンも、インパクトが希薄だ。だが、1.2リッターのターボエンジンはすごく気持ち良く走れるし、CVT嫌いの僕でも「これならいいね」と思えるほど、トランスミッションはドライバーの意思にレスポンスよく反応してくれる。その走りの出来栄えは、例えば、フォルクスワーゲン「ゴルフ」の購入を検討中の人に対し「比較対象としてこちらにも乗ってみたら?」と提案できるだけのレベルにある。
中には「これはカローラではなく、ヨーロッパ市場向けに作られていた『オーリス』の後継モデルでしょ?」といった声もある。もちろん、実際はその通りなのだが、日本市場において、オーリスのように知名度の低い、海外市場向けに作ったクルマを細々と売り続けるのではなく、日本を代表するカローラのブランド名を掲げて堂々と売ることは、とても意味のあることだと思う。しかも今回のモデルから、トヨタはすべてのグローバル市場において、オーリスの名を捨て、カローラへとネーミング統一を図っている。こうした動きを見ても「カローラをゴルフの真のライバル車にするんだ」という、トヨタの並々ならぬ意気込みが感じられる。1966年のブランド誕生から52年目にして、カローラは真の意味で、世界と渡り合えるベーシックカーに成長したのである。
トヨタ「クラウン」
新しいクラウンは、本当に走りのいいクルマだ。開発責任者の秋山 晃さんによると、新型は「走行中にドライバーの視線を動かさないような挙動を目指した」という。そうしたクルマの動きは、これまで多くの日本車が目指しながらも、なかなか実現できずにいたもの。だが新型クラウンは、それをかなり高いレベルで実現している。
初めて乗った時の試乗コースには、凹凸が激しく、かなりバンピーな路面もあった。しかし、そんな条件の悪い路面でも、新型クラウンはフラットな姿勢を保ちながら走り抜けたのだ。“ゼロクラウン”と呼ばれた12代目から、クラウンは走りに関し、それなりに注力して開発を行ってきたが、新型の走りはこれまでのクラウンの枠を飛び出し、欧州のライバル車と十分渡り合えるだけのレベルに達している。
先代までのクラウンは、操縦安定性をとるなら「アスリート」、乗り心地を重視するなら「ロイヤルサルーン」といった具合に、グレードによっていずれかの要素を諦めなければならず、ユーザーに二者択一を強いるクルマだった。しかし、トヨタが掲げる“クルマづくりや仕事の進め方の新たな方針”である“TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)”に基づき開発された新型は、走りと乗り心地の双方を高い次元で両立。どのグレードを選んでも、走り、快適性ともに満足できるクルマに仕上がっている。
また、見えない部分にまでしっかりコストをかけて作られている点も、新型クラウンの魅力といえる。例えば、ラゲッジスペースのフロアカーペットをはいだ時にしか見えないような部分も、新型クラウンはきちんとパーツ類が成型されていて、仕上げが美しい。その理由を秋山さんに尋ねると「整備士の人たちがタイヤ交換などをする際、『やはりクラウンは違うな』と思って欲しかったから」との答えが返ってきた。そうした、普段、オーナーの目に触れない部分まで、新型は手を抜かずに作り込まれているのだ。
それに比べると先代のクラウンは、ラゲッジスペースに敷かれるカーペットが薄くペラペラで、それをめくると、パネルのすき間を埋めるシーリング材などがむき出し。高級車とはいいつつも、そういった見えない部分ではしっかりコストダウンが図られていた。表面的にはなんとか取りつくろってはいたものの、実際は、思いのほかコスト要求の厳しいクルマであることを、端々で実感させられるクルマだったのだ。
その点、TNGAの採用などで投下コストの効率化が図られた新型は、高級車として然るべき部分にしっかりとコストが掛けられていて、“アラ”が目につくことが少なくなった。そういう意味で新型クラウンは、真の意味で日本を代表する高級車になったといえるだろう。