波乱の予感!2018-2019日本カー・オブ・ザ・イヤー候補車の本当の実力①:岡崎五朗の眼

■三菱自動車4年ぶりの新型車も“10ベストカー”に選出

ホンダ「クラリティPHEV」

“スリーインワンコンセプト”を掲げ、ひとつのモデルでPHEV(プラグインハイブリッド車)、FCEV(燃料電池車)、ピュアEV(電気自動車)という3種類のパワーユニットを搭載できるようにしたクラリティ。ホンダが今後、パワーユニットの電動化を推進していくに当たって、まさに象徴となるであろうクルマである。実際に乗ってみてもよく仕上がっていて、静粛性は高く、乗り心地もいい。またインテリアデザインも、非常にセンス良くまとめられている。

そんなクラリティPHEVの最大の特徴は、国内外のメーカーが市販しているPHEVの中で、バッテリー+モーターだけで走れる距離が一番長いこと。とはいえ、どのくらいの距離をエンジンに頼らず走れるか、というのは、モーターの出力とバッテリー容量に左右されるものであり、バッテリー+モーターで114.6kmも走れるという“EV走行領域”の上限が、果たしてクラリティPHEVのキラーポイントになるかといわれれば、個人的にはさほど訴求力を持たないと考える。近距離はバッテリー+モーターだけで走れて、長距離移動ではエンジンで発電しながら走れるということがPHEVのメリットだとするならば、EV走行領域が広いというのは、さほど誇るべきポイントではないと思うのだ。

例えば、1日の通勤で走る距離を50kmと仮定すれば、EV走行領域が114.6kmに達するクラリティPHEVの場合、丸2日間、充電なしに走れる計算になる。しかしそれを実現するために、多くのバッテリーを積む必要があり、その分、価格は高くなり、重くなってしまった。そうした事実を考えると、クラリティPHEVのアピールポイントを、手放しに褒める気にはなれないのだ。

また、クラリティが掲げるスリーインワンコンセプトのうち、FCEVはまだ一般に市販されておらず、リース販売に限られているし、北米で展開されるピュアEVも、大容量バッテリーを搭載するスペースがないのか、航続距離は130kmにも満たない。つまり、PHEVを除く残りのふたつは、まだ“ものになっていない”と捉えるべきだろう。とはいえ、スリーインワンコンセプトの発想自体は、高く評価できる。今後の進化や発展に期待したいところだ。

 

マツダ「CX-8」

CX-8は、大きくて重く、3列シートを配置するSUVであるにもかかわらず、マツダがこれまで追い求めてきた“人馬一体”のコンセプトや、走りのスムーズなつながりなどを見事に具現している。ブレーキを踏んで、ハンドルを切って、それを戻して、加速して…という走りの一連の動きがきれいに繋がっていて、運転すると走りの上質感や気持ち良さを鮮明に味わえる。

一方、上級グレードにはブラウンやホワイトのレザーをあしらうなど、センスよくまとめられたインテリアでは、3列目のシートにも大人がきちんと座れる空間を確保した点を、高く評価したい。単に「CX-5」のボディを延長し、「近距離であればなんとか座れます」といったレベルの空間でお茶を濁すことなく、北米市場などに展開される大柄なSUV「CX-9」をベースとし、そのシャーシとボディを適度に詰めることで、大人がしっかり座れる3列目シートを成立させている。

フロントマスクを始めとする“魂動デザイン”のテイストには、確かに最近、ちょっと飽きを感じ始めたのも事実である。しかしCX-8は、デザイン面で新たな提案を打ち出したクルマというよりも、3列シートSUVという制約あるパッケージングの中に、これまでのマツダ車らしさをいかに盛り込むか、ということにチャレンジしたクルマだといえる。

3列目のシートにもしっかりと人を座らせるには、3列目席のヘッドクリアランスを確保する必要があり、それを重視し過ぎると、一般的にはルーフラインが真っ直ぐになってスタイリッシュなルックスがスポイルされてしまう。その点マツダは、ルーフラインこそ真っ直ぐな線をキープしながら、その下にあるウインドウのグラフィックを工夫してスタイリッシュに見せるなど、さまざまなアイデアを駆使することで、CX-8をマツダ車らしく見せることに成功している。

 

三菱「エクリプス クロス」

三菱自動車にとって実に4年ぶりのニューモデルとなったエクリプス クロス。デザインは二の次で良好な視界を確保するなど、実直なクルマ作りを目指したスバルのフォレスター。一方、後方側面の視界を割り切ってまでカッコ良さを追求したトヨタのC-HR。そんなライバルたちに対し、リアゲートにダブルウインドウを採用したり、各ピラー類の位置や太さ、角度などを入念に計算したりすることで、エクリプス クロスはデザインと視界=実用性の両方を追い求めた。そういう点においては、真面目一辺倒を貫いたスバルのフォレスターに対し、もっと前へ進もうという意欲が感じられる。

走りにおけるハイライトは、なんといっても同社独自の4WDシステム“S-AWC(スーパー・オール・ホイール・コントロール)”の採用だろう。三菱自動車は「ジープ」に始まり、RVブームの火つけ役となった「パジェロ」、走行安定性とハンドリング性能を両立した「ギャラン VR-4」、WRC(世界ラリー選手権)を制覇した「ランサー エボリューション」と、長年、4駆システムの開発に注力。エクリプス クロスにも、そんな同社の経験とノウハウがしっかりと息づいている。

S-AWCは路面状況などから判断し、必要に応じて多板クラッチを介してリアタイヤへ駆動力を伝える電子制御4WDを基本とし、それをABSや、滑りやすい路面での不安定な動きや車輪のスリップを防ぐ“ASC(アクティブ・スタビリティ・コントロール)”、左右のタイヤの駆動力や制動力をコントロールする“AYC(アクティブ・ヨー・コントロール)”とともに統合制御している。

そのメリットは、滑りやすい路面において顕著に現れる。特に雪道などでは運転しやすく、滑りやすいコーナーでも外側へクルマが膨らまずによく曲がり、オンザレールをキープしてくれる。また、そうした際も電子制御の作動や介入がとても自然で、いかにも縁の下の力持ちといった印象が強いのだ。

このように、エクリプス クロスは非常に完成度の高いクルマではあるものの、今後、ライバルに対して明確なアドバンテージを打ち出すには、いかにして三菱自動車らしさを盛り込んでいくかが課題となりそうだ。“ランエボ”はすでにこの世には存在せず、パジェロも存在感を失ってしまった今、三菱自動車らしさの演出に繋がる何かを見つけ出せるのか? 新たな提案に期待したいところだ。<後編に続く

(文責/&GP編集部)


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