■BMW流のインテリアは賛否が分かれそう
前回、新型スープラのアウトラインについて、現状、分かっている情報をお届けしたが、そうした予備知識を踏まえた上で、いよいよ試乗といこう。
新型スープラのプロポーションは、大手自動車メーカーが手掛ける量産スポーツカーとしては、かなり独特。全長はコンパクトカーのように短いが、対照的に、全幅はかなり広く見え(実際は1.9m弱)、そして低い。キャビンの居住性やラゲッジスペースの広さも意識した、ラグジュアリースポーツカーとは一線を画したクルマであることが直感的にうかがえる。
ドアを開けると、その前後長がかなり短いことに気づく。新型スープラは、リアシートのない2シータースポーツに割り切っているが、だからこそ実現できた小さなドア開口部は、ボディ剛性のアップにも効いていることだろう。また、ドア開口部の下端が後方へ行くにしたがって高くなる点も、ボディ剛性アップのためと思われる。そして、ドアが閉まる瞬間に響く、鈍く低い音は、ドライバーに安心感と信頼を与えてくれる。
シートに座ってまず感じるのは、着座位置がかなり低いということ。これは、低重心化を図るため、という理由も大きいが、ステアリング&シフトレバーとドライバーとの位置関係や、包み込まれるようなインテリアの仕立ても、瞬間的にスポーツカーに乗っていることを意識させる要素となっている。こうした雰囲気作りは、スポーツカーにとってとても重要なことだ。
今回の試乗車はプロトタイプであり、正式なお披露目前ということもあり、インテリアの大部分が布で覆われ、ディテールを目にすることはできなかった。しかし、ステアリングやシフトレバー、ウインカーレバーといった操作系のパーツは露出していたし、ナビゲーションやインフォテインメント系を操作するためのコントローラーにも触れることができた。ひと言でいえば、それらは、慣れ親しんだトヨタの香りを感じさせるもの…ではなく、共同開発したBMW車と共通のもの。またアクセルペダルは、下部を支点にして動くオルガン式であり、シフトレバーもBMWオーナーにとってはお馴染みの電子式だった。
トヨタ車というよりは、どこからどう見てもBMW…。これがうれしいことなのか、そうではないのか、受け止め方は人それぞれだろうが、結果として、新型スープラのインテリアからは、トヨタっぽさが一切感じられない。ドリンクホルダーの作りといった細部まで、見る人が見れば分かる“BMW流”なのである。
ただしメーターパネルは、共同開発車であるBMWの新型「Z4」とは大きく異なる、独自のデザインを採用。新型Z4のそれが、思いっきりデジタルっぽさを意識した意匠に舵を切ったのに対し、新型スープラのそれは、フルデジタル方式でありながら、アナログ風のエンジン回転計を中央にレイアウトした、クラシカルなテイストなのだ。
■重い直6エンジンでもコーナリング性能は抜群
今回の試乗車は右ハンドル仕様だったが、ステアリングコラムの左側に付くウインカーレバー(日本仕様も左側がウインカーとなるようだ)を操作し、コースインする。
新型スープラの加速フィールは、とても気持ちいいものだった。ターボチャージャーを備えた3リッターの直列6気筒エンジンは、低回転域から太いトルクを発生するため、アクセルペダルを踏めばいつでもグイグイ加速してくれるし、回転を上げれば上げるほどパワーが増していく感じで、ついアクセルを踏み込んでしまう。まるで昇天してしまいそうなほど気持ちいい高回転域の吹け上がりは、さすが“ストレート6”といった印象。最高出力はまだ公表されていないが、新型Z4の同エンジンは340馬力を発生しているから、新型スープラの速さと力強さも十分納得できる。
そして何より、耳に届くサウンドが最高に気持ち良かった。車内のドライバーに伝わってくる音は「スピーカーでも演出している」(多田さん)というが、外から聞いていても甲高い音がしっかりと耳に届き、アクセルをオフにした際に排気系から生じる「ババババッ」という破裂音も、イマドキの高性能スポーツカーらしく豪快だ。
このように、新型スープラの加速フィールは確かに素晴らしいが、それはあくまで想定の範囲内。なぜなら、共同開発を行ったBMWの実力を考慮すれば、これくらいの領域には間違いなく到達すると予測できたからだ。
むしろ予想以上だったのは、コーナリング性能である。重いターボチャージャー付きの6気筒エンジンをフロントに積むため、物理の原則から考えれば、曲がる性能、特にハンドルを切ってから車体が向きを変える際の初期の動きは、苦手だろうと予想していた。しかし新型スープラは、驚くほど俊敏に、それでいてスムーズ向きを変えていく。「サーキットなどよりも、コーナーが連続する峠道を走るのが一番楽しいクルマ」と評した多田さんの言葉の意味が、こうした挙動からも感じられた。
また、そこから先の旋回時の安定感や、ハンドルを戻しながら加速していくというコーナーからの立ち上がり時も、動きはとてもスムーズ。あいにく、当日の路面状況はウエットだったが、だからこそ、挙動に唐突感がないことをよく理解できた。「(コーナリング時などの)最後に、クルマがドライバーを裏切らないことが大事」という、多田さんの言葉が脳裏をよぎる。
ちなみに今回は“スタビリティコントロール”機能をオンにしたままドライブしたが、テールスライドと呼ばれる後輪の横滑りを少しは許容してくれるので、電子デバイスが介入し過ぎて違和感を覚える、といった不満は感じなかった。また、サーキットでタイムアタックをしたり、ドリフト走行を積極的に楽しんだりする人は、一般的に、スタビリティコントロールをオフにして走るものだが、新型スープラはその場合も、デバイスの介入が完全にオフになるため、心ゆくまで操ることを満喫できるのだ。
なお、今回の試乗車は、まだ開発中のプロトタイプであり、発売に向け、さらなるブラッシュアップが予定されている。また発売された後も「毎年、バリエーションを追加するなど、改良を重ねて進化させていく」と、多田さんはビジョンを語っている。
■気になる価格は「86オーナーが頑張れば手の届く範囲」
ところで、今回用意されていた試乗車は「最もパフォーマンスの高い仕様」(多田さん)だった。発売後の展開も含め、どのような仕様がラインナップされるのか、気になるところだが、今のところ正式な情報はない。しかし多田さんからは「2リッターのターボエンジンでも十分なトルクが出ている」とか「先日はMT仕様をテストしてきた」といった楽しみなコメントが聞かれたことも、ここに報告しておきたい。
日本での正式発売は、今から半年後の2019年夏頃になるようだ。気になる価格は「(同じく多田さんが開発責任者を務める)トヨタ『86』のオーナーが頑張れば手の届く範囲」(多田さん)だという。ちなみに、86の通常仕様で最も高価なグレード「GT“リミテッド・ブラックパッケージ”」は、325万800円。走行性能を高めるためにさまざまなカスタマイズを施したスペシャル仕様「GR」は、496万8000円である。果たして、どれくらいの価格帯になるのだろうか。
多田さんによると「日々厳しさが増す各種規制など、社会の情勢を考えると、エンジンだけでガンガン走れて、手の届く価格帯に収まる量産スポーツカーは、この新型スープラが最後になるだろう」という。今回の試乗は20分ほどの、まさに“味見”に過ぎなかったが、新型スープラが我々の期待を裏切らないスポーツカーに仕上がっていることを、しっかりと確認できた。それと同時に「最後になるだろう」という多田さんの言葉が、とても印象に残っている。“(価格の)頑張り度合い”によっては、正直、僕も新型スープラが欲しいと思った(完)。
(文/工藤貴宏 写真/&GP編集部、トヨタ自動車)
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