■2019年モデルは“三菱自動車らしさ”がより濃密に
2019年モデルの要となるパワートレーンは、“ツインモーター4WD”という基本構造こそ不変ながら、エンジンの排気量を2リッターから2.4リッターへと拡大した上で、カムプロフィールの変更とバルブタイミング制御により“アトキンソンサイクル”に変更し、低回転域での効率的な発電を可能にしている。また、ジェネレーターの最高出力を10%アップさせ、駆動用バッテリーはバッテリー容量を15%、バッテリー出力は10%向上させ、さらに、リアモーターの最高出力はプラス13馬力となる95馬力へと高めるなど、全面的に見直しが図られている。その結果、EV(電気自動車)領域の拡大やEV時の航続距離の向上(60.8km→65.0km)、EV時の最高速度アップ(135km/h)を実現している。
その進化は乗ると明らかで、アクセルペダルを踏むと、これまで以上にレスポンス良く、クルマが軽くなったのかと錯覚するような力強さを体感できるのに加え、アクセルをかなり深く踏み込んでも、なかなかエンジンが始動しないというEV領域の“粘り強さ”が感じられる。
それ以上に驚いたのは、静粛性の高さ。従来モデルは、EV走行時からいきなり「ウイーン」とうなるエンジンにガッカリさせられたものだが、新型はエンジンが始動しても回転数自体が低い上に、アクセル開度に合わせて回転が上昇するという制御を採り入れることによって、アクセルを全開にしない限り、そうしたうなりがほとんど気にならないレベルとなった。また、エネルギーのマネージメントも進化していて、従来モデルと乗り比べると、リアルワールドでのEV走行可能距離が確実に増えているのを確認できた。
そうしたパワートレーンの進化に合わせ、シャーシ側にも大きく手が加えられている。ボディは、従来モデルでも一部グレードに採用されていた構造用接着剤を、前後ドアとリアゲートの開口部、そして、リアホイールハウスのボディパネル接合部へと塗付範囲を拡大した上で、全グレードに採用。また、直径の拡大&新バルブを採用した新ショックアブソーバーを導入(ビルシュタイン製ダンパーを採用する「Sエディション」は変更なし)したほか、ステアリングギヤ比のクイック化(18.2→15.2)、電動パワーステアリング制御の見直しなどを実施している。
アウトランダーPHEVが採用する車両運動統合制御システム“S-AWC(スーパー・オール・ホイール・コントロール)”は、モーター駆動ならではの優れたレスポンスを活かし、クルマの走行状況や路面μの変化に対し、瞬時に前後のトルク配分を行うのみならず、左右の駆動力配分もコントロールする三菱自動車独自の技術だが、2019年モデルでは、その制御を刷新。ツインモーター4WDの特性をより活かした駆動力制御で、4本のタイヤの性能をバランスよく、最大限に発揮できるセットアップにしている。
また、モーターの特性を活かし、走行条件や路面環境に合わせて選べるS-AWCのモードには、通常使用時の「ノーマル」モード、走破力を高める「ロック」モードに加えて、滑りやすい路面で最適な「スノー」モードと、ワインディングを走る際などに最適な「スポーツ」モードが追加されている。
ちなみにS-AWCとは、ハードの名称ではなく、制御の考え方を意味したもの。簡単にいうと、一般的な4WD機構は、シチュエーションに応じて制御を変える(指示系統はさまざま)が、S-AWCはいろいろな場面を想定し、ひとつの制御で行う(=指示系統はひとつ)ため、より人間の感覚に合わせた制御が可能になるというわけだ。
■ワインディングで「楽しい!」と思える走り
中身に関して、フルモデルチェンジ級の変更を受けたアウトランダーPHEV・2019年モデルだが、その走りの進化は、パワートレーンの進化以上に驚くべきものだった。正直にいうと、「従来モデルはなんだったのか?」と思ってしまうくらいの激変ぶりだ。
まずステアリング系は、従来モデルでは操舵力が重いのに、ドライバーへ伝わってくるインフォメーションが希薄だったが、新型では操舵力が軽くなった上に、インフォメーションがシッカリ伝わってくる。これは、電動パワーステアリングの制御変更だけでなく、ボディ自体がシッカリしたことも大きいと思う。ただし、ステアリングを切った時の特性は、ステアリングギヤ比をクイック化した割には穏やかで、もう少しビシッとした安心感が欲しいところだ。
ハンドリングに関しては、従来モデルの場合、低μ路ではS-AWCの効果こそ実感できたが、オンロードでは典型的なFF(前輪駆動)車のようにフロントタイヤに依存したフィーリングで、いくら“ランエボのDNA”を継承しているといわれても、それを実感することはできなかった。しかし新型は、まるで前後重量配分のバランスが変わったかのように、4輪をより上手に使って曲がっていく。同じコーナーを同じ速度で走ると、従来モデルと比べると明らかにステアリングの舵角が少なくて済む上に、その時のクルマの動きも一体感が増していて、ワインディングを走って「楽しい!!」と思えるレベルに進化している。
これは、基本性能のレベルアップに加え、モーターの特性をより活かすS-AWCの制御を採り入れたことの相乗効果といえる。つまり2019年モデルは、“電動化”と“駆動力制御”のうま味をより実感できる走りに仕上がっているといっていい。
■見た目を変えずとも進化させる方法はある!
アウトランダーPHEV・2019年モデルの走りの味つけは、2タイプが用意される。
標準仕様は、従来モデルでは400万円近いプライスを考えると「ウーン」といわざるを得ない乗り心地とドタバタした足の動きが気になったものだが、新型のそれは、タウンスピードレベルでも足がスムーズに動いている印象があり、路面からのアタリが確実に柔らかくなっていて、結果として、動的質感もレベルアップしている。
一方、スポーティ&プレミアムな味つけのSエディションは、今回、サスペンションの変更こそ受けていないものの、ボディ剛性アップの効果はテキメン。ムダな動きが抑えられて正確さを増したハンドリングと、若干硬めながらもスッキリとした足の動きにより、快適性も高まっている。ちなみにSエディションは、ノーマルモードよりもスポーツモードでドライブした方が、クルマのキャラクターにマッチしていると感じた。
このように、大きく進化したメカニズムや走りに比べると、内外装の変化は少ない。
エクステリアの変更点は、ヘッドライト(ハイビームLEDを新採用)、ラジエターグリル、LEDフォグランプベゼル、フロントスキッドプレート、アルミホイールのデザイン変更と、リアスポイラーの追加程度。
一方のインテリアは、オーナメントパネルやハザードスイッチのデザイン変更、“ダイヤモンドキルティング本革トリム”(上級グレードのみ)の新採用、パワーメーターの表示変更、座り心地やホールド性が引き上げられたフロントシートの導入、USB電源の増設やリアシート送風口の追加など、質感の向上と利便性向上を狙っての変更が中心だ。ちなみに、充電中にエアコン機能を使用可能になったことも、2019年モデルの進化のポイントのひとつだ。
ただし、そうした変更箇所を単体で見ていくと、デザインや質感の向上こそ感じられるものの、車両全体においては、設計年次の古さとのアンバランスさが出てしまっているのも事実。個人的には、インパネ周りやラゲッジスペースの使い勝手などにも手を入れて欲しかったのだが…。
とはいえ今回の改良で、アウトランダーPHEVの商品力は大きくレベルアップしたのは紛れもない事実。日産「GT-R」やトヨタ「86」などと同じように、「見た目を変化させなくても進化させる方法はある」ことを実感させられた。
筆者は以前から、アウトランダーPHEVは“理想の電動化モデル”のひとつと感じていたが、一般の人には、その魅力がシッカリ伝わっていなかったように思う。そういう意味で、パフォーマンスアップのみならず、モータードライブによる走りの良さをより引き立たせるアイデアが多数盛り込まれた今回の改良により、指名買いしたくなる“三菱自動車らしさ”は一段と色濃くなったと思う。
<SPECIFICATIONS>
☆G プレミアムパッケージ
ボディサイズ:L4695×W1800×H1710mm
車重:1900kg
駆動方式:4WD
エンジン:2359cc 直列4気筒 DOHC+モーター
エンジン最高出力:128馬力/4500回転
エンジン最大トルク:20.3kgf-m/4500回転
フロントモーター最高出力:82馬力
フロントモーター最大トルク:14.0kgf-m
リアモーター最高出力:95馬力
リアモーター最大トルク:19.9kg-m
価格:479万3040円
(文/山本シンヤ 写真/&GP編集部)
[関連記事]
【三菱 エクリプス クロス公道試乗】見た目だけじゃない!随所に光る真面目なクルマ作り
【トヨタ プリウスPHV試乗】満充電で68.2kmモーター走行!走りはまさに次世代カー
波乱の予感!2018-2019日本カー・オブ・ザ・イヤー候補車の本当の実力①:岡崎五朗の眼
- 1
- 2