【マークX GRMN試乗】6速MT、6気筒、FR…トヨタにもこんなに楽しいセダンがあった!

■豊田章男社長の肝いりプロジェクトチームが企画・開発

新型スープラは、クルマそのものがGRカンパニーで企画・開発され、展開されることになるといわれているが、実はそうした手法を採るのは、新しいスープラが初めてのこと。GRブランドのクルマとして一般的なのは、通常のトヨタ車をベースに走行性能を際立たせ、“特別なグレード”として位置づけられるカスタマイズ車両だ。

そんなカスタマイズ系のGRモデルには、チューニングレベルの違いで3つのシリーズが存在する。気軽にスポーツドライブを楽しめるエントリークラス「GRスポーツ」は、ベースモデルに対して内外装やサスペンションの変更、そして、比較的軽度のボディ補強などを実施。コンパクトカーの「アクア」や「ヴィッツ」に始まり、「86」や「プリウスPHV」、「プリウスα」、「ハリアー」、「マークX」、そして、ミニバンの「ノア」や「ヴォクシー」など幅広いラインナップを展開している。

GRスポーツの上に位置するのが、操る歓びを日常的に実感できる量産型スポーツモデルの「GR」で、ヴィッツと86にラインナップされている。そして、GRモデルの頂点に立つのが、台数限定生産となる究極のスポーツカー「GRMN」だ。1年ほど前、212馬力を発生する1.8リッターターボエンジンを積んだ高性能な3ドアハッチバック「ヴィッツGRMN」を150台限定で発売したところ、予約が殺到して瞬時に完売。ヴィッツに200馬力オーバーのエンジンを積むなんて、チューニングショップでもなかなかやらない大胆な手法であり、徹底した車体補強など、サーキット走行を前提としたクルマ作りが行われていた。

■スポット溶接の箇所を252カ所も追加

今回紹介する「マークX GRMN」は、その名の通り、GRシリーズの頂点に立つGRMNに追加されたニューモデルだ。この手の話題に明るい人なら「確か以前にも、マークXのGRMNってあったよね?」と気づいたかもしれない。そう、GRカンパニー誕生以前の2015年に、限定100台が即完売したスポーツセダンが、今回、カムバックしたのである。しかも今回は、限定台数を350台に拡大しての発売となる。

マークX GRMNの最大の特徴は、なんといってもトランスミッションだ。エンジンは、318馬力を発生する3.5リッターの自然吸気V6エンジンで、そこにATではなく、6速のMTを組み合わせている。もちろん、一般的なカタログモデルには、MT仕様のマークXなんて存在しない。GRMN仕様だけの、スペシャルな組み合わせなのだ。

前作が完売した後、マークX自体がマイナーチェンジしたこともあり、新型の仕様は、初代モデルから一部変更されている。

メカニズム面では、ベース車に対してスポット溶接の箇所を252カ所も追加し、ボディ剛性を高めているのが目を引く。前作は、ベースモデル比16カ所のスポット溶接増だったから、新型がいかに、ボディ剛性の強化を主眼に開発してきたかがうかがえる。そのほか、“ファイナル”と呼ばれる最終減速比を4.083から3.615に変更してハイギヤード化を実施。さらに、サスペンションのセッティング変更とともに、初期応答が良く乗り心地にも優れる新構造のショックアブソーバーを採用している。

制御系では、アクセルレスポンスをさらに高めているほか、パワーステアリングのセッティングを見直し、操舵時のハンドルの重さを若干軽くすることで、路面とコンタクトする際のフィーリングを良くしている。

さらに見た目も、前作とは異なる。前作では、専用のエアロパーツやカーボンルーフを標準採用していたが、今回はGRスポーツと同じスタイリングとし、カーボンルーフはオプション(27万円)となっている。カーボンルーフは製造ラインでの処理に手間がかかるため、今回、生産台数を増やすに当たって、生産効率を高めるためにオプション化したという。

開発スタッフによると、走りを司るメカニズムを変更した背景には、3つの狙いがあったという。ファイナルのハイギヤード化は「前作は速度の高くない領域を重視し過ぎていたため、新型では適正速度域をやや高めた結果」とのこと。ボディ剛性アップとサスペンションのセッティング変更に関しては「クルマの回答性をより高めるため」。そして、「日常域でも乗りやすいクルマにする」ことを狙って、乗り心地を良くしたサスペンションや、変速操作の忙しさを軽減するハイギヤード化を選択している。

■100年に一度の大転換期に現れたラストサムライ

そんな新型マークX GRMNをサーキットでドライブする機会を得たが、その感想は、楽しいというひと言に尽きる。ほめるべきポイントは多々あるが、中でも、ハイパワーエンジンを搭載するMTのFR車というのは、改めて楽しいものだと実感させてくれた。

コーナーに入っていく際のハンドリングフィーリングは素直でクセがなく、そこからパワーをかけて旋回していくと、スムーズに気持ち良くクルマが曲がり込んでいく。そして、テクニックさえあれば、旋回中にアクセルペダルを踏み込むことで、テールスライドやドリフト走行にも持ち込める。何より、トランスミッションがMTだから、アクセルワークに対する駆動力の伝わり方もダイレクトに感じられる。

「トヨタにもこんなに楽しいセダンがあるということを知ってもらいたい」とは、開発スタッフの言葉だ。そんな彼らの汗と努力の結晶であるマークX GRMNは、個人的にはラストサムライと呼びたい存在である。300馬力オーバーの自然吸気エンジンをMTで操れるFRのセダンなど、今や世界中を見回しても希少であり、誤解を恐れずにいえば、そう遠くない将来、消えゆく存在といえる。

電動化やコネクテッド、自動運転などに注目が集まり「100年に一度の大転換期」を迎えているクルマ業界は、明治維新を控えた江戸時代末期の日本に例えてもいいだろう。そんな時代に突然、姿を現した新型マークX GRMNは、まさに最後の武士といっても過言ではない。そんな、レッドブックに掲載されそうなほどの絶滅危惧種を、あえて今の時代に発売したトヨタのチャレンジ精神には、心から拍手を送りたい。

<SPECIFICATIONS>
☆GRMN
ボディサイズ:L4795×W1795×H1420mm
車重:1560kg
駆動方式:FR
エンジン:3456cc V型6気筒 DOHC
トランスミッション:6MT
最高出力:318馬力/6400回転
最大トルク:38.7kgf-m/4800回転
価格:513万円

(文/工藤貴宏 写真/トヨタ自動車)


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