■たたずまいは60'sのアメリカンスポーツカーそのもの
限定200台が生産・販売されるロックスター。残る台数はすでにひとケタともいわれていますが、実車を見ればそれも納得。ベース車両にオリジナルのボディを架装したモデルの場合、かつてはドアやボンネットの“チリ”がズレていたり、すき間が広かったり、パネルそのもののゆがみが気になったり、なんてクルマが少なくありませんでした。
1968年創業の光岡自動車ですが、同社初のオリジナルカーとして排気量50ccのミニカーを生産・販売したのは、1982年のこと。その後、少量生産のレプリカモデルの製造を手掛けることになりますが、この時代の光岡自動車を知る人は、少ないかもしれません。しかし、’93年になると2代目の日産「マーチ」をベースとした「ビュート」で一躍脚光を浴び、生産規模も一気に拡大。その名を知られるようになりました。その後、初代ロードスターのメカニズムを活用した「ゼロワン」で、運輸省(当時)から型式認定を受け、2006年に発売した「オロチ」では、フレームやエクステリアなど、クルマの大部分を設計・製造するまでになりました。
こうした歩みの中、しっかりとクルマ作りのノウハウを体得してきた光岡自動車ですから、もはやボディパネルの“チリ”が…なんてことは、失礼な話かもしれませんね。実際、ボンネットやトランクフードの造形、前後フェンダーのフィッティングは良好。塗装のクオリティも文句のつけようがありません。
インテリアはというと、丸形3連メーターが備わるダッシュボード回りを始め、造形は見慣れたND型ロードスターを踏襲。一方で、インパネやドアトリムの一部に本革を使用、シートのセンターにはボディカラーに合わせたストライプが入るなど、ちょっとクラシカルなコーディネートとなっています。
ちなみに、「レザーインテリア」(48万6000)と「レザーシート」(31万8600円)はオプションとのことですが、ドライブ中は常に触れたり視界に入ってきたりする部分ですから、60's気分を盛り上げるためにも、ここは迷わずセレクトすべきでしょう。なお今回の試乗車には、そのほか「ヴィンテージタイヤ&ホイールセット」(27万円)、「カラードソフトトップ」(39万9600円)、「カラードAピラー」(6万4800円)などがオプション装着されていました。
■ルックスからは想像もつかない、21世紀のパフォーマンス
さて、程良くタイトなコクピットに収まり、エンジンをスタートさせると、お馴染み“スカイアクティブ-G 1.5”の軽快なサウンドが響きます。試乗車はAT仕様でしたが、動き出してしまえば、ND型ロードスターと全く同じ…かと思いきや、若干ではありますが乗り味が異なります。その理由は、430mm延長された全長、35mm拡大された全幅、これらエクステリアの変更などによる90kgの重量増などが挙げられますが、オプションのヴィンテージタイヤ&ホイールセットを履いていたことも、少なからず影響しているようです。
どこが変わっているの? といえば、ロードスターの軽快な感触を残しつつも、走りとしてはややどっしり、ステアリング操作に対する反応もややおっとり、といったイメージ。予想どおりではありますし、ND型ロードスターに乗ったことがある人なら、ちょっとマイルドな乗り味といえば、なんとなくお分かりいただけるかもしれません。
一方、意外だったのは、タイヤが発するロードノイズでしょうか。ND型ロードスターのタイヤサイズは195/50R16が標準なのに対し、ロックスターのヴィンテージタイヤ&ホイールセット装着車は、専用設計ホイール(WORK製)に、アメリカンマッスルカーではお馴染み、BFグッドリッチラジアルT/Aの195/60R15タイヤを組み合わせています。インチダウンによってタイヤハイトが増し、’60年代っぽい雰囲気を醸し出していますし、街中をクルージングする限り、ハンドリングも「これはこれでアリかな」とは思うのですが、いかんせん、低速域からザラザラ、ゴロゴロといった音が響きます。
ホイールは雰囲気抜群ですから、タイヤだけ現代のスポーツ系やコンフォート系に履き替える、という手もアリかもしれません。「それだと、あのカッコいいホワイトレターがなくなるじゃん」と思われる人もいるかもしれませんが、ペイントキットやタイヤに装着するリボンなども市販されていますから、その辺はご自身の手でカスタマイズするのも楽しいかと思います。
■ロックスターはコルベットの単なるレプリカ、にあらず!?
ロックスターを語る上で避けて通れないのが、エクステリアデザインのこと。ストレートに「コルベットのレプリカか?」といわれれば、ディテールの処理は異なりますし、それは間違い、といえるでしょう。とはいえ、往年のアメリカ車がデザインテーマになっていること、そのモチーフにコルベットのそれを採用していること、などは明らかでしょう。
具体的にいえば、題材となっているのは、’63年から’68年まで生産された、“C2”型と呼ばれる2代目「コルベット・スティング レイ」のコンバーチブル。C2は、アメリカを代表するスポーツカーですし、60'sアメリカンの象徴のひとつでもあります。でも、数あるアメリカ製スポーツカーの中でも、コルベットをモチーフとして選んだことに、考え過ぎだろうと思いつつも、筆者は二ヤリとしたのです。
丸みを帯びた初代のC1型コルベットから、鋭いエッジの効いたスタイルへと大胆な変貌を遂げたC2型コルベットですが、そのデザインは、ゼネラルモーターズのデザイン担当役員だったビル・ミッチェル氏が担当したもの。彼は’50年代末、レーシングカーデザイナーであるピート・ブロック氏とともに、1台のレーシングカー「ミッチェル・スティング レイ・レーサー」を作り上げ、数々のレースに参戦。素晴らしい成績を残しています。
ちなみに、スティングレイとはアカエイのことで、スポーツフィッシングを趣味としていたミッチェル氏ならではのネーミングといえるでしょう。このスティング レイ・レーサーこそ、C2型コルベットのエクステリアに大きな影響を与えた源流のひとつですが、その鋭利さをたたえた独特のデザインはさらなる進化を遂げ、’61年に1台のコンセプトカーとしてデビューを飾ります。
「メイコ・シャーク(マコ・シャーク)」と名づけられたそのコンセプトカーは、人々の注目と絶賛を集めました。C2型コルベットは、このメイコ・シャークがベースとなり、’63年にデビューを飾りますが、実はメイコ・シャークやC2型コルベット(と、それに続くC3型コルベット)のエクステリアを描き、デザインを指揮したのは、ミッチェル氏の補佐役として活躍したカーデザイナーであり、日本人の両親を持つラリー・シノダ氏でした。“60'sアメリカン”の象徴ともいうべきコルベットの姿を描いたのは、ロサンゼルス生まれの日系人だったというのは、なかなか興味深い事実かもしれません。
蛇足ではありますが、筆者は初めてロックスターを見た時、固定式のヘッドライドや、グッと鋭利な前後フェンダー、そして、海を思わせるカラーリングなどから、C2型コルベットよりも、メイコ・シャークの姿が思い浮かびました。
ロックスターを語る上で触れずにはいられないC2型コルベットですが、そんな誕生までの経緯を知ると、単純に「そっくりさん」と切ってしまうのは、早計というもの。もしかしたら、’60年代デザインへの尊敬だけでなく、それを支えた日系人デザイナーへの畏怖の念も込められたデザインなのでは? とも思うのですが、それは勘ぐり過ぎ、かもしませんね。
さて、少し前にSNSでちょっと話題になった一文があります。それは「元ネタがバレて困るのがパクリ、バレないと困るのがパロディ、分かる人にだけ分かればいいのがオマージュ、元ネタの製作者に分かって欲しいのがリスペクト、暗黙の了解がインスパイア」というもの。なるほど、ではロックスターは? といえば、コルベットへのオマージュかな、歴史を振り返ればリスペクトだろうか…などと考えてしまいますが、その辺りは受けとる側の感性によっても左右されますから、ご判断は実車を手に入れたオーナーにお任せいたしましょう。
ともあれ、60'sアメリカンの雰囲気とカッコ良さを、手軽に不安なく、かつ存分に味わえるロックスター。残りはわずかとのことですから、気になる方は、ダッシュで実車をご確認いただくことをおすすめします。
<SPECIFICATIONS>
☆Sスペシャルパッケージ(AT仕様)
ボディサイズ:L4345×W1770×H1235mm
車重:1140kg
駆動方式:FR
エンジン:1496cc 直列4気筒 DOHC
トランスミッション:6速AT
最高出力:132馬力/7000回転
最大トルク:15.5kgf-m/4500回転
価格:518万4000円
(文&写真/村田尚之)
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