■モーターアシストを搭載したAMG初の電動化車両
1980年代の半ば、AMGはメルセデス・ベンツのチューンナップを得意としていたことから、ダイムラー社と協力関係を構築。メルセデス・ベンツへの部品供給を正式にスタートする。以降、高性能モデルを共同開発するようになり、1999年には正式に、メルセデス・ベンツの傘下へ。今では、メルセデス・ベンツのレーシングカーやハイパフォーマンスモデルの開発を手掛けるのと同時に、高性能モデルに冠せられる特別なブランドとなっている。
AMGが手掛ける“AMGモデル”の特徴は、メルセデス・ベンツの高い品質や手厚い保証を保持した上で、サーキット走行を余裕でこなすクルマに鍛え上げられていること。標準仕様よりも排気量が大きく、パワフルなエンジンを積むのがAMG定番のチューニング手法で、向上した動力性能に合わせ、サスペンションやブレーキ、そしてボディ本体も強化されている。見た目こそ標準のメルセデス・ベンツに近いけれど、中身はリアルスポーツカーそのもの、というのがAMGモデルの正体なのだ。
そんなAMGモデルの最新車種が、「Eクラス」に追加されたメルセデスAMG「E53 4マチック+(プラス)」。実はこのモデルには、この高性能ブランドの未来を暗示するような、新しさが詰まっていた。
■モーター→スーパーチャージャー→ターボの3段構え
E53 4マチック+のトピックは、AMGモデル史上初めて、モーターを搭載した電動化車両だということ。昨今、自動車業界では、燃費を向上させて二酸化炭素排出量を減らすための手段として、電動化の動きが急速に進んでいるが、この電動化車両のカテゴリーには、純粋な電気自動車だけでなく、E53 4マチック+のように、ガソリンエンジンにモーターを加えたハイブリッド車も含まれる。何よりも走行性能を重視するAMGまでもが、電動化車両を展開する時代が訪れたのだ。
E53 4マチック+のハイブリッドシステムは、トヨタ「プリウス」などのように、電気だけでの走行を可能とする高出力モーターは組み合わせていない。通称“48V電気システム”と呼ばれる、発電やスターターの機能を兼ねたE53 4マチック+のモーターは、最高出力16kW、最大トルク24.8kgf・mと出力が低く、あくまで、エンジンが苦手とする低回転域のサポートに徹している。同様に、リチウムイオンバッテリーの容量も約1kWhと小さく、コストを抑えたシンプルな機構としつつ、効率よく燃費を向上させる仕組みとなっている。
E53 4マチック+のもうひとつの注目は、モーターに組み合わせるエンジンが、Eクラスにとっては久々の採用となる、直列6気筒エンジンだという点。Eクラスには、1997年まで販売されていたモデルに直列6気筒エンジン車が存在したが、それ以降は、衝突安全性の向上を目的に、6気筒エンジンをV型化(V型にするとエンジンの前後長が短くなり、衝撃吸収ゾーンを拡大できるため衝突安全性の上で有利)。しかし、技術の進化に伴い、直列6気筒でもエンジン長を短くできるようになったことや、排出ガスの浄化性能において直列の方がV型よりも有利に働く面があることから、約20年ぶりに、Eクラスに直列6気筒エンジンが復活したのである。
一方、AMGモデルといえば、そのアイデンティティのひとつといえるのが“大排気量”であり、かつての主力エンジンは、V型8気筒以上というのが常識だった。そのため“直6のAMGモデル”というのは、20年前には存在しなかったのだ。しかし、時代の流れを受け、AMGモデルのエンジンも、今では6気筒が主力になりつつある。つまり、AMGモデルといえども、環境面への配慮が重視されるようになったわけだ。
とはいえ、E53 4マチック+が積む6気筒エンジンは、単に環境性能を追い求めただけのパワーユニットではない。AMGモデルのエンジンにしては“小さめ”の、3リッター直列6気筒とはいえ、ターボチャージャーなどの過給により、最高出力は435馬力に達しており、かなりの俊足だ。
そして、このパワーユニットで特筆すべきは、“レスポンス”と“吹け上がりの爽快さ”が、想定外の出来栄えだったこと。モーターパワーの立ち上がりは、エンジンのそれよりも鋭い、というのはよく知られた話だが、実際、アクセルペダルを踏み込むと、まずはモーターの反応にり、ピュアエンジン車にはマネのできない、俊敏なレスポンスを披露してくれる。
そこから先は、モーターによって過給が素早く立ち上がる電動スーパーチャージャーが働き、さらに回転が高まると、今度はターボへと過給を引き継ぐ。つまり、モーター→電動スーパーチャージャー→ターボという3段構えのパワーアシストが、それぞれが得意とする領域の過給を担当し、スムーズに次の領域へとつなぐ仕組み。その結果、アクセル操作に対するエンジンの反応が良く、滑らか、かつ強烈にパワーを立ち上げる。まるで大排気量の自然吸気エンジンのような、どの領域からでもわき出す強力なトルクが印象的で、意味なくアクセルを踏むのがクセになってしまうほど、爽快でスムーズな加速を味わえる。
■ドライバーの腕次第でドリフトにも持ち込める
そして、このハイブリッドユニットの真骨頂は、なんといっても、高回転域における突き抜けるかのような回転フィールだ。軽快な吹け上がりこそ、他のエンジン形式に対する直列6気筒ならではのアドバンテージだが、E53 4マチック+のパワーユニットは、モーター、電動スーパーチャージャー、ターボによるアシストを前提に、エンジン本体は、吹け上がりの滑らかさをひと際強調した設計になっている。そんな狙いもあって、極上の回転フィールを手に入れているのである。
環境に配慮したパワーユニットというと、“キバを抜かれているのでは?”…というのが、乗る前に抱いた印象だったが、そんな不安は気泡に終わった。E53 4マチック+のパワーユニットは、次世代を見据えて電動デバイスを積極活用することで、これまでにない気持ち良さをも実現した、未来志向のスポーツユニットなのである。
電動化の最大の目的は、なんといっても燃費の向上だ。しかし、モーターの特性をうまく活用し、電動スーパーチャージャーなどの新技術やデバイスを採り入れることで、エンジンのドライバビリティはさらに進化する可能性を秘めている…。今回、E53 4マチック+をドライブし、そんな思いを強くした。
ところで、E53 4マチック+は、パワーユニットだけでなく、4WDシステムも興味深い機構を採り入れている。E53の兄貴分に当たる「E63」が登場するまで、AMGモデルの4WD仕様は、前後トルク配分の比率が固定されていた。しかし、4マチック+と呼ばれる新世代4WDシステムは、前後輪へのトルク配分が、0:100から50:50まで状況に応じて変化する。その結果、単に走行安定性が高いだけでなく、ドライバーの要求により、ドリフトなどのダイナミックな走りも実現してくれるのだ。
AMG初のハイブリッド車でありながら、運転する楽しさはこれまでの純エンジン車以上。新世代のAMGモデルは、また新たな魅力を手に入れたようだ。
<SPECIFICATIONS>
☆E53 4マチック+
ボディサイズ:L4950×W1850×H1450mm
車重:1980kg
駆動方式:4WD
エンジン:2996cc 直列6気筒 DOHC ターボ+スーパーチャージャー
トランスミッション:9速AT
エンジン最高出力:435馬力/6100回転
エンジン最大トルク:53.0kgf-m/1800~5800回転
モーター最高出力:約21.8馬力
モーター最大トルク:24.8kgf-m
価格:1226万円
(文/工藤貴宏 写真/&GP編集部)
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