■初代パサートから始まったVWの4WDシステム
現在では“4モーション”と呼ばれるVWの4WDシステムですが、その源流は、1984年に設定された「パサートヴァリアント シンクロ」。パサートといえば、当時の日本では「サンタナ」のネーミングで知られたモデルでしたが、4WD機構を搭載した“シンクロ”(と、ステーションワゴンのヴァリアント)は、日本市場には導入されませんでした。初代シンクロのメカニズムは、FFと4WDの切り替えをマニュアルで行うパートタイム式。4WD時における前後輪へのトルク配分も、50:50に固定、というものでした。
その後、2代目の「ゴルフ」に用意された「ゴルフシンクロ」(1987年)、追って発売されたSUV仕立ての「ゴルフカントリー」(1991年)が、VWにとっては日本初上陸の4WDモデルとなりました。2代目のゴルフは“ビスカスカップリング”を使ったフルタイム4WD機構を採用しており、自然な乗り味が話題となったものの、日本では比較的短命、少数派のモデルでした。
何しろ当時は、4輪駆動といえばまだ、ヘビーデューティなクロスカントリーモデルがマーケットの主流で、乗用車ベースの生活4駆モデルは少数派。さらに、スパイクタイヤも流通していて、頻繁に雪道を走る人は、クルマの駆動方式うんぬんよりも、そちらを履きましょう、といった時代でした。
■アウトドアレジャーの頼れる相棒
ウインタースポーツを始め、アウトドアレジャーでのアシとして使いたい人にとって、やはり気になるのは、SUVのティグアンTDI 4モーションではないかと思います。ティグアンを試乗したのは特設のクローズドコースで、大きめの穴が交互に掘られたモーグルセクション、アップダウンともに大きな傾斜が設けられたヒルセクションなどが用意されており、クロカン的な性能も試せました。
ティグアンTDI 4モーションといえば、VWの他の4WDモデルとは異なり、路面状況に合わせた設定を呼び出せる“4モーション アクティブコントロール”機構を搭載しています。これは、通常の舗装路に適した「オンロード」のほか、氷雪路用の「スノー」、悪路走行用の「オフロード」、さらに、オフロードモードの機能を任意にオン/オフできる「オフロードカスタム」の4モードを、シフトレバー脇のダイヤル操作だけで選択できます。
ちなみに、ティグアンが搭載する4モーションは、スウェーデンに本拠を置くハルデックス・トラクション社との共同開発による最新仕様で、第5世代の“ハルデックスカップリング”式。通常は、フロント100:リア0という前後トルク配分ですが、必要に応じ、瞬時に前後=50:50まで変化するオンデマンド式を採っています。もちろん、ESC(エレクトロニックスタビリティコントロール)やABSとの連携が図られていて、走行に当たっては特殊な操作など必要ありません。
まずは、スノーモードでモーグルセクションへ。穴の配置や大きさがなかなか意地悪な設定です。ジワリジワリと進みますが、片側の前輪が穴に落ちると、対角線にある後輪が浮き上がってしまいます。確かに、スキー場の駐車場などで、雪が大きく掘れている場所に遭遇することもありますが、タイヤが浮いてしまうようなケースは稀(まれ)。ですから、少々あせってしまいましたが、アクセルペダルにジワリと力を加えると、何事もなかったかのように脱出してしまいます。まるで、乾燥した路面で段差を乗り越えるかのような感覚、といえば、そのイージーさがお分かりいただけるでしょうか。
ならばとばかりに、オフロードモードに切り替え、モーグルセクションへと再突入します。オフロードモードでは、トラクションコントロールの作動が控えめになりますが、アクセルペダルの操作に合わせて空転こそするものの、多少前後にクルマを動かしてやれば、あっけなく脱出していきます。
ヒルセクションに舞台を移しても、4モーションの安心感、安定感は変わらず。上り坂の途中で停止し、再発進を試みますが、空転することなく、まるで舗装路面のようにスタートします。また、歩いて下りるのも要注意、といった感じの滑りやすい下り坂も、“ヒルディセントアシスト”機能により、姿勢を乱すことなく、ジワリジワリと下ります。ここへ来て、SUVを中心に、こうした機能が標準化されつつありますが、その効果を体感してしまうと、非装着車に乗るのをためらってしまうほど。スラロームや円旋回などでもそうですが、ドライバーが意図的にクルマの動きを乱してやろうと思わない限り、走る、曲がる、止まるでドキッとする目に遭うことはなさそうです。
また、ティグアンTDI 4モーションの場合、出来のいい4WDシステムはもちろんですが、見切りがよく取り回しのいいボディと、180mmという最低地上高も、雪道走行で感じる不安の軽減にひと役買っています。
例えば、スキー場に向かう道中では、峠道での対向車とのすれ違いや、凍った駐車場、除雪が行き届かず凸凹のあるリゾートホテルエリアなど、うれしくないシーンに遭遇することが多々ありますが、ティグアンTDI 4モーションなら、そんなシーンも難なくクリアできます。ドライブで気力と体力を消耗せず、現地で存分にレジャーを楽しみたいという人にとって、良き相棒となってくれそうです。
■雪道でのドライブも快適な多用途ツアラー
2018年の秋、「パサート」シリーズのラインナップに加わったパサートオールトラック。そのたたずまいからもお分かりのとおり、ステーションワゴンのヴァリアントをベースに、最低地上高を30mmアップの160mmとし、専用のエクステリア/インテリアパーツを備えたモデルとなっています。
装備の違いにより「TDI 4モーション」と「TDI 4モーション アドバンス」の2グレードが用意されますが、搭載されるエンジンは、最高出力190馬力の2リッター直4ディーゼルターボのみ。組み合わされるトランスミッションは、6速のデュアルクラッチ式AT“DSG”となっています。こちらは、斑尾高原周辺の一般道が試乗コースでした。
路面状況は、斑尾高原周辺は除雪された圧雪路と新雪でしたが、山を下って標高が下がると、解け始めたシャーベット状の雪とアスファルト路面とがミックスしているという塩梅。数キロ走ると状況がガラリと変わる難コースでしたが、まず感心させられたのは、パサートオールトラックのガッチリしたボディでした。
除雪車が通った直後などは、チェーンの跡で細かい凹凸が付いた圧雪路が続く場合がありますが、そんな路面でも、フロア下から小さくコロコロという音が聞こえる程度で、シートやステアリングに振動が伝わってくることはありません。また、やや大きめの段差や轍(わだち)などを通過しても、車体が揺すられることはありませんし、グリップを失ったり、駆動力が抜けたりする感じもありません。実際には、路面状況は刻々と変わっていますし、その変化を明瞭にステアリングへと伝えてきますが、それでもドライバーが不安を感じないのは、4モーションの緻密な制御の成せるワザ、なのでしょう。
また、パサートオールトラックは後席の乗り心地もかなり良好なので、友人や家族といっしょに雪道ドライブへ出掛けることがあるという人にとってもうれしい限り。チェーン跡のある荒れた路面でも、後席乗員のカラダが上下左右に振られることはありませんし、連続するタイトコーナーでも、車高をアップさせたモデルにありがちな、グラっという揺れを感じることもありません。季節を問わず3、4名で長距離を走る機会の多い人は、要チェックの1台といえそうです。
ウインターレジャーへとクルマで出掛ける場合、かつては「雪道ドライブは苦手、不安」という気持ちもいっしょに連れていくものでした。でも、最新のスタッドレスタイヤを履いたVWの最新4モーションとなら、少なくとも不安な気持ちまでごいっしょする必要はなさそうです。
<SPECIFICATIONS>
☆ティグアンTDI 4モーション ハイライン
ボディサイズ:L4500×W1840×H1675mm
車重:1730kg
駆動方式:4WD
エンジン:1968cc 直列4気筒 ディーゼル ターボ
トランスミッション:7速AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:150馬力/3500~4000回転
最大トルク:34.7kgf-m/1750~3000回転
価格:498万9000円
<SPECIFICATIONS>
☆パサートオールトラック TDI 4モーション アドバンス
ボディサイズ:L4780×W1855×H1535mm
車重:1680kg
駆動方式:4WD
エンジン:1968cc 直列4気筒 ディーゼル ターボ
トランスミッション:6速AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:190馬力/3500~4000回転
最大トルク:40.8kgf-m/1900~3300回転
価格:569万9000円
(文&写真/村田尚之)
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