【次ページ】雪国・山形はスバルAWD発祥の地だった!
試乗のメインステージは、山形県の山間部。総移動距離は200kmを超えるロングコースだ。コース途中にある肘折温泉は、気象庁が発表する2000年代の歴代積雪ランキングで2位を記録した豪雪地帯。その降雪量は2018年に記録された445cmだ。そんな山形県におけるスバル車のAWD比率は、実に95.4%。全国平均はもちろん、東北地方の平均より高い比率となっている。
ちなみに、今回の試乗ルート近くにある月山(がっさん)は、スバルが国産初の乗用4WD車を開発する際、盛んに雪上試験を行った場所。東北電力よりリクエストを受け、スバルは1972年、乗用4WD車「レオーネバン4WD」を世に送り出しているが、その開発初期から1990年代にかけて、月山での雪道テストを繰り返していたという。いうなれば、月山や山形エリアは、スバルAWD発祥の地ともいえるのだ。
そんな豪雪エリアでフォレスターを走らせて実感したこと。それは、ドライバーが無理をしない限り、スバルAWD車には何も起きないな、というものだった。
例えば、雪道はタイヤが滑りやすいため、ドライバーはスリップしないよう、細心の注意を払いながらのデリケートな運転操作を求められる。しかし、長年培ってきた技術とノウハウが盛り込まれた、スバル独自の4WDシステム・シンメトリカルAWDを搭載したフォレスターは、滑りやすい路面という運転にとってのマイナス要素を、まるでクルマ側が吸収し、埋め合わせてくれるかのように、ドライバーに特別なことを求めてこない。路面状況に合わせて適切なスピードコントロールさえ行えば、あとは普段と同じように運転するだけで、雪が降り積もった路面を軽々と走り抜けてくれる。
しかも雪上ドライブ時は、降雪量や路面状況といったクルマを取り巻く環境が刻々と変化していくが、フォレスターに乗るドライバーの運転感覚は、どんな状態であってもさほど変わらない。
雪国とはいえ暖冬の影響からか、今回、平地の路面にはほとんど雪がなかった。しかし、ひとたび山を登っていくと、突然、3mはあろうかという積雪が現れ、しかも試乗中には、大雪が降って除雪が追いつかないという過酷な状況も経験した。そんな中で印象的だったのは、雪のない舗装路であろうと、滑りやすい雪上であろうと、フォレスターを運転している自身の運転感覚に、大きな変化がなかったことだ。
一般的なクルマ、特にFF車やFR車であれば、滑りやすい路面ではクルマの挙動が唐突になるため、ドライバーは運転に細心の注意を払う必要がある。その結果、雪のない舗装路と滑りやすい路面での運転感覚の乖離が大きくなり、路面状況が刻々と変化する状況下では、ドライバーは非常に疲れやすくなってしまう。
しかし、フォレスターを始めとするスバルのAWD車は、路面状況の変化の大きさに対して、運転感覚の変化が少なく、雪国でのロングドライブでも疲労感が驚くほど少なかった。これこそ、雪国で200kmものロングドライブに挑んだからこそ実感できた、スバル車ならではの真価といえるだろう。
■ヒーターの温風の出方まで綿密に計算されていた!
今回、雪国・山形でのロングドライブに臨むに当たって、スバルのエンジニアが興味深いことを教えてくれた。それは、雪道で移動する際の車内環境をより良く整えてくれる、スバルのこだわりとでもいうべきものだった。
例えばスバル車の空調は、オートエアコンの吹き出しモード制御を綿密に実施。また、暖房の吹き出し口を足下近くに配置した上で、左右の足に均一の風を送るよう工夫することで、両足をしっかり温められるようになっている。さらに、今回試乗したフォレスターは、前席だけでなく後席にもシートヒーターを装備。ステアリングにはステアリングヒーターを標準装備している。しかもそれらは、一般的なシートヒーターやステアリングヒーターに対して発熱するエリアが広く、単についているだけでなく、より効果的に機能するよう配慮されているのだ。
その上で、付着した雪や氷を解かすよう、ドアミラーにはヒーターが内蔵されているほか、ヘッドランプの雪を解かし、泥などの汚れを除去するヘッドランプウォッシャーも装備。また、他メーカーのクルマではあまり採用例のない、凍ったガラスに固着したワイパーを電熱線で溶かす“ワイパーデアイサーまで、スバル車は積極採用している。
それらは、寒冷地でもしっかりと視界を確保したいという、スバルの真摯なクルマ作りの一端。事実、冬のドライブを想定した開発時のテストでは、車体へどの程度の雪が付着するのか、といった項目も「テスト項目として定められているわけではないが、伝統的にチェックしている」というから恐れ入る。
AWDによる雪上での走破性や走行安定性だけでなく、こうしたドライバーの運転環境や安全性を高める仕掛けまでを含めたトータル性能を、スバルでは“総合雪国性能”と呼んでいるのだとか。そうした開発陣のこだわりが、雪国で愛されるスバル車を生み出し続けてきたのは間違いない。
■雪上をより安心して走らせられるe-BOXER
ところで、今回の雪上ロングドライブでは、2.5リッター自然吸気エンジンを積むグレード「X-BREAK(エックス・ブレイク)」と、マイルドハイブリッド機構“e-BOXER(イー・ボクサー)”を搭載するグレード「アドバンス」という、2種類のフォレスターを試乗。それぞれの雪上性能の違いを比較することができた。
実は両車の違いは歴然で、2.5リッター自然吸気エンジン車でも不満はないものの、e-BOXERを搭載するアドバンスは、さらに好印象だった。
例えば、スタビリティコントロールシステムをオフにしてアクセルペダルをグッと踏み込み、あえてスリップするような状況を作り出した場合、e-BOXERはステアリングに伝わってくるブレが、2.5リッター自然吸気エンジン車のそれと比べて明らかに少ないのだ。さらに、除雪が間に合わず、わだちが深くなった雪道を通過する際なども、e-BOXERはハンドルをとられにくく、ステアリングの修正が少なくて済んだ。
そうした理由はおそらく、モーターによる微妙な制御の方が、エンジンの反応よりも鋭いからだろう。特に低速域において、e-BOXERはドライバーの細かなアクセルコントロールに対してモーターがリニアに反応してくれる結果、パワーやトルクの立ち上がり/収まりにタイムラグがなく、過剰な駆動トルクをタイヤへと伝えにくい特性を持つ。そのため、悪条件の雪上路を走る場合は、クルマの挙動が乱れにくいのだ。
というわけで今回は、雪のない舗装路から豪雪エリアまで、刻々と路面状況が変化する200kmの道のりをドライブしたわけだが、走り終えての印象は「何かを感じた」というよりも、「深く考えないと何も感じられなかったな」というものだった。
しかし、雪国に住む人々にとっては、この“深く考えなければ何も感じられない”というスバルAWD車の特性こそが、大きな価値につながる。滑りやすく、ドライバーも神経をすり減らしてしまいがちな雪道での移動。そんなシーンでは、ドライバーに対して何かを主張してくるクルマよりも、何も考えずに安心してドライブできるクルマの方が、絶対に価値があるに違いない。
<SPECIFICATIONS>
☆アドバンス(ブルー)
ボディサイズ:L4625×W1815×H1715mm
車重:1640kg
駆動方式:4WD
エンジン:1995cc 水平対向4気筒 DOHC+モーター
トランスミッション:CVT(リニアトロニック)
エンジン最高出力:145馬力/6000回転
エンジン最大トルク:19.2kg-m/4000回転
モーター最高出力:13.6馬力
モーター最大トルク:6.6kg-m
価格:309万9600円
<SPECIFICATIONS>
☆X-BREAK(ホワイト)
ボディサイズ:L4625×W1815×H1730mm
車重:1530kg
駆動方式:4WD
エンジン:2498cc 水平対向4気筒 DOHC
トランスミッション:CVT(リニアトロニック)
最高出力:184馬力/5800回転
最大トルク:24.4kg-m/4400回転
価格:291万6000円
(文/工藤貴宏 写真/&GP編集部、SUBARU)
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