新しいTTクーペのドアを開けて運転席に座ると、ちょっと驚きます。センターコンソールに、21世紀のクルマには必須と思われていた大画面のディスプレイが、ない!
その代わり、目の前のメーター周りが、全面液晶パネルになっています。車両情報、オーディオ、走行距離、そしてナビの地図画面など、ドライバーが選択した情報が次々と映し出されます。
“アウディバーチャルコックピット”と名付けられたこの機能、ステアリングホイールのスイッチで操作するだけで、古典的な円形のタコメーターとスピードメーターはたちまち小さくなって両脇に控え、地図情報に場所を譲ります。いうまでもありませんが、クルマの走行に従って地図はスクロールし、その拡大/縮小は、やはりステアリングホイールに設けられたジョグダイヤルを回すだけ。便利です。
市街地の詳細な立体地図の中を、自車マークが走る。それに目をやりながらドライブしていると、自分がバーチャルな世界に迷い込んだかのような、不思議な気分になります。楽しい!
スッキリしたセンターコンソールに目をやると、通常、ズラリと並ぶ空調関係のスイッチ、ダイヤル類がありません。エアコン、温度調整、内外気の切り替えなどは、丸いエアコン吹き出し口の中央に、それぞれ備えられます。
わざわざ専用パーツを開発し、配線やダクトの取り回しを見直して、デザイン、質感ともしっかり仕上げる。オーナーに「オッ!」と思わせるために、その裏でどれだけ苦労していることか。「アウディよ、そこまでやる?」というのが正直なところです。
新型TTクーペのすっきりしたインテリアを眺めていると、初代がデビューした時に盛んに取りざたされた「形態は機能に従う」というフレーズを思い出します。バウハウス的にシンプルなデザインが「実際に使いやすいか?」と聞かれたら、必ずしもそうではないけれど、デザインは単なる表層ではない。いわば意思の表明、価値観の宣言ですから、TTクーペのように自分の美意識、素敵なライフスタイルを声高にアピールしたいクルマ、しかもプレミアムブランドのそれならば、「これくらいやらないとイカン!」ということなのでしょう。
使い勝手とコストを考慮しつつ細かい工夫をコツコツと積み上げる…、という手法とはまた違ったアプローチ。ホント、クルマというのは面白い存在です。
さて、新しいTTクーペについて、簡単にまとめておきましょう。
土台となるプラットフォームは、フォルクスワーゲングループの“MQB”モジュールが使われます。先代までの“ASF”ことアウディスペースフレームは捨てられ、フロアにスチール、ボディ上部とパネルにアルミを用いる構造に変わりました。
ホイールベースは旧型より40mm延ばされ、2505mmに。一方、ボディはわずかに小さく(!)なっています。前後のオーバーハングが短くなって、よりスポーティなフォルムになったわけです。
日本におけるTTクーペのラインナップは2種類。FFの「TTクーペ 2.0 TFSI」(542万円)と、4WDの「TTクーペ 2.0 TFSI クワトロ」(589万円)で、ほかに、オープンモデルの「TTロードスター 2.0 TFSI クワトロ」(605万円)や、2リッターターボをさらにチューンして286馬力の最高出力と38.8kg-mの最大トルクを誇る「TTSクーペ」(768万円)も用意されています。
TTクーペ 2.0 TFSI クワトロを運転して最初に気づくのは、ハンドルが軽いこと。スポーツカーと思って運転すると拍子抜けしますが、スタイリッシュなクーペと考えると、ピッタリです。
車重は1370kgで、先代モデルの同グレードが1400kgでしたから、30kgほど軽量化。そのボディを運ぶターボエンジンのアウトプットは、19馬力と2.0kg-mアップした、最高出力230馬力と最大トルク37.7kg-m。といっても、手に余る感じはありません。低回転域からの太いトルクを活かし、余裕を持って“手軽な速さ”を楽しめます。
ただし、今回の試乗車はオプションの19インチタイヤを履いていて、路面によっては少し乗り心地の硬さが気になる場面も。大事な人を乗せる機会が多いなら、ノーマルの18インチの方がいいかもしれませんね。
見ても、乗っても、クールなTTクーペ。優男も、3世代目になれば本物です!
<SPECIFICATIONS>
☆2.0 TFSI クワトロ
ボディサイズ:L4180×W1830×H1380mm
車重:1370kg
駆動方式:4WD
エンジン:1984cc 直列4気筒DOHC ターボ
トランスミッション:6速AT(デュアルクラッチ式)
エンジン最高出力:230馬力/4500〜6200回転
エンジン最大トルク:37.7kg-m/1600〜4300回転
価格:589万円
(文&写真/ダン・アオキ)
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