■エンジンとモーターとを最適に使い分けるi-MMD
ホンダのスポーツ・ハイブリッド i-MMDが優れているのは、モーターのみで走るEV(電気自動車)走行モードと、エンジンとモーターの双方を活かしたハイブリッド走行モード、そして、エンジンだけで走るエンジン走行モードの3つを、シーンや状況に応じて最適に使い分けているところ。
具体的には、エンジンが苦手とする発進時には、モーターだけを使ってEV走行し、加速・減速を繰り返すようなシーンではエンジンとモーターのいいとこ取りをして走行、そして、エンジンの効率が最も高まる70km/h以上のシーンではエンジンと駆動輪を直結したエンジン走行モードを用います。エンジンとモーターがそれぞれ得意とするシーンを担うことで、燃費効率が高まり、しかも、楽しい走りを実現するのです。
また、ハイブリッド走行時はエンジンを発電機として使い、駆動はモーターで行う“シリーズ式ハイブリッド”としているのも、スポーツ・ハイブリッド i-MMDの大きな特徴。つまり、搭載するモーターの出力を高めれば、エンジンがかかる時間をより短くすることができ、将来的には、フルEVに進化させることも可能なシステムとなっています。実際、ホンダのプラグインハイブリッド車「クラリティPHEV」に搭載されるシステムも、このスポーツ・ハイブリッド i-MMDなのです。
駆動をモーターが担うことのメリットは、燃費向上だけではありません。回転の始まりから最大トルクを発揮することができるモーターは、アクセルペダルの操作に対してリニアに加速します。エンジンで駆動する車では、アクセルを踏む→エンジン回転が上昇する→車体が加速する、という段階を踏まなければならないのに対し、モーター駆動車はドライバーが意図した瞬間に加速できるので、走る楽しさも向上するのです。
ただし、モーターは加速性能に優れる一方、高回転をキープし続けなければならない高速道路での巡行走行などが苦手。逆に、エンジンはある程度回転数が上がる速度域の方が、効率が高まります。そこで、スポーツ・ハイブリッド i-MMDでは、高速道路などの高速巡航時はエンジン駆動とすることで、燃費効率を高めています。この時、エンジンは駆動輪と直結状態となるため、トランスミッションを搭載しなくて済みます。この点も、スポーツ・ハイブリッド i-MMDのメリットといえるでしょう。
■試乗で実感したスポーツ・ハイブリッド i-MMDの実力
現在、スポーツ・ハイブリッド i-MMDは、CR-Vやインサイトだけでなく、ミドルサルーンの「アコード」やミニバンの「ステップワゴン」&「オデッセイ」など、タイプを問わず多くの車種に採用されています。今回はそれらを実際に試乗し、実力を体感することができました。
車体の大きなCR-Vやステップワゴンでは、モーターの駆動力によってスムーズな発進や加速を実感。高速道路では積極的にエンジン走行を行うので巡行性能も高く、エンジン音があまり車内に入ってこないため静か。車内での会話も楽しめます。
車体が軽めのインサイトでは、モーターによるキビキビとした加速を実感しました。アクセルペダルの操作に対してリニアに加速してくれるので、ワインディングのようなルートを走るのも楽しいですね。エンジンの回転数と加速とがリンクしないシリーズ式ハイブリッドの特性に、少しとまどう人もいるかもしれませんが、慣れれば気にならないレベルです。
インサイトの試乗では、計測器を使って実走燃費を計測する燃費チャレンジも行いました。一般道と高速道路とを組み合わせた、45分間ほどで回れるコースを走った結果は、28.88km/L。個人的にはかなり良好な数値だと驚きましたが、同じルートを走った中で、最も燃費が良かったグループのデータは、なんと33.70km/L!。実燃費でこれだけ走ってくれれば、燃料代をかなセーブできそうです。
この驚きのデータをたたき出したドライバーの方に、どのように走ったのかうかがったところ、特に変わったことはせず、普通に走っただけ、とのこと。開発担当の方にも確認したのですが、普通にアクセルを踏んで加速し、赤信号でブレーキを踏み、回生ブレーキを効かせるような走り方をした時に、最も燃費が良くなるようにセッティングしている、とのことでした。
筆者は燃費を意識するあまり、アクセルをできるだけ踏み過ぎないよう意識していたのですが、そんな小細工は必要はなく、普通に走るのが最も燃費がいいというのは、一般のドライバーにとっては朗報といえるでしょう。
■走りだけでなくモーターの製造法も先進的
今回は、スポーツ・ハイブリッド i-MMDに搭載されるモーターの製造ラインも見学してきたのですが、その製造方法はとても先進的なものでした。モーターというと、銅線を巻いてコイルを作るというシーンを想像する人も多いでしょうが、スポーツ・ハイブリッド i-MMDに使われるモーターは、短く角ばった銅線を束ねてスロットに挿入し、反対側にはみ出した部分を互い違いに曲げて接合する、という方法で製造されています。
この手法を採ることで、モーター内の銅線の密度を上げることができ、同じサイズでもトルク密度を1.3倍、出力密度を1.5倍に高めることが可能となったとのこと。また、銅線を巻きつける作り方に比べて、製造スピードも向上しているようです。
ただし、こうした製造法では、72本の銅線をスロットに束ねて挿入し、それを互い違いに結合、その上で、各スロットから露出した銅線の高さがそろっている必要があるなど、精度の高さが求められます。また、スロットから露出した部分は、絶縁するために粉体塗装を施す必要もあるのだとか。高い精度なライン製造技術があってこその作り方であることが分かります。
■バイクでもハイブリッドやEVを展開
4輪だけでなく、2輪でも世界的に有名なホンダだけに、バイクにもハイブリッド車を用意しています。
“原付二種(排気量125cc未満)”クラスのスクーター「PCX」には、エンジン車に加え、ハイブリッド車の「PCXハイブリッド」、フル電動車の「PCXエレクトリック」と3つのバリエーションモデルがそろっていますが(ほかに、排気量150ccの「PCX150」もあり)、今回はその3モデルにも乗ることができました。
その中で最も楽しかったのが、ハイブリッド仕様のPCXハイブリッド。量産バイクとしては世界初のハイブリッド車ですが、ユニークなのは燃費を良くするためだけでなく、走る楽しさを向上させるためにハイブリッド機構を採用していること。残念ながら、ハイブリッドシステムはスポーツ・ハイブリッド i-MMDではなく、セルモーター(ACGスターター)をアシストに活用する、いわゆる“マイルドハイブリッド”車ですが、アクセルを開けた瞬間の加速感が大きく向上しているのを実感しました。
モーターによるアシストが効くのは4秒ほどですが、その間はまさに、極上の加速を味わえます。それもそのはず、エンジンとモーターの最高出力やトルクを足した数値は、ひとクラス上の排気量となるPCX150に匹敵。維持費の安い原付二種クラスでありながら、上位クラスと同等の走りを実現しているのです。
燃費だけでなく、走りの楽しさをも実現させたホンダのハイブリッドシステム。今後、さらなるバリエーションの拡大に期待せざるを得ません!
(文/増谷茂樹 写真/増谷茂樹、本田技研工業)
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