■ジムニーとジムニーシエラの違いはどこに?
ジムニーシリーズのオンロード性能をチェックする前に、まずは軽自動車規格のジムニーと、普通自動車規格・ジムニーシエラの違いをおさらいしたいと思います。
まずは価格から。いきなりお金の話というのも無粋ではありますが、長く付き合うことになる相棒ですから、後悔はしたくありませんよね。ジムニーの上位グレード「XC」のAT仕様は184万1400円。一方、ジムニーシエラの上位グレード「JC」のATモデルは201万9600円。その差は17万8200円ですが、実際には諸費用や税金などもありますから、差額は小さくないかもしれません。
続いて、ボディサイズとエンジンを比べてみましょう。
◆ジムニー XC(AT車)
・全長:3395mm/全幅:1475mm/全高:1725mm
・車両重量:1040kg
・エンジン:直列3気筒DOHCターボ
・最高出力:64馬力/最大トルク:9.8kgf-m
◆ジムニーシエラ JC(AT車)
・全長:3550mm/全幅:1645mm/全高:1730mm
・車両重量:1090kg
・エンジン:直列4気筒DOHC
・最高出力:102馬力/最大トルク:13.3kgf-m
つまり今回の試乗車であるジムニーシエラは、ジムニーに対して155mm長く、170mm幅広く、5mm高いディメンションを採ります。この違いは主に、外装パーツやタイヤなどによるもので、ジムニーの伝統であるラダーフレームやそれに載るボディは、基本的には共通です。つまり、1795mmの室内長、1300mmの室内幅は変わりありません。
また、タイヤサイズはジムニーが175/80R16であるのに対し、ジムニーシエラはグッとワイドなオーバーフェンダーが装着されることもあり、195/80R15へと拡大されています。
数値でみると、ジムニーシエラはジムニーに比べてかなり大型化されていますが、それでも普通乗用車の中ではひと際コンパクト。市街地の狭いコインパーキングなどでも駐車に困ることはありませんし、都市部のパーキングメーターで前後に大きなクルマが停まっていても、難なく駐車できます。
ジムニーシエラは、ワイドフェンダー化によって最小回転半径がジムニー比で大きくなっているのですが、ジムニーの4.8mに対し、シエラのそれは4.9mと、違いはわずか。いわゆるSUVにとって、小回り性能は重要ではあるものの、ボディ形状や駆動系の問題で最小回転半径を小さくできないモデルもありますから、ジムニーシエラのこの数値は立派です。
実際、オフロードを走るプロフェッショナルたちは、ジムニーシリーズの小回り性能の高さを美点として挙げる人たちが多いそうです。ジムニーシリーズはエンジンを縦置きした後輪駆動ベースのクルマであり、シンプルなサスペンション機構などもあって、ステアリングの切れ角を稼ぎやすい構造となっています。ちなみに、リッタークラスのコンパクトカーでも、スポーツ系モデルでは最小回転半径が5mを超えるケースもありますから、ジムニーシリーズの街中での取り回しやすさは、トップクラスなのは間違いありません。
また、街乗りや高速走行といった普段使いを考えると、安全装備の充実ぶりも気になるところ。その点、ジムニーシリーズは、単眼カメラとレーザーレーダーによる衝突被害軽減ブレーキ“デュアルセンサーブレーキサポート”を始め、車線逸脱警報機能、標識認識機能、ハイビームアシストなど、最新の安全デバイスもしっかり備わっています。もはや先進安全装備も一般的に…と思いがちですが、低価格なコンパクトカーでは非装着のクルマや、オプション設定のケースもまだまだ珍しくないことから、ジムニーシリーズは先のフルモデルチェンジにより、価格にふさわしい先進性を手に入れたといえるでしょう。
■街中はもちろん、高速クルーズでも十分な快適性
大きく扱いやすいスイッチやダイヤル、助手席のアシストグリップなどが備わった、ジムニーシエラのツール感あふれるコクピットに収まって、真っ先に感じるのは「広くなったな」ということでしょう。もちろん、ベースは軽自動車規格のジムニーですから、絶対的なスペースでこれを上回るクルマは多数ありますが、先代モデルよりも各ピラーが起きたことで、頭や肩回りのスペースに余裕が生まれました。
正直にいえば、先代の乗用車的なインテリアも嫌いではありませんでしたが、ウインドウやダッシュボード、ドアパネルまでの距離が近く、長時間のドライブではちょっと窮屈に感じることがありました。数値的には、数センチ程度の違いかもしれませんが、ピラーの形状や角度の変更による視覚的な効果は、それ以上といえるでしょう。
さて、テストドライブに出掛けたのは、ジムニーシエラの上位グレード、JCのAT車ですが、エンジンを始動させた後に響くサウンドは、ジムニーと比べるといい意味で、少々控えめ。ジムニーが軽自動車らしい「キーン」という高周波音なのに対し、ジムニーシエラのそれは音質こそ高めですが、「ヒューン」という感じで1オクターブ低く、控えめに感じます。
動き出してからも、その印象は変わらず。ジムニーのエンジンが、回して元気な3気筒ターボであるのに対し、ジムニーシエラが積む4気筒自然吸気エンジンは、サウンドも加速感も控えめに感じます。誤解のないようにいっておくと、軽自動車枠のジムニーも先代以上に低速域から元気に加速しますし、パワー不足を感じることはありません。一方、絶対的なパワーでアドバンテージのあるジムニーシエラは、全域でスムーズかつ、パワー感の盛り上がりが控えめということもあって、気づけば速度が乗っているタイプといえばお分かりいただけるでしょうか。
こうしたキャラクターの違いは、乗り心地にも通じます。頑丈なラダーフレームにゴム製ブッシュを介してボディが載るジムニーとジムニーシエラは、一般的な小型車と比べると上質といいますか、舗装路面ではしっとりとした乗り味です。また、構造的に細かい振動や雑音が伝わりづらいのもメリットで、ザラザラした舗装でも「ゴーゴー」、「ザーザー」といった騒音がキャビンに響くようなことはありません。確かに、コンパクトカーのジャンルにも増えつつある電気自動車やハイブリッドカーに比べると、エンジン音が常時、キャビンに進入してきますから、静粛性は抜群! とまではいいませんが、不快な音や振動はしっかり遮断されています。
また、ジムニーシエラはステアリングフィールもなかなか秀逸で、街中から高速道路、ちょっとしたワインディングでも、スムーズかつ意のままに走る、という印象です。スポーツ系モデルとは異なり、小さな舵角でノーズがスッと向きを変える、というタイプではありませんが、切った分は遅れることなくしっかり向きが変わりますし、切り始めから保持、戻し、という一連の動作の自然な感触は、なかなか好印象といえるでしょう。
ジムニーと比べると、ジムニーシエラは2サイズほどタイヤがワイドということもあり、反応が鈍感だったりバタバタしたりするのでは? また、パターンノイズはどうなの? といった心配を抱いていたのですが、いずれも気になることはありませんでした。ちなみに、フットワークの軽快さという点においてはジムニーに軍配が上がりますが、ジムニーシエラはより乗用車的で落ち着いた感触であったことをお伝えしておきましょう。
■歴代ジムニーシリーズの中でベストの走り
さて、オフロード以外の走りを試すなら高速道路は欠かせない、ということで、片道150kmほどのドライブへと出掛けてみました。想像通りではありましたが、結論からいえば、その走りは歴代ジムニーシリーズの中でベストのものでした。
新型ジムニーのAT仕様は、100km/h時のエンジン回転数が3750回転ほどですが、新型ジムニーシエラのそれは約2900回転とさらに低く、キャビン内の静かさは標準的なコンパクトカーと比べても遜色ないレベルとなっています。
また、クルージングはもちろんですが、高速道路本線への合流や、前走車を追い越す際の加速では、やはりジムニーに比べて約40馬力のアドバンテージを感じさせます。キャラクターが違うといえばその通りなのですが、街乗りやクルージングに限っていえば、踏んで操って楽しいジムニーに対し、踏まずとも楽しくしっとり落ち着いて走るジムニーシエラ、という棲み分けかもしれませんね。
さて、乗り始めこそ「ジムニーと同様に、ジムニーシエラがセカンドカーだったら楽しそうだな」という印象でしたが、1日をともに過ごしてみると「ジムニーシエラ1台で普段使いからロングドライブまでこなせるな」と思うようになりました。中でも「ファーストカーとして使いたい!」、「長距離ドライブもガンガン出掛ける!!」という人には、ジムニーシエラがおすすめ。ジムニーとの価格差をカバーするだけの価値はある、というのが、正直な感想です。
一方で、プロツールを標榜する現状に不満こそありませんが、思いのほか快適な走りを知ってしまうと、“アダプティブクルーズコントロール”やアルカンターラ内装なども選べたらいいのに、なんて思ってしまったのも事実。そんな街乗り派オーナー(予備軍)のリクエストに応えるプレミアム仕様を作るというのは、いかがでしょう、スズキさん?
<SPECIFICATIONS>
☆ジムニーシエラ JC(AT)
ボディサイズ:L3550×W1645×H1730mm
車両重量:1090kg
駆動方式:4WD(パートタイム式)
エンジン:1462cc 直列4気筒 DOHC
トランスミッション:4速AT
最高出力:102馬力/6000回転
最大トルク:13.3kgf-m/4000回転
価格:201万9600円
(文&写真/村田尚之)
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