■ファストバックとセダンとではコンセプトが異なる
新型マツダ3のデザインを語る上で欠かせないキーワードは、“魂動(こどう)”と“引き算の美学”。
マツダ3の、というよりも、マツダ車全体のデザインテーマである魂動とは、獲物をねらう動物のような躍動感を感じさせる、たたずまいを表現した言葉。あたかも、魂が存在するかのような生命感の宿るルックスを、マツダのデザイナー陣は目指しているが、マツダ3はその上で、不要な要素を徹底的にそぎ落とす、引き算の美学を採り入れることで、シンプルかつ上品な美しさを実現。新世代に向けて、マツダ車のデザインを深化させてきた。
マツダ3のボディタイプは、“ファストバック”と呼ばれる5ドアハッチバックと、4ドアセダンの2タイプ。特筆すべきは、それぞれのボディでデザインコンセプトが大きく異なることで、5ドアハッチバックは若々しくアバンギャルドなデザイン、4ドアセダンはコンサバティブな正統派スタイルを目指している。
チーフデザイナーの土田康剛さんが、「常識にとらわれない、色気のある塊」と説明する5ドアハッチバック。中でも、そのルックスを印象深いものとしているのが、大胆なリアピラーだ。
キャビンとボディをひとつの塊にしたかのような意匠は、まさに常識破り。そのベースとなったのは、東京モーターショー2017で公開されたコンセプトカー「魁(かい)コンセプト」で、5ドアハッチバックのデザインは、魁コンセプトのモチーフを活かしつつ、市販車へと昇華させたものといえる。
一方、土田さんは、4ドアセダンのデザインを「凛とした伸びやかさのある、大人のセダン」と説明する。
トランク部分の存在をしっかりと主張させ、ボンネット、キャビン、トランク部が明確に区分けされた、伝統的で落ち着きあるセダンスタイルを作り上げている。
■凝ったボディパネルを実現した開発メンバーの情熱
一般的に、ハッチバックとセダンというふたつのボディスタイルを展開する車種では、いずれかのデザインに違和感を覚えるケースが少なくないが、実はそれは、自動車メーカーの都合によるもの。生産効率を重視する余り、ボディパネルなど多くのパーツを共用しているからだ。そのため、フロントドアはもちろん、リアのドアパネルをも同じ部品としているクルマも少なくない。しかしマツダ3では「そうしたメーカーの都合をユーザーに押し付けるのを止めた」という。だからハッチバックもセダンも、個々のデザインに破綻がないのだ。
しかも驚くべきことに、ハッチバックとセダンの作り分けは、フロントフェンダーにまで及ぶ。さすがに同一車種のハッチバックとセダンは、生産効率の点から、フロントフェンダーには同じ部品を使うというのが常識だ。しかし、マツダ3のハッチバックとセダンにおけるフロントセクションは、ボンネットとグリル、そしてヘッドライトこそ共通だが、バンパーやフェンダーは専用デザインとなっている。
セダンの場合、フロントフェンダーの後端付近にプレスラインが入っているが、ハッチバックにはそれがないのである。そのため自ずと、(一般的には、セダンとハッチバックで共用する)フロントドアは個別のデザインになっているし、リアドアも当然、ハッチバックとセダンとでは形状が異なっている。
その理由を、開発責任者である別府耕太さんは、「ハッチバックとセダンはユーザー層も、ユーザーがクルマに求めるものも大きく違います。なので生産効率というメーカーの都合を押し付けるのではなく、ユーザーに合わせて全く異なる2台のクルマを用意するような気持ちで、ハッチバックとセダンを作り分けました」と語る。
ちなみにルーフラインを見ると、ハッチバックはフロントシートの頭上付近、セダンはリアシートの頭上辺りに頂点が来ている。これは、フロントシートを重視したハッチバックに対し、セダンではリアシートの居住性にも配慮したためだ。
一方、ボディサイドにはいわゆる“ショルダーライン”が存在せず、側面をシンプルな造形で仕上げているのも、デザインにおいて新しさを感じさせる部分。さらに、一般的にクルマのサイドパネルは外側に膨らんだ形状をしているが、マツダ3では逆に、内側へ反っているのが特徴だ。
このサイドパネルは、デザイナーの発想力はもちろんのこと、デザイナーの描いたラインをベースに、粘土を削り出して立体造形を生み出す、モデラーたちの感性とテクニックがあってこその形状。さらに市販化に当たっては、生産部門の技術も要求される。そこで、デザイナーの土田さんは、マツダ3の凝ったボディパネルを実現すべく、試作車を確認するために、幾度となく生産部門へと足を運んだそうだ。
マツダ3の目を惹くデザインは、美しいものを作りたいというデザイナーの思いはもちろんのこと、それを実現しようと努力した設計部門や生産サイドを含めた、開発メンバー全員の情熱の結晶ともいえる。プレミアムカーブランドならいざ知らず、一般的な量産車メーカーでここまで社内の意思統一を図り、デザインにこだわっているのは、世界的に見てもマツダくらいのものだろう。
■アテンザを超えたインテリアのクオリティ
一方、インテリアはどうか? エクステリアはその美しさに驚かされるのに対し、インテリアはその上質感に圧倒される。
ひと目見ただけで、クオリティの高さを直感的に感じられるインテリアだが、その水準は、マツダのフラッグシップセダンである「アテンザ」をも超えている。兄貴分と立場が逆転してしまって大丈夫か? と心配になるほど、プレミアムカーの領域に達している。
先述した別府さんによると、「マツダのラインナップにおけるヒエラルキーは、ユーザーにとっては関係ない事情であり、ユーザーにとってはご自身の愛車こそが、最高のクルマ。だからこそマツダ3は、最高のクオリティを提供しました」という。
特に上質感を感じさせるのは、ダッシュボード周辺。第一の理由は、上質な表面の仕上げにある。ステッチの入ったレザー風ソフトパッドが張られた表面は、見た目も肌触りもよく、上等な仕立て。さらに、ダッシュボードの下半分に添えられたシルバーの加飾パーツが、効果的に質感を引き上げている。
そうした上質感は、単にうわべの要素だけで生まれているものではない。まず、雑味を感じないよう全体をシンプルな造形とした上で、パーツどうしの合わせ目を極力なくし、仕切り線を減らしている。さらには、色や光沢といった、部品どうしの些細な見た目の差も小さくしている。マツダ3のインテリアにおける上質感は、そうした小さなことの積み重ねによって導き出されたものであり、美しさと仕立ての良さを繊細な人間に感じてもらうために、本質から作り込まれているのである。
ほかにも、インパネ周辺の照明の明るさや色をきっちりとそろえ、夜間ドライブ時も上質な空間に仕立てたり、スイッチ類の操作フィールを徹底的に煮詰め、それぞれの操作時に安っぽさを感じない作りこみを行ったりと、こだわりは細部まで徹底している。
近年デビューした「CX-8」や「CX-5」も、デザインは洗練されていて、プレミアム感を感じさせる出来栄えだった。しかしマツダ3は、それらをはるかに超越。さらなる高みへと達している。
<SPECIFICATIONS>
☆ファストバック XD Lパッケージ
ボディサイズ:L4460×W1795×H1440mm
車重:1410kg
駆動方式:FF
エンジン:1756cc 直列4気筒 DOHC ディーゼル ターボ
トランスミッション:6速AT
最高出力:116馬力/4000回転
最大トルク:27.5kgf-m/1600〜2600回転
価格:291万9000円
<SPECIFICATIONS>
☆セダン 20S Lパッケージ
ボディサイズ:L4660×W1795×H1445mm
車重:1350kg
駆動方式:FF
エンジン:1997cc 直列4気筒 DOHC
トランスミッション:6速AT
最高出力:156馬力/6000回転
最大トルク:20.3kgf-m/4000回転
価格:264万9000円
(文/工藤貴宏 写真/&GP編集部)
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