走りがいいのは分かった!ところでトヨタ「スープラ」で一番安い「SZ」は買いなの?

■新型スープラSZとSZ-Rの価格差、その理由?

トヨタにはスープラのほかに、「86」という手頃なスポーツカーも存在する。双方の開発責任者を務めたトヨタ自動車の多田哲哉さんは、「86が登場して以降、『ターボエンジンを搭載した86は出ないのか?』と、ファンから何百回も尋ねられた。新型スープラは、そうしたニーズに応える役目も担っている」という。

その“ターボ付き86”こそ、4気筒ターボを積むスープラ、と考えていいだろう。ターボエンジンは一般的に、自然吸気仕様に比べて出力アップを図れるため、最高速や加速力などを稼ぎやすい。

「飛行機に例えれば、86は練習用のプロペラ機。絶対的な性能は低いけれど、コントロールしやすい上に滑らせて楽しめる。一方、新型スープラは、例えるならジェット機。性能も完成度も高い。腕を上げたら乗りたくなり、しっかり走らせればかなり速く走れる」と、多田さんは双方の違いを説明する。

そんな“ターボ付き86”ことスープラの4気筒モデルには、258馬力を発生する高性能版の「SZ-R」と、197馬力のエントリーグレード、SZとが用意される。価格はSZ-Rが590万円で、SZは490万円だ(ちなみに、6気筒エンジンを搭載する旗艦グレード「RZ」は690万円)。

SZ

SZ-R

「エンジン出力が異なるだけで、100万円もの価格差があるの?」と思う人がいるかもしれないが、実はそれだけではない。SZ-RとSZを比べると、装備の充実度がかなり異なるのだ。

まずシート表皮は、SZは布であり、SZ-Rは本革と“アルカンターラ”と呼ばれる人工スエードの組み合わせ。さらにSZには、シートの電動調整機能やシートヒーターも備わらない。

SZ

SZ-R

また、ナビゲーションやオーディオこそSZにも備わるが、上級グレードとは異なり、オーディオはJBL製のプレミアムタイプではなくなる。さらに、車速を始めとする各種情報をフロントガラスへ投影するヘッドアップディスプレイもSZには非採用と、シンプルな仕立てとなっている。

SZ

SZ-R

加えて、走りに関わる装備もかなり異なる。SZ-Rは18インチのタイヤ&アルミホイールを履くが、SZのそれは17インチだし、SZ-Rに採用される電子制御式ショックアブソーバー“AVS(アダプティブバリアブルサスペンションシステム)”はSZには装備されず、標準的なものが装着される。

SZ

SZ-R

さらには、エンジンの駆動力を左右の後輪へ振り分けるデフ(ディファレンシャルギヤ)も、SZ-Rには電子制御による先進的で凝った仕掛けのものが搭載されるが、SZは一般的なタイプとなっている。

つまり、エンジンパワーを引き下げただけでなく、快適装備や電子制御デバイスも省くことで、“SZ-R比で100万円安い”SZのプライスタグが実現したのだ。人によっては「それで100万円安いならSZは買い得だ」と感じるかもしれないし、「それらが付いているのに100万円アップで収まるSZ-Rはリーズナブルだ」と思うかもしれない。

■走りがいい4気筒モデルはSZかSZ-Rか?

SZ

そこで気になるのは、SZとSZ-Rの走りの違い、だろう。

まず、197馬力のSZに対し、256馬力とパワーが2割以上アップしているSZ-Rのエンジンは、アクセルペダルを踏み込んだ際の加速が、当然のことながら力強い。しかもSZ-Rのエンジンは、高回転域で一段と力強さが盛り上がる上に、シフトアップ/ダウン時に「パン!」、「ババババッ!」といったレーシングカーのような音が耳に届いてくるなど、演出も凝っていて、ドライブしていて気分がアガる。

SZ-R

だからといって、SZのエンジンに魅力がないか、といわれれば、そんなことはない。2リッターターボで197馬力と、現代のレベルとしてやや控えめなスペックながら、それでも速さはかなりのもの。「遅い」なんてことは決してない。むしろ、曲がりくねった峠道を楽しむには、このくらい出力の方がちょうどいい、と思えるほどだ。サーキットでタイムアタックを楽しむといった使い方をしない限り、SZの動力性能でも十分満足できる。

足回りの違いはどうか? コンベンショナルなショックアブソーバーを採用するSZは、6気筒モデルに比べて鼻先が軽い分、グイグイ曲がっていく感覚が強い。コーナリング中、積極的にアクセルを踏み込んでいくと、通常のデフを採用しているせいか、駆動力が抜けるシーンが気になったものの、一般的なスポーツドライブを楽しむ範囲では不満は感じることはないだろう。

ただし、SZ-Rと乗り比べると、路面の段差による突き上げの衝撃吸収に劣るなど、乗り心地が少々悪いのは、SZの気になる部分。これは、サスペンションの違いだけでなく、タイヤの違いによる影響が大きい。SZは、パンクしても一定距離を走れるものの、一般的なタイヤより乗り心地に悪影響を与えるランフラットタイヤを装着しているため、乗り心地の面でSZ-Rより劣っている印象だ。

■490万円で買えるスープラ、SZに向く人とは?

SZ

では、そんなSZは、どんな人に向いているのか?

まずは「できるだけ安く新型スープラに乗りたい人」だ。6気筒エンジンを積むRZに比べて200万円、4気筒エンジンの上級グレードSZ-Rと比べて100万円安いプライスタグは、SZを選ぶ大きな理由となり得る。

さらにSZは「気軽にスポーツカーに乗りたい」という人にもおすすめ。スポーツカーを所有するすべての人が、常時、限界域での走りを楽しむわけではない。個性的なスープラのスタイルを、よりリーズナブルに所有し楽しみたい人にとって、SZは最適解となるはずだ。外観上での上級グレードとの違いは、タイヤ&ホイール程度。それらを好みのモノに交換して乗るのも、アリだ。

しかし、最もSZに向いているのは、「86からのステップアップを果たしたい人」ではないだろうか。86より走りの性能に優れるスープラは、“ひとクラス上のスポーツカー”として乗り換えに適した存在だ。

しかも、86を“イジる”ことを楽しんでいた人にとって、SZは、SZ-RやRZと比べ、チューニングを楽しみやすいグレードといえる。より高度な走りを求め、購入後にサスペンションを交換したいという人にとって、SZ-Rの電子制御サスペンションは不要に思えるだろうし、電子制御ディファレンシャルギヤに関しても、スポーツ走行を楽しむ人が好む“機械式LSD”への交換を前提とするなら、通常のデフギヤの方が好都合だろう。

ちなみにエンジンも、制御コンピュータによって出力差がつけられているだけなので、購入後、サードパーティ製のコンピュータなどでカスタマイズすれば、SZとSZ-Rの差をなくすこともできるはず。そういった、チューニング前提でクルマを買う人にとって、SZはベターな選択肢といえるだろう。

■唯一のネックはトランスミッションか!?

SZ

ところで、新型スープラのトランスミッションについては、不満を抱いている人も多いのではないだろうか。現時点で新型には、ATしか用意されていないのだ。せっかくの高性能スポーツカーだから、「MTで乗りたい」と思っている人も少なくないはず。

その点について、開発責任者の多田さんに尋ねると、MTに関しては「出る」「出ない」の明言こそなかったものの、「MTモデルをテストしている」という回答を得られた。

新型スープラは、パワートレーンをBMWの「Z4」と共用しているが、そちらの欧州仕様には、先日、4気筒モデルにMTが加わった。つまりハードウェアに関し、MTを搭載する障壁はないはずだ。今後、新型スープラにMTが搭載されるか否かは、市場やオーナー予備軍の要望次第、といったところだろう。

<SPECIFICATIONS>
☆SZ(白)
ボディサイズ:L4380×W1865×H1295mm
車両重量:1410kg
駆動方式:FR
エンジン:1998cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:8速AT
最高出力:197馬力/4500回転
最大トルク:32.7kgf-m/1450〜4200回転
価格:490万円

<SPECIFICATIONS>
☆SZ-R(赤)
ボディサイズ:L4380×W1865×H1295mm
車両重量:1450kg
駆動方式:FR
エンジン:1998cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:8速AT
最高出力:258馬力/5000回転
最大トルク:40.8kgf-m/1550〜4400回転
価格:590万円

(文/工藤貴宏 写真/&GP編集部)


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