■ファストバックの後席は見た目の印象ほど狭くない
2018年12月のロサンゼルスモーターショー2018で初公開されたマツダ3。すでに半年以上前から、我々は新型の姿を目にしていることになるが、そのスタイル、中でも、ファストバックと呼ばれる5ドアハッチバックの攻めたデザインは、何度見ても心が躍る。
特徴的なリアピラーの造形はもちろんのこと、左右のヘッドライトをつなぐシグネチャーグリルや、凹状の面で構成された左右のドアパネルなど、そのデザインからは、決して万人ウケをねらわず、あくまで個性を強めるべく格闘した、開発陣の果敢な挑戦が見て取れる。個性が強いため、好き嫌いがハッキリ分かれそうなマツダ3のファストバックだが、このデザインだけで欲しくなる人は、決して少なくないはずだ。
その見た目から、「リアシートが狭苦しいのでは?」という印象を事前に抱いていたが、実際にリアシートに収まってみると、思いのほか狭くない。もちろん、太いリアピラーや小さなリアドア・ウインドウの影響で、閉塞感を感じるのは事実。ファミリーカーとして使うのであれば、それはウイークポイントになるかもしれない。とはいえ、ファストバックの美しいデザインにほれてしまったならば、十分目をつむれるレベルだと思う。
一方、セダンのデザインは、伸びやかなプロポーションの端正なフォルムで、まさにセダンの正統派、といえる美しさ。
ハッチバックとは異なり、リアシートの閉塞感もないから、幅広いユーザーに受け入れられることだろう。
■懸案だった“マツコネ”も大幅にグレードアップ
ドアを開けて運転席に収まると、まずはマツダ3の良好な運転環境に感心させられた。
従来のアクセラに対し、ハンドルやシートの位置を調整できる範囲が拡大されているのがマツダ3のトピックで、シート高を最も下げると、かなり低めのドライビングポジションをとれる。スポーティな運転感覚が好きな人も満足いくポジションだろう。
運転席は、電動調整式はもちろんのこと、手動調整式であっても、座面前端の高さを上下させられるため、より多くのドライバーにフィットする。そしてこのシートは、骨盤をしっかりと支えてくれるためカラダによく馴染み、運転中も姿勢が乱れにくいのが特徴。そのため運転中、姿勢を乱して座り直す、といったことが一切なかったのだ。昨今、自動車メーカーのシート作りはレベルが上がっているが、マツダ3のシートの出来栄えは、かなり秀逸だ。
コックピットにおける日本車のライバルとの最大の違いは、カーナビゲーションなどの操作系がセンターコンソール部に組み込まれていること。日本車のライバルは、いずれもタッチパネル式のカーナビゲーション装着を前提としていて、その操作はタッチパネル(と、ごく一部機能のステアリングスイッチ)に終始する。
しかしマツダ3には、センターコンソールにダイヤルとスイッチ、そしてタッチパッドを組み合わせた、車両と一体開発のインターフェイスが備えられていて、手元を注視しなくても各種機能を操作できる。これは、同クラスの日本車としては唯一であると同時に、アウディなど欧州のライバルと同じ手法。
この辺りを見ても、日本車の同クラスをターゲットに据えるのではなく、欧州のプレミアムブランドと同じ視点でクルマ作りを行っていることがうかがえる。
ダッシュボード上には、従来よりもひと回り大きくなった8.8インチのセンターディスプレイが標準で組み込まれる。ナビゲーション機能は標準搭載されていないものの、地図データが収録されたSDカードをディーラーオプション(5万2919円)で手に入れれば、すぐにナビ機能を使えるようになり、日本車のライバルのように2DINの後付けカーナビを組み込むよりも、お財布に優しい。
そして、これまでネガティブな話題が尽きなかった“マツダコネクト”も、マツダ3では大幅に進化。処理速度、機能、使い勝手のいずれも、一般的なカーナビと同レベルにまで高まっており、誰にでも勧められるだけの性能を手に入れている。
そんなインテリアでなんといっても驚くのは、上質感の高さだ。パネルの表面処理からスイッチの緻密な作り込み、そして、シンプルで雑味のないデザインなど、価格帯がひとクラス上の欧州プレミアムブランドのそれを除けば、断トツの仕上がり。
日本車のライバルの中では、文句なしに最高水準にある。
■過剰な反応を払拭した“通”好みのフットワーク
マツダ3は、パワートレーンが多彩なのも特徴。日本向けには、1.5リッターと2リッターの自然吸気ガソリンエンジンと、1.8リッターのディーゼルターボ、そして、秋に発売予定となる“火花点火制御圧縮着火”という量産車世界初の燃焼方式を採用したスーパーチャージャー&マイルドハイブリッド付き2リッターガソリンエンジン“スカイアクティブX”を用意する。
今回はそのうち、2リッターの自然吸気ガソリンエンジンと、1.8リッターのディーゼルターボを、テストコースでドライブした。
走り出してまず感じたのは、ドライバーの操作に対し、過敏な反応を一切示さないこと。例えば、エンジンだけでなく、シャーシやプラットフォームにも“スカイアクティブ”技術を投入した先代「CX-5」以降のマツダ車は、直進状態からハンドルを切り始めるとかなり機敏に向きを変え、しばしば「初期レスポンスに優れる」と評されるような、分かりやすいスポーティ感を演出していた。
しかし、同様の感覚でマツダ3をドライブし始めたところ、一瞬、面食らってしまった。これまでのマツダ車で感じられたクイック感が消え、「シュン!」といった具合に車両が素早く反応しないのだ。
実はマツダ3では、従来のアクセラに対し、サスペンションやタイヤの味つけを変えたのはもちろんのこと、ステアリングギヤ比まで鈍くすることで、機敏さを抑えたという。鈍くしたからといって、その感覚は決して悪くない。むしろ、過剰な演出を控えめにした分だけクルマの動きが自然になり、より滑らかに反応してくれる印象が強まった。
その上、ドライバーの操作に対し、クルマ側の反応遅れがなく、ハンドルを切っても舵角がピタッと正確に定まるから、旋回中や車線変更時、そしてスラロームのような左右にクルマを振るような動きを試しても、ムダな動きや揺り返しは最小限。
車体の安定感が抜群にいいのだ。しかも、ハンドル修正が少なくて済む分、乗員のカラダが不快に揺れることがなくなり、結果的に同乗者への快適性にもつながっている。
■日本車の常識を打ち破るブレーキフィール
ハンドリング以上に驚かされたのが、マツダ3のブレーキフィールだ。走り始めて最初にブレーキを踏んだ時、正直いってかなりびっくりした。自分がイメージしていたほどにはスピードが落ちず、オーバーに表現するならば「減速が足りなかった」のだ。
しかし、それは誤解だった。一般的に日本車のブレーキは、踏んだ時の“効き感”を重視する余り、ブレーキペダルを踏み込んだ初期段階で、ペダルを踏んだ量以上に減速感が強まる味つけになっている。ただし、それだとドライバーがペダルを踏む力と減速感との関係が一定にならず、踏み始めにはガクッとなりやすく、停車間際では揺り返しが生じる場合がある。つまり、ペダルを踏む量を2倍にすれば制動力も2倍になる、とは限らないのだ。
その点、マツダ3のブレーキは、急激に制動力が立ち上がるのではなく、ブレーキペダルを踏んだら踏んだ分だけ、ドライバーの操作に対してリニアに減速していく印象。初めてひと踏みした際には減速が足りないと感じたが、それは日本車にありがちな“リニアではないブレーキの感覚”に慣れ過ぎていたため。特性を把握して以降は、断然コントロールしやすいと感じるようになり、自然で違和感のない素晴らしいブレーキフィールを堪能できた。
華やかなルックスや、プレミアムブランドに匹敵する上級なインテリアなど、デザイン面では分かりやすさを備えているマツダ3だが、ハンドリングやブレーキといった走りの味つけには、派手な飛び道具を持ち合わせてはいない。とはいえ、人間の感覚に対し、素直で安定したムダのない挙動は、ライバルと比べても完成度が高く、好感の持てるものだった。それは料理に例えるなら、最高の出汁を使って作り上げた味わい深い卵焼き。決して派手さはないけれど“通”には分かる美味しさが、マツダ3の走りには存分に詰まっていた。
<SPECIFICATIONS>
☆ファストバック XD Lパッケージ
ボディサイズ:L4460×W1795×H1440mm
車重:1410kg
駆動方式:FF
エンジン:1756cc 直列4気筒 DOHC ディーゼル ターボ
トランスミッション:6速AT
最高出力:116馬力/4000回転
最大トルク:27.5kgf-m/1600〜2600回転
価格:291万9000円
<SPECIFICATIONS>
☆セダン 20S Lパッケージ
ボディサイズ:L4660×W1795×H1445mm
車重:1350kg
駆動方式:FF
エンジン:1997cc 直列4気筒 DOHC
トランスミッション:6速AT
最高出力:156馬力/6000回転
最大トルク:20.3kgf-m/4000回転
価格:264万9000円
(文/工藤貴宏 写真/&GP編集部)
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