■ATは一気に2段増えて8速仕様に
プジョーの308は、いうなれば“「ゴルフ」のプジョー版”といったところ。フォルクスワーゲンのゴルフと同様、“Cセグメント”と呼ばれるクラスに属し、ボディタイプは5ドアハッチバックと“SW”と呼ばれるステーションワゴンを用意する。
日本車でいえば、ハッチバックは「マツダ3」のファストバックやトヨタ「カローラスポーツ」、スバル「インプレッサ スポーツ」などがライバルで、SWはスバル「レヴォーグ」辺りと同じポジショニング。優れた実用性と運転しやすい車体サイズを兼備した、バランスのいいモデルである。
そんな308の日本仕様は、2018年12月にマイナーチェンジを受けているが、その最大のトピックは、パワートレーンの変更。最新世代の1.5リッターディーゼルエンジンが搭載され、トランスミッションはそれまでの6速ATから一気に2段増え、8速ATへアップグレードされたのだ。
従来の308は、1.6リッターと2リッターという、2種類のディーゼルを設定していたが、新しい1.5リッターディーゼルエンジンはそのうち、1.6リッター仕様のアップデート版となる。2000バールと従来よりもさらに高圧のインジェクションを新採用しているほか、シリンダーヘッドを完全新設計。さらに、フリクションの低減が図られ、新タイプの排出ガス浄化システムも搭載されている。
一般的に、エンジンのパワーやトルクをアップさせると、環境性能を高めることは難しくなるが、新しい1.5リッターディーゼルは排気量を小さくしつつ、10馬力のパワーアップを実現。その上で、“EURO6.2”と呼ばれるヨーロッパの厳しい最新排出ガス規制をクリアしている。こうしたスペックを見ただけでも、志の高いエンジンといっていいだろう。
■スペックではなかなか分からない新ディーゼルの真価
とはいえ、新しい1.5リッターディーゼルが驚くほど好印象だったのは、そうしたパワーアップや排出ガスのクリーン化が理由ではない。一番驚かされたのは、そのフィーリングだ。
ディーゼルエンジンは、コストをかけて徹底的に対策を施した高級車向けのプレミアムタイプを除けば、ガソリンエンジンと比べてディーゼルエンジンらしいノイズが聞こえてくるし、回転上昇の感覚もあらさが目立つ。しかし、プジョーの新しい1.5リッターディーゼルは、そういった部分の仕上がりが上等なのだ。
4気筒のディーゼルエンジンとは思えないほど、音にガラガラした感じがないし、拭け上がりも滑らか。さすがに、メルセデス・ベンツやBMWの6気筒ディーゼルエンジンのように高回転域でパワーが盛り上がり、官能的とまではいかないけれど、ディーゼルエンジンであることを忘れてしまいそうになるほど、静かさとスムーズな回転フィールに驚かされた。
走り出してすぐに「コレは本当にベーシックタイプのディーゼルエンジンなの?」と疑ってしまったほどで、何も聞かされていなければ、給油時に軽油ではなく、ガソリンを入れてしまったかもしれない。そんな心配を抱きそうになるほど、この1.5リッターディーゼルは音と回転フィールが素晴らしい。
かつての1.6リッター仕様と比べ、10馬力のパワーアップを果たした新エンジンだが、最高出力は130馬力に過ぎないから、絶対的な加速力はたいしたことはない。しかし最大トルクは、自然吸気ガソリンエンジン車でいえば3リッタークラスに相当する約30.6kgf-mと強力で、しかもそれを、1750回転という低い回転域で発揮するから、日常域ではとても乗りやすい。
パワフルではないけれど、日常使いには十分なのだ。もしも、これ以上のパワフルさを望むなら、2リッター仕様を搭載する「GT」(177馬力/約40.8kgf-m)を選べばいい。とはいえ、回転フィールなどの洗練度では、新しい1.5リッター仕様の方が上回っている。
クルマ好きやクルマに詳しい人は、得てして、スペックから各車の特性を理解しようとする。しかし、スペック的に目立つ部分が少ない欧州のベーシックなパワートレーンも、実際に触れてみると実に魅力的というのだから、改めてスペックは当てにならないなと感じた。
■SWの広い荷室はアウトドアレジャーにも最適
そんな魅力的な1.5リッターディーゼルエンジンを積む308は、ハッチバックのベーシックグレード「アリュール BlueHDi」であれば、304万9000円で買える。さらに、スポーティな内外装に先進の安全装備を組み合わせた上級仕様「GTライン BlueHDi」のSWであっても、その価格は354万7000円と比較的手頃だ。
特にSWには、もれなく広いラゲッジスペースが備わっているので、キャンプやスキーといったアウトドアレジャーを楽しむ人には、抜群に相性がいいはず。リアシートの背もたれが立ち気味で、座るとちょっと窮屈な感じもするが、実用性と魅力的なパワートレーンを前にすれば、些細なウィークポイントでしかないだろう。
ちなみに308は、先のマイナーチェンジにおいて、パワートレーンの進化に加え、アダプティブクルーズコントロールの新採用やインフォテインメントシステムのApple CarPlay対応など、各種装備を充実させてきた。
前者は、高速道路でのロングドライブにおける疲れを大幅に軽減してくれるし、後者は、スマホを接続してナビアプリを活用することで、高価な純正オプションのカーナビを選ぶ必要がなくなるなど、うれしいメリットが盛りだくさん。欧州車は「後期型の方が前期型と比べて完成度が高い」とよくいわれるが、308の1.5リッターディーゼル仕様は、まさにその典型といえるだろう。
<SPECIFICATIONS>
☆SW アリュール BlueHDi
ボディサイズ:L4600×W1805×H1475mm
車重:1400kg(パノラミックガラスルーフ装着車)
駆動方式:FF
エンジン:1498cc 直列4気筒 DOHC ディーゼル ターボ
トランスミッション:8速AT
最高出力:130馬力/3750回転
最大トルク:30.6kgf-m/1750回転
価格:329万7000円
(文/工藤貴宏 写真/&GP編集部)
[関連記事]
コレなら欲しいぞ!大胆デザインのプジョー「508」がセダンに革命を起こす
CX-8はありふれてるって人に!プジョー「5008」は7人乗りSUVにプラスαの魅力あり
【DS 7クロスバック試乗】確信犯の“悪趣味”はバロック様式からの引用!?:岡崎五朗の眼
- 1
- 2