■モトクロッサー譲りのルックスを持つKLX230
カワサキのKLXと聞くと、オフロードバイク人気が華やかなりし頃、一世を風靡した「KLX250」を思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし残念ながら、KLX250は2016年のファイナルエディションをもって、カワサキのラインナップから消滅してしまいました。
今回、新たに登場したKLX230は、完全なる新設計モデル。エンジンはもちろんのこと、フレームまで一新されたオフロードバイクが新たに市場投入されたことは、オフ車ファンにとってうれしいニュースといえるでしょう。
新時代のオフロードモデルだけに、その車体には、同社のモトクロッサー「KX」シリーズ譲りの造形が各所に採り入れられています。特徴的なのは、タンク前方からシート下までつながる“ロングシュラウド”。これは、ライダーが座るポジションを前後に大きく移動させるオフロードライディングにおいて、継ぎ目をなくすことで移動を容易にする効果があります。
同時に、カワサキのコーポレートカラーであるライムグリーンの面積が広がることで、アグレッシブな印象を生み出していることも見逃せません。ほかにも、モトクロッサーのように跳ね上がったリアフェンダーや、ライダーの前後移動を容易にする水平基調のシートなどもKLX230の特徴。
この辺りのデザインも、KXのイメージを上手く踏襲しています。
■オフロードでも扱いやすい空冷エンジン
1993年に登場したKLX250は、250ccの水冷単気筒DOHCエンジンを搭載し、当時からハイスペックをウリにしていました。
それに比べると、新しいKLX230に搭載されるエンジンは、232ccの空冷単気筒SOHC。最高出力も、250cc時代の24馬力に対して5馬力低い19馬力と、スペックだけを見ると、寂しさを感じる人も多いことでしょう。
ところが、このKLX230のエンジンは、オフロードにおいてとてもトルクフルで扱いやすいことに驚かされます。
オフロード走行において重要なのは、ピークパワーではなく低中回転域でのトルク。タイヤが空転しやすい未舗装路では、いかに高回転域でパワーがあっても、それを路面に伝えることができなければ意味がありません。
かつてKLX250に積まれていたのは、やや高回転寄りのエンジンで、上級者以外には扱いにくい面も多かったのです。その点、KLX230の新設計エンジンは、オフロードで性能を発揮することにフォーカスして開発されたもので、初心者からベテランまで、扱いやすい特性に仕上げられています。
また、エンジンとフレームをセットで開発したことで、エンジン自体の高さを抑え、シートが高くなり過ぎない低重心設計を実現。そのため、ガソリンタンクは上下に分割したものを結合するなど、手間のかかる工法で作られています。
それもこれも、シート前方の高さを抑え、前後の体重移動をしやすくするため。134kgの軽量な車体には、オフロード走行のためのこだわりが詰まっているのです。
■オフロード走行を楽しむのにベストなバランス
誰でもオフロード走行を楽しめること、をコンセプトに開発されたKLX230ですが、オフロードに不慣れな人だと、885mmというシート高に不安を覚えるかもしれません。
とはいえ、実際にまたがってみると、柔らかい前後サスペンションが適度に沈み込むため、足つき性は予想以上に良好。身長175cmの筆者でも、両足のつま先をしっかりと路面に接地させることができました。また、ホイールベースが1380mmと、このクラスとしては短く設定されているため、車体はかなりコンパクト。オフロードでもコントロールしやすいのが特徴です。
実際に走り出してみても、このコンパクトな車体がとても心強く感じます。オフロード走行では、バイクをいかにコントロール下に置いておくか、がとても重要ですが、KLX230は車体のサイズ感が絶妙なため、ちょっとハードな山道にも分け入ってみよう、という気にさせてくれます。
その思いをさらに強くしてくれるのが、前述した空冷エンジン。アクセルを開けると、適度に車体を前へと進めてくれます。予想以上に前へ出てしまったり、回転数が低くてストールしたりすることがないので、安心してコントロールできるのです。
フロントサスペンションは正立式。かつてのKLX250に採用されていた太い倒立式のように、がっしりとした剛性感こそありませんが、このサスペンションの動きがまた絶妙。大きな岩や丸太などに前輪がヒットしても、弾かれるような挙動はなく、衝撃をうまくいなしてくれます。
ブレーキには、昨今の規制に適合させるため、ABSが装備されています。グリップの低いオフロードでは、ABSの介入が早いと、かえって制動距離が伸びる不安もありますが、カワサキがボッシュと共同開発した“デュアルパーパスABS”は、そうした挙動は皆無。未舗装路でも介入してくるタイミングが絶妙で、全く違和感なく走れました。
正直にいうと、オフロードバイクにABSは不要、と考えていたので、これは一番の驚きでした。
■モトクロスレーサー「KLX230R」も同時発売
KLX230のデビューと時を同じくして、ナンバーの付かないクローズドコース専用モデル「KLX230R」も発売されました。こちらは公道を走ることはできませんが、保安部品がない分、115kgと軽量で、サスペンションのストロークも約30mm長くなっています。
今回、このKLX230Rにも試乗することができたのですが、筆者レベルのライダーであれば、一番速く、そして楽しくオフロードを走れるバイクだと感じさせる完成度でした。
シート高は925mmと、KLX230よりも高くなっていますが、乗るとコンパクトに感じられるのは、公道仕様と同様。エンジン出力などのスペックもほぼ同一で扱いやすく、オフロードコースでもマシンをコントロール下に置いておくことができます。「オフロードではピークパワーよりコントロール性の高さが重要」という話をよく耳にしますが、それを実感させてくれます。
近年は、オフロードを走るクロスカントリーレースが人気を集めていますが、このKLX230Rには、そうしたレースに参加してみたいと思わせる魅力があります。また、そうしたレースに興味がなくても、滑りやすくギャップのあるオフロードコースを、バイクをコントロールしながら走るというのは、オンロードとはまた違う楽しさがあるのも事実です。
実際、今回の試乗中も、時間を忘れて夢中でコースをグルグルと走り回ってしまいました。オトナになっても、これほど夢中にさせてくれるマシンは貴重な存在といえるでしょう。
■公道でも光るKLX230の乗りやすさ
最後に、公道でのインプレッションもお伝えしておきましょう。
今回の試乗コースは、クルマの少ない郊外のルートでしたが、こうした道でツーリングを楽しむには、KLX230は最高の相棒といえるでしょう。エンジンパワーこそ特筆するものはありませんが、景色を眺めながらツーリングを楽しむペースには最適。低中速域でのトルクが厚く、気持ちよく走れるので、マシンに急がされず、それでいて非力に感じることなく、バイクに乗るという行為そのものを楽しめます。
また、コンパクトな車体のため、狭い道でUターンしやすいのも美点。気持ちのいい景色を見つけたら、気軽に引き返すことができますし、面白そうな林道を見つけたら、気負うことなく分け入っていけます。いざとなったらいつでも引き返せるので、ちょっとした冒険へとすぐに出掛けられます。
オトナも夢中になれて、いろんなところへ冒険に出掛けたくなるKLX230とKLX230R。オフロードの面白さを知る人はもちろん、その楽しみを知らない人にも、ぜひ体験してもらいたい1台です。この楽しさを知らないままでいるのは、正直いってもったいない!
<SPECIFICATIONS>
☆KLX230
サイズ:2105×835×1165mm
車両重量:134㎏
エンジン:232cc 空冷単気筒 SOHC
トランスミッション:6速MT
最高出力:19馬力/7600回転
最大トルク:1.9kgf-m/6100回転
価格:49万5000円
<SPECIFICATIONS>
☆KLX230R
サイズ:2045×840×1200mm
車両重量:115㎏
エンジン:232cc 空冷単気筒 SOHC
トランスミッション:6速MT
最高出力:19馬力/8000回転
最大トルク:2.0kgf-m/6000回転
価格:51万7000円
(文&写真/増谷茂樹)
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