「トヨタの『ノア』『ヴォクシー』、それに『エスクァイア』も競合相手と見ています」
「エーッ!?」…って感じじゃありませんか? もちろん、ハッチバックやセダンと比較すると割高ですが、日本一売れている身近な存在の“ノアヴォク”と、輸入車のピープルムーバーたるトゥーランとは、ちょっと立ち位置が違うような気が…。
そこでノアの価格をチェックしてみると、たしかにガソリン車の上位グレード(「G」=272万5527円/「Si」=273万9273円)やハイブリッドモデル(「X」=299万6509円/「G」=310万6473円)は、トゥーランと価格帯が重なります。エンジンの排気量や装備が違うので単純比較はできませんが、ノアヴォクと並んでトゥーランが“わが家の次期ミニバン”検討リストに入ってきてもおかしくありません。
一般的なユーザーにとって、今や排気量より重要なチェックポイント…かもしれない“燃費”を見てみましょう。トゥーランのそれは18.5km/L。ノアヴォクのガソリン車が16.0km/L(アイドリングストップ機能付きモデル)、ハイブリッドモデルで23.8km/Lですから、「いい勝負」といっていいんじゃないでしょうか。
「となると、ホンダ『ステップワゴン』や日産『セレナ』もライバルといえるかもしれません」と、VGJのスタッフは言葉を続けます。う〜ん、そうですか。今さらながら、フォルクスワーゲンの、日本社会への浸透度の高さを再認識しました。
ちなみに、2015年度の輸入車ミニバンの中で、フォルクスワーゲンブランドの2車種は約半数(43.8%)のシェアを占めています。シャランが22.0%、トゥーランが21.8%。2016年度は、新型となったゴルフ トゥーランが、さらにその割合を押し上げるかもしれません。
新しいゴルフ トゥーランのボディサイズは、全長4535×全幅1830×全高1640(ルーフレール付きが1660)mm。ノアヴォクより15cm以上短いのに、幅は10cm以上広く、高さは20cm近く低い。いかにも高速移動が多いヨーロッパのミニバンといった感じ。ガッシリしたディメンションですね。
人をたくさん乗せるミニバンなので、何はともあれ、安全装備が充実しています。前走車との車間距離をレーダーで監視、衝突が予想される場合に警告し、場合によっては自動ブレーキまでかけてくれるプリクラッシュブレーキシステム“フロントアシスト”はじめ、事故直前にシートベルトのテンションを上げて乗員の体をシートに密着させる“プロアクティブ・オキュパント・プロテクション”、事故後に自車が10km/h以下に減速するまでブレーキをかけ続けてくれる“ポストコリジョンブレーキシステム”などを、全グレードに標準装備しています。
エアバッグの数は、サイドウインドウ全体をカバーするカーテンエアバッグを含め、なんと9つ。これらにより、新型ゴルフ トゥーランは“2015ユーロNCAP”で最高(5ツ星)の安全評価を得ているんです。
チャイルドシートが必要な子供を持つ家族にうれしいオプション装備が、上位2グレードで装着可能な“インテグレーテッドチャイルドシート”でしょう。2列目の左右シートの座面が引き上げ式になっていて、必要な時に“チャイルドシート化”できる仕組みです。ボルボ車で見たことがある人も多いかもしれませんね。
新しいゴルフ トゥーランを前にして「こなれたなァ」と思わされたのが、シートアレンジの簡便さ。ストラップを引いたり、レバーを操作したりするだけで、サードシートもセカンドシートもパタパタと倒れ、広大なフラットスペースが出現します。ベーシックなトレンドラインを除く上位グレードは、助手席の背もたれも前に倒せるので、サーフボードのような長尺物も載せられます。
小ぶりな独立シートが横に3つ並んだセカンドシートは、かつての“重厚な”取り外し式ではなくなりました(いかな大柄な人が多いドイツ人といえど、腰痛を気にしながらシートを外すのは遠慮したかった?)。一方、スライド量は40mm増え、最大200mmまで前後調整が可能に。もし隣の人の肩が気になるなら、自分のシートをこぶしひとつ分ほど前に出せばいいのです。
スムーズなシートアレンジ実現のためか、はたまた軽量化の努力ゆえか、全体に軽いつくりになったセカンドシートですが、膝前、頭上とも必要十分なスペースがあって、快適。良好な居住空間に加え、新型には2列目以降のスペースの空調を独自に管理する操作スイッチが設けられました。これで、ドライブ中に前席の人に「暑い!」「寒い!!」と訴えずにすむわけです。
3列目シートに乗り込む時は、セカンドシートのショルダー部にあるレバーを引くだけ。シート全体が前方にスライドしながら背もたれが前に倒れるので、楽にアクセスできます。“日本車的な親切装備”に感心しつつ足元を見ると、ずいぶん武骨なレールが使われていて、“ドイツ車的重厚感”を発見した気分になれます。
サードシートは座面が低いので、大人なら膝を折って体育座りに近い姿勢を強いられます。短距離を移動するための一時的な使用、または子供用と割り切った方がいいでしょう。それでも、2名分のシートが備わるのはありがたいことです。
ステアリングホイールを握って走り始めれば、硬めの足回りと確実性のあるシュアなハンドリングが“いかにもドイツ車”なフィーリング。国産ミニバンのようなおもてなし感は希薄…というか皆無ですが、質実剛健。長距離の移動を含めて酷使する向きには、むしろ頼もしいはずです。
ただ、ドライバーの視界にボンネットが入ってこないので、車両感覚はつかみにくいかも。細かい街路などでは、ちょっと気を遣うかもしれません。この辺は慣れの問題でもありますが…。
新型ゴルフ トゥーランの心臓部は、ターボで過給する1.4リッターの直噴エンジン。旧型比プラス10馬力の最高出力150馬力と、同3.1kg-m増しの最大トルク25.5kg-mを発生します。
トゥーランの車重は、同じ排気量の「ゴルフ TSI ハイライン」より240kg重い1560kgですから、動力性能ではその分、及びません。でも、1.2リッターターボ(105馬力/17.8kg-m)を搭載する「ゴルフ TSI トレンドライン」「同コンフォートライン」には(数値上は)負けていませんから、このクラスのミニバンとして十分以上の性能ですね。
絢爛豪華な国産上級ミニバンと比べると、内外装とも少々素っ気ない印象の新ゴルフ トゥーランですが、可否の判断を下すのは、実際に試乗してからでも遅くありません。新型トゥーランに乗れば、わざわざ輸入車を選ぶ理由、少なくともそのヒントは見い出せることでしょう。
<SPECIFICATIONS>
☆TSI トレンドライン
ボディサイズ:L4535×W1830×H1640mm
車重:1560kg
駆動方式:FF
エンジン:1394cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:7速AT(デュアルクラッチ式)
エンジン最高出力:150馬力/5000〜6000回転
エンジン最大トルク:25.5kg-m/1500〜3500回転
価格:284万7000円
(文&写真/ダン・アオキ)
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