エンジンは2.0リッターDOHCの4気筒ガソリンターボ(240PS/34.7kgm)。グレードは上から「HSE Luxury」(700万円)、HSE(590万円)、SE(500万円)の三つがあり、ステアリングを握ったのは中間のHSE。
エンジンパワーが9速ATを通って常に4つのタイヤを回すフルタイム4WDです。ただしこれはオンデマンドタイプ。基本はFFで必要に応じて電子制御でリアタイヤに駆動力を伝える、このクラスの4WDではよくあるタイプですね。
運転席に乗る前にひと回りしてボディーをチェックします。するとやっぱりオフロード4WDの老舗らしく押さえるところはちゃんと押さえていましたね。ボディーサイズの割りにタイヤは19インチホイールを履かせた大径タイプ。下回りを覗いてみると出っ張りがなくホレボレするほどのフラットさ。前後のオーバーハングはしっかり角度をとっています。
つまりデコボコの道を走っても下回りをぶつけにくくなっているんですね。オフロードで育まれたランドローバーのDNAはキチンと受け継がれています。
シフトレバーがダイアル!? 今時プレミアムは電子制御の数で勝負か
運転席の座面の高さはそこそこあって、見晴らしがいいのもランドローバーらしさです。ボンネットの左右が視界に入るので狭い道でも見切りがいいわけですね。
さて、とエンジンをスタートさせてシフトをDレンジに入れようとしましたがATレバーがありません。エアシフト(?)を切った左の手元をよく見ると、ダイアルを回して切り替えるようになっていました。
これから雪の中を走るんだと気合を入れたら肩透かしを食った感じです(笑)。プレミアムって機械的なものを電子制御に置き換えること? 欧州車や日本車でよくあるそんな進化がランドローバーには似合わないような気がしますが……。
さて、わざわざ作られた雪のコースには、スキー場にあるようなヤツの4〜5倍規模ものモーグルとアップダウンのきつい坂がありました。確かにランドローバーを走らせるのに普通の雪道ではおもしろくありません。
まずはモーグルにチャレンジ。タイヤで斜面を撫でるようにゆっくり進みます。この時、テレインレスポンスなる悪路走行支援装置を「草地/砂利/雪モード」にセットしてありました。
スリップするタイヤに自動的にブレーキをかけてトルクが逃げるのを防いでくれるのですが、ズリズリズリズリズリズリ〜ッと空転はなかなか止まらず何とも反応が鈍い。
途中で肩輪をスリップさせたまま止まってしまいました。そこでタイヤが浮くような状況で選ぶ「岩場モード」にチェンジ。ちょっとアクセルを深めに踏み込むと今度は接地しているタイヤに逃げようとするトルクがスムーズに移り、先ほどよりもがくことなく抜け出せました。
以前乗ったレンジローバーでは4WDシステムとテレインレスポンスの相性がもっとよかったと思います。レンジローバーは一般的な機械式センターデフを備えた4WDです。オンデマンドタイプの4WDとテレインレスポンスのマッチングは、こんな場面でもうちょっと磨きをかけた方がいいかもしれません。
次は急な滑り台のような雪の斜面。アクセル一定でちょっと勢いをつけて登ります。テレインレスポンスを「草地/砂利/雪モード」に戻したらちょうどマッチしたのでしょうか、今度はスリップせずに登り切れました。
下りはヒルディセントコントロールを使います。これは滑りやすい下り坂でエンジンブレーキとフットブレーキを自動制御する電子アシスト。タイヤ4輪のスリップがうまく抑えられて姿勢を崩さずに降りられました。
うむむ、これはこれで素晴らしい。最終的にはタイヤのグリップに頼らざるをえない機能ではありますが、坂道のある街に住むユーザーなら冬の間に重宝しそうです。
走破性能にプレミアム感をどこまで求めるのか?
ディスカバリー・スポーツには、ここで試したテレインレスポンスやヒルディセントコントロールの他に、オールテレーン・プログレス・コントロールやアクティブ・ドライブライン、アダプティブ・ダイナミクスなど、オンロードからオフロードまでの走りをサポートする電子制御が満載です。
ランドローバーというブランドの何たるかを知らないと、あるいはよほどコンディションの悪い道を走らないと、これらがどれほど価値のあるものか理解できないかもしれません。
いずれの技術も突き詰めると狙っているところは快適さを失わずに乗員を守る安全のための走行装置だとわかるのですが、それにしてもこれほどのてんこ盛りはさすがにランドローバーならではといったところでしょうか。
少々気になったのは、クルマそのものの作りや装備・機能からして価格が少々お高いのでは?ということ。
ディスカバリー・スポーツはSUVとして常識的な室内ユーティリティー性を備えていました。3列目シートを簡単に格納できて2列目シートを倒してスライドさせると、とても大きな荷室空間が現れます。
2列目シートは背もたれが3分割式なので、人と荷物を上手に乗せたり積んだりすることができます。運転席に座ってインパネをじっくり眺めてみると、わずかですがその作りに価格がひと桁違うレンジローバーに通じるクオリティの高さを感じないではありません。
エンジンは2リッターにしてはオフロードも走れるクロスオーバーSUVをキビキビと走らせてくれます。乗り心地はもちろんラグジュアリーなレンジローバーなどに及びませんが、カジュアル路線の割りにはなかなか快適です。
ただし、そこに漂うプレミアムな空気がやや希薄。4WDのプレミアムブランドからデビューしたSUVで、ランドローバーらしく電子制御の悪路走行支援装置がたくさん付いているとしても、インテリアはもうちょっと兄貴分のディスカバリーに近づけて欲しかった、という人もいるはず。
このあたりは、ランドローバーというブランドに高級感をどこまで求めるのか、ということでしょう。
<SPECIFICATIONS>
☆ランドローバー ディスカバリー・スポーツHSE
ボディサイズ:L4610×W1895×H1725mm
車重:1920kg
エンジン:1998cc 直列4気筒 DOHC ターボ
最高出力:240PS/5500rpm
最大トルク:34.7kg-m/1750rpm
駆動方式:フルタイム4WD(アクティブ・オンデマンド・カップリング)
トランスミッション:9速AT
サスペンション:前後ともコイルスプリング+マクファーソンストラット
タイヤ/ホイール:235/55R19/8.0J×19
価格:590万円
(文/鈴木良広)
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