混戦必至!2019-2020日本カー・オブ・ザ・イヤー候補車の気になる実力②:岡崎五朗の眼

■高い注目を集めた「マツダ3」は何がすごいのか?

「マツダ3」

初代「CX-5」に始まる第6世代商品群から、マツダは“魂動デザイン-SOUL of MOTION”をテーマに、デザインに対して並々ならぬこだわりを見せてきた。実際、デザイナーたちが手掛けた各モデルは、いずれもカッコ良かった。しかし、悪いいい方をすれば、それらは単に“カッコいいだけ”のクルマでもあったのだ。

そうした中、新しい第7世代商品群の先陣を切って誕生した「マツダ3」において、デザイナー陣はあえて、カッコ良さの中にちょっと引っかかるポイント、“違和感”を覚える要素を盛り込んできた。その最たる例が“ファストバック”と呼ばれる5ドアハッチバックの太いリアピラーだ。

美しさやカッコ良さの中に、あえて違和感を盛り込んだデザインは、1980年代から2000年代にかけてのアルファロメオに通じるものがある。開発陣いわく「美しいだけでなく、美しさの中にアクを感じさせる個性派女優のようなデザインを目指した」とのことだが、違和感を美しさやカッコ良さにつなげるというのは、デザインの世界ではとても高度なテクニック。マツダ3のように相反する要素をこれほど上手くまとめ上げた日本車は、ちょっと記憶にない。マツダ3、特にファストバックのエクステリアは、日本車デザインの新たな境地を切り開いたという意味で高く評価したい部分だ。

インテリアも「日本車では初めて」といっても過言ではないくらい、ちょっとドレスアップした大人が乗ってもサマになる上質な世界観をカタチにしている。それは、短パンにヨレヨレのTシャツで乗るのを、思わずためらってしまうほどの空間だ。またディスプレイオーディオも、前方視界を遮らないよう高さを抑え、サイドを斜めにカットするなど、インテリアにしっかり調和するようデザインされている。これこそが、ディスプレイオーディオの本来あるべき姿だろう。

オーナーになることで、着る服や身だしなみ、出掛けるスポットなどが変わり、乗る人までをも成長させてくれる。プロダクトが人のライフスタイルまで変えるくらいの強いメッセージ性が、マツダ3のデザインには息づいているのだ。

エンジンは、ファストバックに4種類、セダンに3種類がラインナップされるが、結論からいくと、1.5リッターか、フラッグシップに位置づけられる2リッターの“スカイアクティブX”がお勧めだ。

1.5リッターモデルはフロント部が軽く、シャーシの良さがより際立つ。ものすごくフラットだがしなやか、という相反する乗り味を高次元で両立している。また、路面の段差を乗り越えた際の動きも収まりがよく、路面からの入力も軽くいなしてくれる。

確かに、1.5リッターエンジンはパワーこそ小さいが、その分は、高回転域まで回してやることでカバーできる。高回転域まで回した時のエンジン音も、耳障りな印象など皆無だ。一般的に、下位グレードは遮音材が省かれ、雑音を伴う不快なエンジン音が伝わってきがち。しかし、マツダ3の1.5リッター仕様は、エントリーモデルながら上級グレードと同じ遮音材を使っていて、雑音だけがフィルタリングされたエンジン音が耳に届く。そのため、エンジンを回して元気よく走っている感覚が濃密なのだ。

しかも、アクセルペダルを深く踏み込めば、苦しい反応を一切見せることなく、スムーズに100km/hへと到達する。1.5リッターモデルはスペックこそ非力に見えるが、高速道路を含め、交通の流れをたやすくリードできる実力を備えている。

一方、スカイアクティブXは、現行のエンジンラインナップ中、最も静粛性が高く、動力性能も高く、常用域におけるトルクにもゆとりがあり、高回転域まできれいに回ってくれる。トータルバランスに優れ、どこか特化した部分があるわけではないが、全体的なパフォーマンスは相当高い。クルマ全体がハイクオリティに仕立てられたマツダ3には、非常にマッチしたエンジンといえるだろう。

マツダ3のもうひとつのハイライトは、“スカイアクティブアーキテクチャー”と呼ばれる新開発のプラットフォームだ。

このプラットフォームは、前身の「アクセラ」が“マルチリンク式”のリアサスペンションを採用していたのに対し、新たに“トーションビーム式”をチョイスしたこともあり、「コストを削って性能を犠牲にした」なんて悪い評価も目にする。しかし、そういう評価を下す人たちは、ポルシェ「ボクスター」のサスペンションが4輪とも“ストラット式”だと聞いて、なんて思うのだろうか? ルノーのホットハッチである「メガーヌ ルノー・スポール」のリアサスペンションが、マツダ3と同じトーションビーム式だと聞いて、非難するのだろうか? 高コストのマルチリンク式など使わなくても、ポルシェらしい精緻な走りや、ルノー・スポールのように熱い走りは具現できる。スペックだけを見て判断すると、クルマの本質を見失ってしまう。

しかもマツダは、スカイアクティブアーキテクチャーのために、トーションビーム式リアサスペンションを新開発してきた。この時点でコスト削減を疑うのは、ナンセンスだと思う。もちろん、新しいトーションビーム式リアサスペンションは、マルチリンク式のそれよりローコストで作れるのもしれないが、コスト管理が徹底している現代のクルマ作りにおいて、浮いたコストを内外装デザインや遮音性の向上に使うことができれば、トータルで見てクルマの印象はがぜん良くなる可能性が高い。高性能なトーションビーム式リアサスペンションが出来上がったのであれば、それで浮いたコストを何に使うか、ということに思いを巡らせた方がいい時代に来ているのだ。

1点、新しいプラットフォームで気になるのは、1.8リッターディーゼル“スカイアクティブD”やスカイアクティブXのように、エンジン単体重量が重い仕様よりも、エンジン単体重量が軽い1.5リッターモデルの方が、総じてフットワークの印象が良いこと。全般的にハイパフォーマンスのプラットフォームではあるが、重いエンジンをカバーできるだけの余裕に乏しく、まだまだ煮詰めが足りていない印象だ。こうした部分が改善されれば、マツダ3はますますいいクルマになるだろう。<Part3に続く>

(文責/&GP編集部)


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