混戦必至!2019-2020日本カー・オブ・ザ・イヤー候補車の気になる実力③:岡崎五朗の眼

■ジープ「ラングラー」は最強のライフスタイルカー

ジープ「ラングラー」

日本へ上陸する前、ジープ「ラングラー」の最強グレード「ルビコン」で、ジープのエンジニアたちがテストを繰り返す聖地・ルビコントレイルの極悪路を走る機会があった。そして、新型ラングラーのあまりの悪路走破性の高さに、心底驚いたのを覚えている。

そうした抜群の悪路走破性こそジープの核心だが、それをスポイルすることなく、新型はリアシートの居住性を高めたり、最小回転半径を小さくしたり、乗り心地を改善したり、燃費を向上させたりと、現代に合わせてきちんとモダナイズされている。普通の人なら、2台並べて子細に見比べない限り、先代モデルとの違いに気づかないほど見た目は変わっていないが、実はその中身は大幅に進化している。これぞまさに、キープコンセプト型モデルチェンジの王道といえるだろう。

運転席に乗り込んでみても、目の前に広がる景色は従来モデルから不変だ。確かに、インパネ中央にナビゲーションアプリなどを表示できる液晶モニターが備わるなど、新型のコクピットは現代的な要素を取り込んでいる。しかし、平面ガラスで作られた横長のフロントウインドウが垂直に切り立ち、その先にボンネットフードが伸び、ボンネットの両サイドにタイヤを囲むフロントフェンダーが張り出すという構成は、従来モデルと全く同じだ。この独特の世界観は、並のSUVではちょっと味わえない。

全天候型の“オールテレインタイヤ”を履く「サハラ」「スポーツ」の両グレードは、オンロード志向が強く、高速道路などでも安心してラクに走れる。従来モデルは、オールテレインタイヤを履くグレードでも、乗り心地が悪くてまっすぐ走らないなど、結構苦労させられた。しかし新型は、オンロードでの普段使いも快適にこなせるだけの乗り味を手に入れている。

一方、過酷なオフロードでの使用を想定し、トレッドパターンに大型のブロックを配した“マッド&テレインタイヤ”を履くルビコンは、「今の時代、これほど直進性の悪いクルマがほかにあるか!?」と思うくらい、まっすぐ走らせるのさえ難しい。耳に届くタイヤノイズも、現代のクルマとしてはあり得ないレベルだ。とはいえ、多少直進性が甘くても、専用の装備類で特別感を放つルビコンの方がカッコいい。そう思えるところが、このクルマの希有な部分だ。ラングラーに乗っているからといって、極悪路を走る機会なんてそうそうないが、そういうところでもラクに走破できるというストーリーが、人々の所有欲をくすぐる。

その乗り味からも分かる通り、ラングラーは移動の道具としてお勧めできるクルマではない。これは最強のライフスタイルカーだ。そういう意味で、オーナーにとっての愛車や相棒といった表現が、とてもマッチする。出来が良くなり洗練された現代のクルマは、つまらないという評価をしばしば目にするが、実はそうしたモデルに欠けているのは、ラングラーにあるようなストーリーではないだろうか。

日本人はクルマが好きではない、なんて見方もあるが、世界的に見て、公道のレーシングカーと呼ばれるポルシェ「911」の「GT3」や、VW「ゴルフ」のスポーツグレード「GTI」が、これほど売れている国も珍しい。同様に、ルビコンを始めとするラングラーも、日本が北米に次ぐ第2位の市場規模になっている。日本にはまだまだ、ファナティックな自動車ファンが存在する…新型ラングラーはそのことに、改めて気づかせてくれた。

メルセデス・ベンツ「Aクラス/Aクラスセダン」

「ハイ、メルセデス!」と話しかけるだけで、車内のさまざまな機能を操作できる“MBUX(メルセデス・ベンツ ユーザーエクスペリエンス)”が話題を呼んだ新型「Aクラス」。

上陸直後にドライブしたハッチバックは、確かにスポーティな乗り味だったが、ロードノイズがうるさく、路面の段差を乗り越えた際の突き上げも、メルセデスとしては大きめ。コンフォート面では決して褒められるクルマではなかった。しかし、先頃上陸したセダンは、その辺りがずいぶん良くなっている。タイヤのパターンノイズこそ耳に届くが、キャビンとラゲッジスペースとがきちんと分かれていることもあり、リアから聞こえてくるノイズが大幅に小さくなった。しかも、乗り心地もしなやかさが増している。

メルセデス・ベンツといえば、世界で初めて実用ガソリン車を手掛けた古典的なメーカーであり、ブランドイメージもどこか硬いイメージがある。そんな老舗ブランドが、どこよりも早く、MBUXのような新しいインターフェースを実用化したのは驚きだ。他社、特に日本車メーカーは、このことに対してもっと刺激を受けるべきである。

オーディオひとつとって見ても、日本車メーカーは「ユーザーは“2DINサイズ”のオーディオを好む」という過去のマーケティングデータに縛られるあまり、自ら新たなチャレンジを阻んでいるように思う。マーケットリサーチを行う際、新しいものを提示することなく、従来のものに対して「何か不満はありますか?」と尋ねたところで、「別にないですよ」という判で押したような回答しか得られないのは明白だ。現状のマーケットリサーチは、内容自体に欠陥があるとしか思えない。あるいは、調査する際に、むしろ現状を変えたくないというバイアスが掛かっているのではないだろうか。

その点メルセデスは、Aクラスで初導入したMBUXを、モデルチェンジを機に他のモデルにも水平展開している。こうした迅速な動き、そして、常に新しいものを生み出そうという積極的な姿勢は、他メーカーも見習うべきだろう。

Aクラスのデザインは、誰が見てもメルセデスに見えるというところにキモがある。

ライバルのBMWは、フロントマスクの“キドニーグリル”と、“ホフマイスター・キンク”と呼ばれるリアピラー付け根の跳ね上げられたラインがデザイン上の特徴とされてきたが、昨今、多彩なボディラインナップを展開する中で、後者のないモデルも登場。一方で、最新モデルはキドニーグリルがどんどん大きくなるなど、まさにキドニーグリル頼みといった状況にある。

対して、Aクラスを始めとするメルセデス各車がメルセデスらしく見えるのは、過去のモデルが採用していたデザイン要素をきちんと消化した上で、新たなインプットを盛り込んでいるからだと思う。ボディパネルの面の張りや、ヘッドライトやテールランプの形状など、「これぞメルセデス!」という厳密なルールこそないものの、よくよく見ていくと、ディテールのデザインには継続性が見られる。全体的には「変わったな」と思わせながら、細部にはメルセデスならではのデザイン言語が息づいているのだ。

キドニーグリルのないBMWは、下手をするとBMWに見えない恐れがあるが、Aクラスを始めとするメルセデス各車は、フロントマスクを隠しても、やはりメルセデスらしく見えてしまう。こうした継続性を秘めている点が、メルセデスデザインのすごいところだと思う。<完>

(文責/&GP編集部)


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