■今や輸入車の約3台に1台がディーゼルの時代
日本市場では、ディーゼル車が相変わらず人気だ。2019年の1月から10月までのディーゼル乗用車の販売台数は14万8311台。このペースでいくと、年間販売台数で2018年の17万7272台を超える可能性が高い。人気がジワジワ盛り上がっている、といっていいだろう。
日本車メーカーの中でディーゼルエンジンを積極展開しているのは、なんといってもマツダ。同社のクリーンディーゼルエンジン搭載車の国内販売台数は、2019年9月末で累計50万台に達した。また、三菱自動車は2019年、ディーゼルエンジン搭載のミニバン「デリカD:5」の新型を発表し、SUVの「エクリプスクロス」にも、ディーゼルエンジンを投入している。中でもデリカD:5に関しては、ここ数年、販売台数のほとんどをディーゼルエンジンが占めているという状況だ。
一方、輸入ディーゼル車も熱い。プジョーやシトロエンといったフレンチブランドや、BMWやメルセデス・ベンツといったドイツのプレミアムブランドなどが、日本市場にディーゼル車を積極投入。SUVはもちろんのこと、BMW「7シリーズ」やメルセデス・ベンツ「Sクラス」といったフラッグシップサルーンにまでディーゼルエンジン搭載車を設定し、いずれも人気を博している。それを裏づけるように、輸入車のディーゼル車比率は、2019年9月に30.1%を記録。輸入車の約3台に1台が、今やディーゼルエンジン搭載車というのだから驚かされる。
とはいえ、「ディーゼルエンジンは環境に良くない」というイメージを、今でも漠然と思い抱いている人も多いだろう。確かに、東京都の石原慎太郎知事が、ディーゼル車が排出するススの入ったペットボトルを振りかざしながら排出ガスの問題を提起した1999年頃は、窒素酸化物(NOx)や微粒子物質(PM)を多く含むなど、ディーゼルエンジンは環境に対して優しくなかった。
しかしその後、大幅な規制強化を受けて技術開発が進み、また、燃料となる軽油自体の成分変更もあって、ディーゼルエンジンの排出ガスは劇的にクリーン化。今ではむしろ、環境性能に優れるクルマとして、税金が優遇されているほどだ。数年前にVWが北米で起こしたディーゼル車の問題も、あくまで固有の事例に過ぎず、ディーゼル車のすべてに問題があったわけではない。
そんなディーゼルエンジンとマッチングのいいクルマといえば、重量級のSUVやミニバン。高回転域が得意なガソリン車とは異なり、低回転域から力強いディーゼルエンジンの特性は、SUVやミニバンと相性がいい。例えば、人が大勢乗ったミニバンで加速する際は、エンジン回転を上げなくてもググッと力強く加速するため、運転がラク。まるで、大排気量エンジン車にでも乗っているかのように、走りにゆとりを感じられるのだ。
また高速巡行時も、追い越し加速の際などにアクセルペダルを深く踏み込んでエンジン回転数を上げる必要がないから、乗りやすいし疲れにくい。一度ディーゼル車に乗った人が、次もディーゼル車を選ぶ事例が多いというのもうなずける。
■輸入車で買いやすいディーゼルミニバンといえばシャラン一択
今回紹介するシャランは、これまでガソリンターボ仕様のみの設定だったが、先頃ようやく、“TDI”と呼ばれるクリーンディーゼル搭載グレードが設定された。
シャランはVWのラインナップ中、最も大きいミニバンで、「ゴルフトゥーラン」と比べて車体がひと回り大きく、トヨタの「アルファード」「ヴェルファイア」に近いサイズ。ゴルフトゥーランのサードシートがあくまで補助的なのに対し、シャランの3列目シートは十分広い。
さらにリアのサイドドアがスライド式なので、乗り降りしやすいという美点も持つ。
そんなシャランは、実は日本市場では貴重な存在。スライドドアを備えたディーゼルミニバンを選ぶ場合、選択肢はデリカD:5とメルセデス・ベンツ「Vクラス」、そして、このシャランと、日本車/輸入車合わせて3モデルしかない。このうちVクラスは、エントリーグレードでも700万円を超えるため、輸入車で比較的買いやすいディーゼルミニバンとなると、シャラン一択という状況なのだ。
■今後はシャランもディーゼル仕様が売れ線に!?
新たにシャランに搭載されたディーゼルエンジンは、基本的に「ゴルフ」や「パサート」などに搭載されるものと同じ。VWの2リッター4気筒ディーゼルターボは、制御の違いなどで出力の異なる3タイプが用意されるが、シャランには最高出力177馬力、最大トルク38.8kgf-mの中間仕様をセレクトしている。
このディーゼルエンジンは、ややノイジーで、ザラザラとした感触をドライバーに伝えてくる。それでも慣れてしまえば、気にならなくなるレベルだ。最高出力150馬力、最大トルク25.5kgf-mの1.4リッターガソリンターボ車は、ちょっとトルクが足りないように感じたが、ディーゼルターボは低回転域から力があり、とても運転しやすい。大きなミニバンは、ディーゼルターボとのマッチングがいいことを改めて認識した。
ディーゼルエンジンといえば、省燃費というメリットもある。シャランのカタログ燃費を見ると、ディーゼルとガソリンとで計測方法が異なるため、ディーゼルの方が一件、燃費が悪いように感じる。しかし、例えばマツダ「CX-8」の“WLTCモード燃費”は、2.5リッター自然吸気ガソリンエンジン車が12.4km/Lなのに対し、2.2Lのディーゼルターボ仕様は15.8km/Lと優れていることから、シャランディーゼル仕様の実用燃費も期待できるはずだ。
しかも輸入車の場合、ガソリン車は高価なハイオクガソリン指定となるが、ディーゼル仕様の燃料は、単価がそれより2割近く安い軽油のため、給油時の負担が小さいのもうれしいポイント。その上、ディーゼルターボ仕様は、購入時に必要な税金も軽減される。
シャランはロングセラーモデルだけに、装備類が充実していないのでは? と考える人もいるかもしれないが、ナビゲーションシステムや電動スライドドアなど、インテリアの快適装備は現代のレベルで見てもかなり充実している。
車両価格はガソリン車より高いが、燃費面などのランニングコストも加味すると、経済性に優れるのがシャランのディーゼル仕様。今後はコチラが、シャランの売れ線となりそうだ。
<SPECIFICATIONS>
☆TDIハイライン
ボディサイズ:L4855×W1910×H1765mm
車重:1900kg
駆動方式:FF
エンジン:1968cc 直列4気筒 DOHC ディーゼル ターボ
トランスミッション:6速AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:177馬力/3500〜4000回転
最大トルク:38.8kgf-m/1750~3250回転
価格:529万6000円
(文/工藤貴宏 写真/&GP編集部)
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