■内外装の仕立てはスカイアクティブX仕様とほぼ同じ
端正なスタイルに始まり、上質なインテリアの仕立てや革新的なエンジンなど、話題に事欠かないマツダ3。そのラインナップにおける主役といえば、やはりスカイアクティブX搭載モデルでしょうが、エントリーグレードである1.5リッターエンジン搭載車も完成度が高く、予想に反して侮れない存在なのです。
では、本題に入る前に、ファストバックに用意されるエンジンラインナップをおさらいしてみましょう。
◎2リッターガソリン
・スカイアクティブX:最高出力180馬力/最大トルク22.8kgf-m
・スカイアクティブG:最高出力156馬力/最大トルク20.3kgf-m
◎1.5リッターガソリン
・スカイアクティブG:最高出力111馬力/最大トルク14.9kgf-m
◎1.8リッターディーゼルターボ
・スカイアクティブD:最高出力116馬力/最大トルク27.5kgf-m
いずれも、組み合わされるトランスミッションは6速ATがメインですが、1.5リッターガソリンとスカイアクティブXには、6速MTも用意されています。
名称からもお分かりの通り、いずれもマツダの新世代エンジン、スカイアクティブシリーズで、1.5リッターガソリンは先代の「アクセラ」、2リッターガソリンは「CX-3」や「CX-5」、1.8リッターのスカイアクティブDはCX-3に搭載されているものと基本的に同じです。
スペックだけを見比べると、1.5リッターのスカイアクティブGは、パワー、トルクともに控え目に映るかもしれません。確かに、高出力指向のエンジンではないため、ターボチャージャーなどの過給機やモーターによるアシストなどの“飛び道具”的なメカニズムは備えていませんが、“素”のガソリンエンジンとしては設計も新しく、パワーはもちろん、環境性能も十分満足できるレベルを実現しています。
続いて、安全装備やADAS(先進運転支援システム)を見てみましょう。これは、各マツダ車に共通する美点ですが、グレード間の装備レベルに大差がなく、標準状態でもかなり充実しています。今回紹介する15Sツーリングも、国が推奨する自動車安全コンセプト“サポカーSワイド”に該当する装備に加え、後方からのクルマの接近を通知する“ブラインド・スポット・モニタリング”、車線からの逸脱回避を支援する“レーンキープ・アシスト”、レーダーが先行車を感知して車間距離を一定保ちながら追従走行する“マツダ・レーダー・クルーズ・コントロール”などが備わります。
スカイアクティブXを搭載する上級グレード「X Lパッケージ」と比べると、15Sツーリングにはステアリング操作をサポートする“クルージング&トラフィック・サポート”や“アダプティブLEDヘッドライト”、“交通標識認識システム”こそ備わりませんが、同クラスの中では買い得感が高いといえます。
また買い得といえば、快適装備や内外装の仕立ても気になりますが、こちらも抜かりはありません。インテリアに目を向けると、運転席と助手席で独立してコントロールできるオートアエコン、8スピーカーオーディオ、8.8インチセンターディスプレイが標準装備となります。
エクステリアの印象を左右する足回りでも、15Sツーリングには18インチアルミホイールが標準となっています。ホイールの色こそ、スカイアクティブX系モデルとは異なりますが、外観上の差異はほとんどなく、インテリアデザインも基本的に共通というのはうれしいところです。
一方、上級グレードでは、インテリア細部の加飾パーツがグレードアップ。さらに、電動シートやシートヒーター、自動防眩ミラー、コネクテッドサービス用の車載通信機などが備わるほか、レザーインテリアも設定されるため、さらなる快適性や上質さを求める人であれば、1.5リッターモデルは選択肢から外れることでしょう。とはいえ、X Lパッケージの338万463円(FF/6AT)、「20Sプロアクティブ・ツーリングセレクション」の263万6741円(FF/6AT)に対し、15Sツーリングは231万5989円(FF/6AT)ですから、価格面ではかなりのバーゲンといえそうです。
■クルマとの一体感を味わえるマツダ3でも指折りの存在
“夢のエンジン”と称されるスカイアクティブXに加え、定評ある2リッターのスカイアクティブGに1.8リッターのスカイアクティブDと、多彩なパワーユニットが用意されるマツダ3。それだけに、1.5リッターのスカイアクティブGにスポットライトが当てられる機会はそう多くありません。
特に走りに関しては、他のエンジン搭載車が高い評価を得ていますが、買い得な価格設定を考えると、1.5リッターのスカイアクティブGはどうなんだろう? というのが正直なところです。そこで、1.5リッターモデルの中から、装備が充実した15Sツーリングの6速AT車(FF)でテストドライブへと繰り出してみました。
結論からいってしまえば、必要にして十分以上。また“クルマを操る”、“クルマとの一体感”といった観点においては、マツダ3の全グレードの中でも指折りの…といったところです。
もちろん、1340kgという車重に対し、最高出力は111馬力しかありませんから、絶対的なパフォーマンスはご想像の通り「ほどほど」。しかし、アイドリングから4000回転辺りまでのトルク感は十分力強いものがありますし、“パワーの盛り上がり”と“スピードの伸び”との連携も自然で、素直に「気持ちいい!」と感じるフィーリングです。
一方、静粛性については、他のエンジン搭載車が一枚上手といった印象。それでも、15Sツーリングは、アクセルペダルの動きに応じてエンジン音が室内に聞こえてくるものの、雑音はしっかり抑えられており、不快に感じることはありません。さすがに、アップダウンの続く高速道路などは相応の音量ですが、軽快でビート感のある音質は心地良く、ちょっとしたワインディングではスポーツドライビング気分がグッと盛り上がります。
さらに車格相応の車重とはいえ、ディーゼル仕様に比べて約50kg、スカイアクティブX仕様に比べて約100kg軽いこともあり、クルマの動きが全体的に軽快という点も15Sツーリングの美点です。クルマの挙動を制御する、マツダ独自の“G-ベクタリングコントロール プラス”など、電子制御によるサポートもありますが、細かい切り返しが続くような道でのヒラリヒラリとした軽い身のこなしは、素性の良さを感じさせます。また乗り心地についても、発売直後のモデルでは気になった、段差通過時の少々突き上げるような感触がかなり解消されています。
マツダ車は1年ほどの周期で商品改良が行われるケースが多いのですが、その間にも細かな調整が行われることがあります。些細なことではありますが、先に挙げた乗り心地やドア開閉時の感触なども向上しており、クルマとしての質感がさらに向上しているように感じます。1.5リッターのスカイアクティブG搭載車は、いわばマツダ3のエントリー仕様ですが、いわゆるベーシックカーとは一線を画す出来栄えで、安っぽさを感じることはありませんでした。
■軽快な走りに思わずヒザを打つ1.5リッターのスカイアクティブG
ここまで読み進めてくると、1.5リッターエンジン搭載車こそがマツダ3のベストバイ、と思われるかもしれませんが、当然、ラインナップの主役であるスカイアクティブX搭載車には、敵わない点が存在します。
例えば、街中でのストップ&ゴーや、市街地での流れに乗った走りでは気にならないものの、高速道路における合流時の加速や追い越し、アップダウンの激しいワインディングといったシーンでは、正直、歯がゆさを感じることがあります。
また燃費に関しても、カタログ記載のWLTCモードで、スカイアクティブXを搭載するX Lパッケージが17.2km/Lに対し、15Sツーリングは16.6km/Lと劣ります。街乗りでの実用燃費においても、スカイアクティブXが元気よく走って15km/L強をマークするのに対して、1.5リッターのスカイアクティブGは13km/L少々といったところ。もちろん、燃費は使い方によって大きくデータが変わるため単純比較はできませんが、排気量が大きく車重も重いX Lパッケージの方が燃費が良好というのは、まさに夢のエンジンの面目躍如といったところでしょう。
スカイアクティブXは革新的なメカニズムに加え、緻密な制御によって前例のない燃焼技術を実現していて、パワーや燃費は従来型のガソリンエンジンをしのぎます。また、複雑な構造や難解な制御を用いていながら、音や感触といった部分でドライバーに特殊さや気難しさを一切意識させない、自然なフィーリングを実現しています。
一方、1.5リッターのスカイアクティブGはというと、これまで培われてきたガソリンエンジンの知見に基づいた、いわば出来のいい普通のエンジン。当然、こちらも特殊さを感じることはありませんが、軽快な走りには思わずヒザを打ちたくなるほどです。もちろん、パワーや燃費といった性能の違い、装備の違い、そして双方の間には約100万円という価格差もありますから、スカイアクティブX仕様と1.5リッターのスカイアクティブG搭載モデルの優劣をつけるのは野暮というものでしょう。しかし15Sツーリングは、スカイアクティブXという主役にも迫る、数々の魅力をたたえたマツダ3の名脇役であることは間違いありません。
<SPECIFICATIONS>
☆ファストバック 15Sツーリング
ボディサイズ:L4460×W1795×H1440mm
車重:1340kg
駆動方式:FF
エンジン:1496cc 直列4気筒 DOHC
トランスミッション:6速AT
最高出力:111馬力/6000回転
最大トルク:14.9kgf-m/3500回転
価格:231万5989円
(文&写真/村田尚之)
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