聖地最速のDNAを継承!ルノー「メガーヌR.S.トロフィー」はキレキレの走りが魅力です

■ニュルFF車最速は「トロフィー」よりもっとスゴイやつ

メガーヌR.S.トロフィーR

メガーヌR.S.トロフィーがDNAを受け継いだオリジナルは、先頃、日本でも発表された「メガーヌR.S.トロフィーR」(689万円/日本限定47台)。つまり、トロフィーRがニュルブルクリンクFF車最速のモデルであり、今回試乗したRの付かない“素のトロフィー”は、ニュル最速のDNAを受け継いだ仕様、ということになる。

トロフィーRは、全長約20.8kmのニュルブルクリンク北コースを量産FF車最速となる7分40秒100で走るために、メガーヌR.S.が秘めた潜在能力を最大限引き出した特別仕立てのモデルで、ベーシックなメガーヌR.S.に対して軽量化を徹底し、“4コントロール”と呼ばれるメガーヌR.S.のウリのひとつである後輪操舵機能さえも取り払っている。この事実は、ニュルFF車最速を目指すには、後輪が逆相、あるいは同相に動くことで得られる運動性能上のメリットよりも、軽量化の方が効果が大きいことを示している。

メガーヌR.S.トロフィーR

加えてトロフィーRは、リアシートを取り払うことで25.3kgもダイエットするなど、MT仕様のトロフィーと比べ、トータル130kgもの軽量化を実現。速さの追求に対してとことんストイックだ。何を目指すのか、にもよるが、機能を付加するよりも軽量化を徹底した方が走りのパフォーマンスを高められるという物理の法則を、トロフィーRは証明している。

では、トロフィーRのDNAを受け継いだだけのトロフィーは、ヤワなクルマに仕上がっているかというと、決してそんなことはない。グラマラスなフォルムは無言で、しかし矛盾するようだが雄弁に、高いパフォーマンスを見る者に訴えかけてくる。

それはインテリアも同様だ。表皮にアルカンタラを採用したレカロ製バケットシートが、なかなか強烈な存在感でもって目に飛び込んでくる。ヘッドレスト部に縫い込まれた赤い“R.S.”の文字が、アクセントになっている。

ちなみに、R.S.とはルノー・スポールの頭文字であり、同組織にはモータースポーツ活動を手掛けるルノー・スポール レーシングと、市販スポーツモデルの開発を行うルノー・スポール カーズというふたつの部門が存在する。活動拠点も体制も異なるが、イメージ上も技術上も両部門の頂点はF1参戦活動であり、このメガーヌR.S.トロフィーは、F1マシンのDNAを受け継いだクルマともいえる。

■エンジン音だけで分かるトロフィーの“ただ者ではない”感

ドアを開けてシートに収まり、色気のないスタート/ストップボタンを押すと、メガーヌR.S.トロフィーは「ヴォォォン」と豪快な重低音を響かせて目覚めた。深いバケットシートに包まれた時に覚悟はできていたつもりだが、その音はこのモデルがただ者ではないことを否応なく悟らせる。まるで「オマエはもうジェットコースターに乗り込みハーネスを締め付けているんだ。最初の急降下に向けてスロープを登り始めている。覚悟はいいな!」と語りかけてくるようだ。

相当な覚悟を決めてシフトレバーをDレンジに入れ、クルマのご機嫌をうかがうように走り出す。エンジンからの低音のビートが連続的に耳に届き、“ただ者ではない感”が継続するが、乗り心地は望外にいい。路面の凹凸はもとより、段差や突起でもなめるように乗り越える。胃に響くような強いショックはなく、これなら日常ユースにも使えると感じた。

それでもベースモデルに対し、サスペンションは固めてある。ベースとなったメガーヌR.S.に対し、スプリングレートはフロントが23%、リアが35%高められていて、フロントよりリアの上げ代の方が大きい。モータースポーツにおけるマシンセッティング論を参考にすれば、メガーヌR.S.トロフィーはリアサスペンションのロール剛性を高める仕立てになっていて、この変更により、リアタイヤの“仕事量”が増えている。つまり、定常でのアンダーステアを解消する方向への変更、と、いい換えてもいいだろう。

一方、“アンチロールバー”とも呼ばれるスタビライザーの剛性は、メガーヌR.S.比でフロント側が7%高められていて、これが、フロントのロール剛性を高める方向に作用する。想像を交えて分析すれば、この変更は、コーナー入口でステアリングを切り込んだ際の応答性を高める一方、その後、コーナーを回り込んでいる際には、駆動と転舵の役割を受け持つフロントタイヤの負担を減らし、リアタイヤに仕事をさせて旋回性能を高める狙いがあると見る。

■きついコーナーほどありがたみを感じる4コントロール

今回は試乗のメインステージとして、箱根・長尾峠から箱根スカイライン、芦ノ湖スカイラインへと針路を向けた。ニュルブルクリンク北コースにおけるタイムアタックでは不要でも、日本の峠道においては、約60km/hまでは逆相、それ以上では同相に切れる4コントロールは絶対にあった方がいい。曲率が小さい、きついコーナーほど、4コントロールのありがたみを感じられる。それは、街中における交差点での左折時などでも同様で、軽やかな身のこなしが運転していて気持ちいい。

1.8リッターの直列4気筒直噴ターボエンジンは、メガーヌR.S.比で21馬力のパワーアップを果たし、300馬力を発生。最大トルクも42.8kgf-m(EDC)と強力だ。ステアリングを真っ直ぐに戻さないうちにアクセルを全開にすると、進路方向への制御を失って危なっかしいことになる…。そう書けば、このクルマの強大なパワーを想像できるだろうか。回転数を高く保っていればもちろんのこと、そうでなくても瞬時に、背中を蹴っ飛ばされるような強烈な加速が襲ってくる。

その上、センターコンソールに備わる“R.S. DRIVE”ボタンを押し、走行モードを「スポーツ」に切り換えると、シフトチェンジやパワーステアリングなどの制御がスポーティに変化。さらに、マフラー内のバルブが切り替わり、スロットルをオフにした際に「バラバラバラ」と、アフターファイヤー風の獰猛なサウンドを発するようになる。

その音が派手すぎて、最初はちょっと恥ずかしい気がした。だが、峠を攻める(もちろん、安全マージンは残して)時は断然、スポーツモードが気持ちいい。ノーマルモードとスポーツモードとの違いは、映画に例えるなら、IMAXと4DXほどの差がある。スポーツモードはもちろん4DXだ。水しぶきが飛んできたり、風が顔面に吹きつけてきたりはしないが、豪快なエキゾーストノートの効果で、メガーヌR.S.トロフィーが持つダイナミックなキャラクターを、より分かりやすく体感できるようになる。特に、コーナーへの進入に際して急減速した時に、「ヴォン、ヴォン」とダウンシフトしてくれる一連の制御はたまらない。

ニュルFF車最速のDNAを受け継ぐメガーヌR.S.トロフィーは、“最速”モデルでこそないものの、その一端を感じさせてくれるパフォーマンスの持ち主であることは間違いない。それでいて日常ユースを難なくこなし、映画の4DXばりにドライバーを楽しませてくれる。「アンダー500万円でこれだけの性能と楽しさが手に入るの?」というのが、このモデルに対する正直な感想だ。

<SPECIFICATIONS>
☆R.S.トロフィー EDC
ボディサイズ:L4410×W1875×H1435mm
車両重量:1470kg
駆動方式:FF
エンジン:1798cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:6速AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:300馬力/6000回転
最大トルク:42.8kgf-m/3200回転
価格:499万円

(文/世良耕太 写真/&GP編集部、ルノー・ジャポン)


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