■ボディにまで手を入れるのがAMGチューニングの流儀
走り出して数メートルで、とまではいかなかったものの、乗って10分後にはすっかり、A35に心を鷲づかみにされてしまいました。加速感やステアリングフィールはいうに及ばず、ボディの作りやエンジンが奏でるサウンドまでも、ノーマルAクラスのそれとはかなり異なる、特別な仕立てになっていたからです。
A35は、Aクラスの上級スポーツグレードであると同時に、今後、続々と展開されるメルセデスAMG「35シリーズ」の端緒となる1台です。今回レポートする5ドアハッチバックに続き、東京モーターショー2019の会場では、「A35 4マチック セダン」も発表済み。さらに、近い将来の上陸が期待される「GLA」や「GLB」といったSUVなどにも、35シリーズがラインナップされる見込みです。
このように話題の絶えない35シリーズですが、A35とノーマルAクラスとは何が違うのか? まずはそのメカニズムから見ていきましょう。
A35のエンジンは、排気量1991ccの直列4気筒ターボで、最高出力は306馬力、最大トルクは40.8kgf-mを発生します。排気量からもお分かりの通り、搭載される“M260”型エンジンは、「A250」や「CLA250」に搭載されるものをベースとしていますが、A35のそれは、82馬力、5.1kgf-mのエクストラを得た高性能版という位置づけです。
組み合わされるトランスミッションは、デュアルクラッチ式の7速AT。こちらもメルセデスAMG用に最適化が行われていて、より素早いシフトチェンジが可能となっているほか、シフトダウン時にエンジンの回転数を合わせるブリッピング機能なども備わります。
また駆動方式は、前後へのトルク配分をフロント100:リア0から、前後50:50まで連続可変制御する4WD機構“4マチック”を採用。車速や前後・横方向の加速度、舵角や各ホイール間の回転速度差などにより、前後のトルク配分を変化させます。
エンジンの大パワーを受け止めるべく、ボディのフロントセクションでは、ねじり剛性を強化するアルミ製プレートをエンジン下部に装着。またアンダーボディには、2本のブレースが追加されています。合わせて、ブレーキシステムも強化されていて、フロントには新型モノブロック対向4ピストンキャリパーと350mmディスク、リアにはフローティングキャリパーと330mmディスクを採用。ハードな使用条件でも音を上げることはなさそうです。
また足回りには、快適指向からスポーツ指向まで、モードを3段階に調整でき、路面状況や走行状況に応じて減衰力が自動調整される“AMGライドコントロールサスペンション”もオプション設定されるなど、スポーツモデルらしい特別仕立てとなっています。
一方のエクステリアは、全体としては控えめな仕立て。フロントには、メルセデスAMGの証でもあるツインブレードタイプのフロントグリルが装着され、左右のインテークにはシルバーの加飾を導入。
さらにリアには、円形のデュアルエグゾーストパイプが装備されるなど、特別な仕立てにこそなっていますが、実際、クルマから少し離れると、ノーマルAクラスにオプションの“AMGライン”を装着したモデルとの区別が難しそう、というのが、正直な感想です。
実はA35には、発表記念特別仕様車として「エディション1」(743万円)と呼ばれるモデルが用意されており、こちらにはリアウイングなどのエクステリアパーツのほか、標準のA35より1インチ大径の19インチホイールやツートーンレザーをあしらった“AMGパフォーマンスシート”、さらには、主要な電子制御系オプションが標準で備わります。
A35の標準モデル(628万円)に、ナビゲーションパッケージ(18万7000円)、本革シートや360度カメラシステムなどを含む“AMGアドバンスドパッケージ”(35万円)、AMGライドコントロールサスペンションや“AMGパフォーマンスシート”などを含む“AMGパフォーマンスパッケージ”(55万円)をプラスすると736万7000円となりますから、「エクステリアでもそのパフォーマンスを主張したい」という人にとっては、エディション1は買い得といえるかもしれません。
■A35のチューニングレベルはちょうどいい塩梅
今回、テストドライブに連れ出したのは、A35に各種オプションを装着したモデル。エディション1の派手なルックスを少々気恥ずかしく感じていた筆者にとって、理想的な1台といえますが、ドアを開けた瞬間、このクルマがタダモノではないことを認識させられました。
ノーマルAクラスよりも明らかにシェイプの深いAMGパフォーマンスシートに腰を下ろして前方に目をやると、10.25インチの大画面液晶パネルを2枚並べた“ワイドスクリーンコクピット”に、タービンをデザインモチーフとした個性的なエアアウトレットと、一見するとノーマルAクラスと同じ眺めが広がります。
しかし、ステアリングのホーンパッド下には、手を放すことなくモードを切り替えられる“AMGドライブコントロールスイッチ”が備わるなど、ディテールからもこのクルマの素性を理解できます。
エンジンをスタートさせると、アイドリング状態での排気音こそ、ノーマルAクラスよりわずかに低く、太い程度だな、と油断してしまいますが、走り出すと両車の違いはすぐさま明瞭になります。まず真っ先に感じるのは、A35のボディがガッチリしていること。そもそも、ノーマルAクラスのボディも剛性感に劣っているわけではありませんが、フロント回りを中心に補強が加えられた結果、まるでダッシュボードやフロアから先を金属の塊から削り出したかのような、精度と剛性を感じるのです。
A35は“AMGダイナミックセレクト”を使い、走行モードを「コンフォート」「スポーツ」「スポーツプラス」「スリッパリー」「インディビジュアル」の5段階に切り替えられます。235/40R18という太く低扁平のタイヤを履いている影響で、コンフォートモードでもサスペンションはかなり引き締まった印象ですが、スポーツやスポーツプラスを選択すると、明らかに硬さが増します。市街地はもちろん、路面の荒れた高速道路でも、乗り心地が悪いと感じるほどではありませんが、大きめの段差を越えると「ゴツッ」という衝撃がドライバーに伝わってきます。
しかし、ボディ補強の効果なのか、大きめの衝撃でもその後に振動は残りませんし、ステアリングが不快に震えるようなこともなく、「ゴツッ」というしっかり角の取れた最初の振動だけで収束するのは、流石といったところでしょう。A35は、AMGが仕立てたモデルではあるものの、ある程度、量産を見込んだエントリーモデルであり、また、Aクラスをベースとしたモデルとしては、さらに上位となる「A45 4マチック」も存在しますから、そのチューニングレベルは“いい塩梅”といったところ。とはいえ、それでもトータル性能は向上を果たしていますし、街場のチューニングショップやサードパーティのアフターパーツを装着したモデルとは、一線を画しているのも事実です。
■普段使いにも連れ出せるエントリー向けAMG
そんなA35の本領を垣間見るならば、やはりワインディングロードやサーキットへと出掛けるのがオススメかもしれません。
例えば、ドライブモードをスポーツプラスにセットして、ワインディングを軽く駆け抜けるドライブは、痛快そのもの。アクセルペダルを踏む右足に力を込めれば、「瞬発力とはこのことか!」と思わせるには十分な、パンチの効いたダッシュを披露してくれますし、ステアリングのパドルを操作すれば、まさに電光石火のごとくシフトチェンジが完了します。また、シフトダウン時に働くブリッピング機能の弾けるようなサウンドも、スポーツドライブ好きには堪えられない演出といえるでしょう。
そのほか、ステアリングのレスポンスの良さと正確さ、深く踏み込んだ状態でもコントロールしやすいブレーキなど、走ることの楽しさを巧みに抽出し、濃縮還元したかのような感触には、AMG一流のノウハウがしっかり注ぎ込まれているな、と改めて感心しました。
AMGというと、大排気量のV8エンジンを積むサルーン系のド級モデルこそ本流と思われるかもしれませんし、かくいう筆者もそのひとりでした。一方で、そうしたド級モデルの本領を日本でうかがえるシチュエーションは、ほぼ皆無。確かに、オーナーの密かなプライドとなるのは間違いありませんが、せっかくなら少しでも多くの時間、AMGの世界を味わいたいものでしょう。ならば、ホットハッチと呼ぶには少々贅沢ですが、普段使いにも連れ出せるA35は、なかなか良い選択かもしれません。
<SPECIFICATIONS>
☆A35 4マチック
ボディサイズ:L4440×W1800×H1410mm
車重:1560kg
駆動方式:4WD
エンジン:1991cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:7速AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:306馬力/5800~6100回転
最大トルク:40.8kgf-m/3000~4000回転
価格:628万円
(文&写真/村田尚之)
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