■メルセデスSUVの中核モデルに成長
破竹の勢いとは、まさにメルセデス・ベンツが展開する近年のSUV攻勢のことを指すのかもしれません。
本格クロスカントリーモデルのGクラスとは異なる、4WDのSUVとして「Mクラス」がデビューしたのは、1997年のこと。当時、メルセデスのSUVといえば、GクラスとMクラス(MLシリーズ)の2シリーズ体制でしたが、今や日本市場向けに用意されるメルセデスのSUVラインナップはというと、GLAからGクラスまで実に7シリーズ、26モデルが展開されています。
もはやSUVは、一過性のブームというよりも、すっかりクルマの定番カテゴリーとして定着しているようで、2019年の海外メーカー車モデル別新車登録(JAIA調べ)を見ると、GLCは5636台で10位にランクイン。3位にCクラス、4位にAクラス、9位には「Eクラス」が入っていますから、メルセデスはいまだに“王道モデルが強い”のも事実ではありますが、拡大するメルセデスのSUVラインナップにあって、今回紹介するGLCがその中核を担っていることは間違いありません。
そんなGLCには、オリジナルのGLCに加え、傾斜のついたリアゲートやなだらかなルーフラインを持つ、スタイリッシュなたたずまいがウリの「GLCクーペ」もラインナップされています。
先のマイナーチェンジでは、エクステリアがメルセデス最新のスタイルへと進化。フロントグリルは下辺側が広い台形となり、同時に、ボンネットも“パワードーム”と呼ばれるふたつの峰を備えた新デザインとなりました。また、フロントグリル内の意匠やヘッドライト形状が改められて精悍さが増したほか、オプションの“AMGライン”を装着すると、ドット状のメッキ加飾が目を惹くダイヤモンドグリルや、開口部の大きなバンパーが備わるなど、スポーティさが際立つ仕立てとなります。
対して、GLCクーペの特徴である、なだらかな弧を描くルーフラインやリア回りはというと、テールレンズ内のデザインが改められた程度。基本的には定評ある従来モデルのスタイルを継承しています。
そんなGLCクーペのボディサイズは、全長4740mm、全幅1890mm、全高1600mmで、これはノーマルのGLCに対して70mm長く、45mm低い数値となります。また、Cクラスのステーションワゴンと比べると、20mm長く、80mm幅広く、160mm高いGLCクーペ。郊外の道では大きさを感じることはありませんが、都市部のパーキングなどではちょっと慎重な扱いが必要になるかもしれません。それでも、最小回転半径5.6mと、思いのほか小回りが利く辺りは、メルセデスの面目躍如といったところでしょうか。
■クーペだけど使える後席と荷室
GLCクーペのインテリアに目を向けると、コンソール回りのデザインは基本的に大きな変更を受けていませんが、ダッシュボード中央に備わるディスプレイが10.25インチのワイドディスプレイへと拡大されたほか、Aクラスでお馴染みとなった対話型インフォテインメントシステム“MBUX(メルセデス・ベンツ ユーザーエクスペリエンス)”も搭載されています。
またステアリングホイールも、「Sクラス」などと同様、各種機能を操作できる最新仕様となったほか、併せてメーターパネルも12.3インチの液晶パネルとなり、速度や回転数の表示だけでなく、ナビゲーションや運転支援システムなど、多彩な情報を表示できるようになっています。
さらに、各種ヒーターやシートの設定、照明などを統合的にコントロールできる“エナジャイジングコンフォート”を全グレードにオプション設定するなど、快適性においても最新装備が導入されたている点は、新型のトピックといえるでしょう。
一方、GLCクーペのルーフラインを目にすると、ラゲッジスペースやリアシートの実用性が気になるところですが、荷室容量はリアシート使用時で500L、後席の背もたれを倒した状態で1600Lと、十分な容量が確保されています。天地にかさ張るレジャー用品などの積載は、さすがに厳しいかもしれませんが、シッカリとした作りの荷室フロアはフラットで使いやすく、スーツケースといった一般的な荷物であれば、難なく積み込むことが可能です。
リアシートも十分なスペースが確保されており、身長180cmの筆者がフロントシートを合わせた状態で後席へ移っても、ヒザ回りに窮屈さを感じることはありませんし、髪がルーフに触れることもありませんでした。
このクラスになると、レジャーや旅行などに家族で使用するケースも多いと思いますが、4名プラス2~3泊分の荷物にも十分な空間を備えつつ、美しく凛々しいスタイルを実現している点は、GLCクーペ最大の魅力といえるでしょう。
■進化したGLCクーペは想像以上に走りが快適
GLC220d 4マチック クーペに搭載されるのは、排気量1949ccの直列4気筒ディーゼルターボ。最高出力は194馬力、最大トルクは40.8kgf-mを発生します。組み合わされるトランスミッションは“9Gトロニック”こと9速ATで、駆動方式は4マチックのネーミング通り、4WDとなっています。
試乗車には、エクステリアパーツやマルチビームLEDヘッドライトなどを含むAMGライン(57万9000円)が装着されていましたが、こちらのパッケージには、エアスプリングや電子制御ダンパーを組み合わせた“エアボディコントロールサスペンション”が含まれています。
さて、今回の試乗コースは、山道を含むカントリーロードが中心でしたが、結論からいうと、その走りと快適性は、先のスペックと1900kgを超える車重から想像する以上の出来栄えでした。
ドライバーズシートに収まりディーゼルターボエンジンをスタートさせると、アイドリング時はかすかにハミングこそ聞こえるものの、エンジンの存在を意識させるほどの振動や雑音は聞こえてきません。公道へ出てアクセルペダルを踏み込むと、1500〜2000回転でも十分なトルク感があり、スムーズに変速する9速ATのサポートもあって、気づくと周囲をリードできるスピードが出ています。
特に、一般的な速度域でのクルージングでは、アクセル操作に合わせてエンジン音が聞こえてきますが、音の粒が細かく、いわゆるノイズの類いは一切意識することがないといえるほど。「褒めすぎ!」という意見も聞こえてきそうですが、少なくとも、車内に伝わる音や振動で同乗者がディーゼルかガソリンかの違いをいい当てるのは、よほどクルマに詳しい人でなければ難しそうです。
今回のエアボディコントロールサスペンション装着車では、エンジンやトランスミッション、ステアリング特性などを、「コンフォート」「エコ」「スポーツ」「インディビジュアル」の4モードに切り替えられる“ダイナミックセレクト”の選択に応じ、足まわりの設定が切り替わります。また、試乗車はAMGライン装着車のため、タイヤはフロント235/55R19、リア255/50R19という大径サイズが装着されていましたが、意外だったのはモードを問わず、乗り心地が快適だったこと。
もちろん、スポーツモードを選べば、相応に引き締まったフットワークを披露しますが、大きめの段差などを通過しても、身構えるような衝撃は伝わってきませんし、荒れた舗装路でもザラザラとした感触が伝わってくることはありません。室内や荷室の使い勝手にも通じる話ですが、クーペとはいえ4名や5名でも乗車が想定されるSUVだけに、こうした走りの快適性も、GLCクーペの美点となるでしょう。
さて、メルセデス・ベンツといえば、各種安全装備や“ADAS(先進運転支援システム)”の充実ぶりも気になるところ。GLCクーペはCクラスに相当するモデルですから、“アクティブディスタンスアシスト”や“アクティブブレーキアシスト”などが含まれる“レーダーセーフティパッケージ”など、装備リストには数々の先進メカが記されています。
「これ以上、何を望むのか?」と思いつつも、エアボディコントロールサスペンションを含むAMGライン、エナジャイジングコンフォートやベンチレーション機能付き本革シートなどを含む“レザーエクスクルーシブパッケージ”(64万5000円〜)といったオプションを追加するには、約120万円のエクストラが必要となります。いざGLCクーペを手に入れようと思った場合、最大の悩みとなるのは、この辺りの取捨選択かもしれませんね。とはいえ、このモデルらしい“才色兼備”にこだわるのであれば、答えは自ずと見えてくるはずです。
<SPECIFICATIONS>
☆GLC220d 4マチック クーペ(AMGライン装着車)
ボディサイズ:L4740×W1930×H1600mm
車重:1940kg
駆動方式:4WD
エンジン:1949cc 直列4気筒 DOHC ディーゼルターボ
トランスミッション:9速AT
最高出力:194馬力/3800回転
最大トルク:40.8kgf-m/1600~2800回転
価格:721万円
(文&写真/村田尚之)
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