■プレミアムブランドとしての土台を固めたTTシリーズ
いきなり筆者個人の話となり恐縮だが、この業界に転職して初めて手掛けた仕事は、アウディに関する本の制作だった。2000年夏のことである。
当時のアウディは“クルマ作り”改革の真っ最中で、プレミアムブランドとしての土台を固めつつあるタイミング。そんなブランド成長期におけるイメージリーダーとなったのが、ドイツ本国で1998年に発売された初代TTクーペだった。そして2000年には、オープン仕様のTTロードスターも登場。先述した本の制作のために、かなりの時間をともに過ごしたことを覚えている。
初代TTロードスターのデザインは、まさに衝撃的だった。“弧”のモチーフをあちこちに散りばめ、真横から見ると、まるでUFOのような独特のシルエット。インテリアも、野球のグローブにインスピレーションを受けたという、太い皮ひものステッチが入った茶色いレザーシートがオプションで設定されていた。それまで見たことのない発想が盛り込まれたデザインの魅力に、思わず引き込まれてしまったのを覚えている。ちなみに上陸当初は、トランスミッションがMTのみの設定だったのも、今となっては懐かしい。
あれから20年。TTロードスターはその後、2回のフルモデルチェンジを経て、2015年に上陸した現行モデルで3代目となった。そんな懐かしい“相棒”とのドライブを、今回、久しぶりに楽しんでみた。
■フロントピラー以降の設計はTTクーペと別物
始めに、現行型TTロードスターについておさらいしたい。このモデルの最大の特徴は、開閉式の屋根を持つオープンモデルだということ。屋根は鉄や樹脂製のハードタイプではなく、古典的な“幌”だが、プレミアムブランドの製品だけに、開閉操作はロックやその解除も含め、スイッチひとつで行える電動式で、走行中でも、約50km/h以下なら開閉可能だ。
屋根を支えるフレームにはマグネシウムやアルミが多く使われ、軽量化に配慮。車体はオープン化による剛性低下を抑えるべく、多くの補強が施されているほか、転倒時の安全対策として、強固なロールオーバーバーも備わっている。
しかし、単なる“屋根が開くTTクーペ”ではないのが、TTロードスターの興味深いところ。ベースモデルとなったTTクーペは、独立したラゲッジスペースを持たないハッチバックスタイルのボディ形状を持ち、荷室のリッドはリアのウインドウ部分まで開くから、開口部が大きい。そのため、スポーツカーとしては異例なほど、実用性が高いのだ。しかも、狭いながらもリアシートが備わっていて、我慢すれば4名乗車も可能としている。
一方のTTロードスターは、リアシートのない2シーターモデルで、ラゲッジスペースも居住空間とは独立した、一般的なトランクになっている。つまり、TTクーペとTTロードスターは、ボンネット後方にあるフロントピラー以降の設計が、全面的に異なるのである。
またTTクーペは、ベーシックグレードの「40 TFSI」に197馬力、上級グレードの「45 TFSIクワトロ」に230馬力という2タイプの2リッター4気筒エンジンを設定するが、TTロードスターはスポーティ仕様の「45 TFSIクワトロ」のみを設定。トランスミッションは“Sトロニック”と呼ばれるデュアルクラッチ式の6速ATで、駆動方式はお馴染みの4WD仕様“クワトロ”となる。
先のマイナーチェンジで、TTロードスターのルックスは変化した。例えばエクステリアは、スポーティなスタイルとなる従来モデルのオプションメニュー「Sラインパッケージ」向けの派手なデザインを採り入れ、バンパー、サイドスカート、そしてリアディフューザーでスポーティ感を強調。従来は水平基調のデザインだったフロントグリルは、アウディのスーパーカー「R8」のエッセンスを採り入れ、マットブラック仕上げの立体的なハニカムメッシュを採用している。
その上で、新型のSラインパッケージ装着車はさらにスポーティな仕立てとなり、バンパー、サイドスカート、リアディフューザーのデザインを従来モデルから刷新。フロントグリルは、グロスブラック仕上げの立体的なハニカムメッシュが特徴的な“3Dハニカムメッシュラジエーターグリル”を採用している。
左右の開口部をグッと幅広くしたフロントバンパーは、かなりダイナミックで初対面ではちょっとやりすぎにも思えたが、見慣れてくるとこれくらいの主張があった方が、いいように思えてきた。
■オープンカーだけど激しく走っても音を上げない
現行TTロードスターのスタイリングにおけるハイライトは、なんといっても斜め後方からの眺めだ。
TTクーペの場合、初代から受け継がれるエクステリアの特徴は、ルーフからダイレクトにつながるリアピラーであるが、歴代のTTロードスターにはそれがない。一方で、荷室のリッドとテールランプの優雅な位置関係は、TTロードスターならではの持ち味で、幌を開けている時はもちろん、幌を閉じていても美しいのが魅力的。何度見ても惚れ惚れする後ろ姿だ。
少し前は、ルーフを閉じると普通のクーペに見える、電動開閉式ハードトップを備えたオープンカーが流行っていたが、最近は幌=ソフトトップの勢力が盛り返してきている。ソフトトップの真骨頂は、軽さという点も大きいが、それよりも、ルーフを閉じた状態でもオープンカーであることを主張するリアスタイルにこそあると思う。
新型TTロードスターは、走りも期待を裏切らない。エンジンは230馬力の高性能仕様だからそれなりに速いし、アクセルペダルを踏むと鋭く回転が上昇するエンジンレスポンスの良さや、精密な機械であることを感じさせる音も心地いい。
そんな中、進化を感じるのは、車体の強靭さだ。20年前の初代に比べるとしっかり感が増していることに驚く。剛性面で不利なオープンモデルながら、クローズドボディとほとんど変わらず、激しく走っても音を上げない。オープンカーの車体はゆるいといわれがちだが、これなら文句をいう人はいないだろう。
一方、ドライビング中に常に視界に入るインテリアは、スポーツカーらしくシンプルだ。
その実現のために、ナビゲーションなどのモニターをドライバー正面のメーターパネルに集約したり、エアコン吹き出し口の中央部にエアコン操作ダイヤルを組み込んだりと、斬新なデザインを採用している。
こうした攻めのデザインも、TTロードスターを始めとするTTシリーズならではの魅力である。
実は世界的に、昨今、オープンボディの小型スポーツカーが激減している。例えばドイツ勢では、かつて一世を風靡したメルセデス・ベンツの「SLK」が生産を終了。BMWの「Z4」とポルシェ「ボクスター」はモデルライフが継続しているが、後者はTTロードスターと比べて、100万円以上も高価だ。一方、日本に目を転じると、マツダ「ロードスター」という身近な名車が存在するが、TTロードスターはそれより高価な分、速さとプレミアム感、そして先進性を手に入れている。そんな状況を踏まえると、TTロードスターというクルマの存在価値は、かつてより高まったといえるだろう。
<SPECIFICATIONS>
☆45 TFSIクワトロ(Sラインパッケージ装着車)
ボディサイズ:L4200×W1830×H1350mm
車重:1510kg
駆動方式:4WD
エンジン:1984cc 直列4気筒DOHC ターボ
トランスミッション:6速AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:230馬力/4500〜6200回転
最大トルク:37.7kgf-m/1600〜4300回転
価格:662万円
(文/工藤貴宏 写真/&GP編集部)
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