■各ブランドのクルマ作りに現れるお国柄
クルマという商品には、各ブランドの“お国柄”が現れる。グローバル化が進んだ現代は、かつてより薄まったものの、そのブランドがどの国で生まれ育ったかによって、クルマの個性は変わってくる。
例えば、アウトバーンという速度無制限区間のある高速道路が存在し、一般のドライバーが合法的に、とんでもない速度で走る機会のあるドイツ生まれのクルマは、一般的に高速域での走行安定性に優れる。ブレーキ性能もまた然りで、高い速度域からしっかりと効き、制動時も車体の挙動は安定している。
信号が赤から青に変わった際のスタート時に、グググッと強く加速するドライバーの多いアメリカで生まれたクルマは、停止/巡行状態からアクセルペダルを踏み込んだ時の勢いがいい。対して、高速道路での最高速度は日本よりわずかに高い程度だから、高速道路ではゆったりと走るのが適している。
楽しさを味わうことが得意な人の多いイタリア生まれのクルマは、見た目に美しく、絶対的な性能よりも、運転する気持ち良さや高揚感といった、ドライバーの気分を盛り上げる演出に長けている。
そして、速度レンジが低く、渋滞も多くてダラダラと走ることの多い日本で生まれたクルマは、とにかく快適性に優れる。燃費が良好で室内も広いなど、実用性が高いのも美点だ。
では、北欧のスウェーデンで生まれたボルボ車は、どんな特徴を持つのか? やはり、冬の現地のように寒いところでこそ長所が見えてくるのだろうか? それを検証すべく、雪の北海道でドライブしたのは、ボルボのV60クロスカントリー。
ミドルクラスのステーションワゴンであるV60をベースとし、ボディはそのまま、車高をアップさせてオフロード性能を高めた全天候型のクロスオーバーSUVだ。
■車内のホスピタリティは北欧車ならでは
2代目となる最新のV60クロスカントリーは、大径タイヤにSUV用のサスペンションを組み合わせることで、V60比で70mmも全高がアップ。都市部に多い機械式立体駐車場への入庫も可能な、1505mmの全高をキープしつつ、210mmもの最低地上高を確保して悪路走破性を高めている(ただし全幅は1895mmなので、停められる駐車場には制約がある)。
エクステリアは、専用のフロントグリルに加え、前後バンパー下やタイヤの周囲に、あえて黒の樹脂製パーツを装着することで“タフギア感”を強調。都会的なV60に対し、SUVらしいルックスに仕立てている。
それでいてボディ自体は、実用性の高さに定評のあるV60と全く同じ。リアシート使用時でも529Lと広いラゲッジスペースに遊び道具をたっぷり積み込んで、キャンプや冬のバカンスに出掛けるのも大得意だ。
さらに、着座位置が高くなったことによる乗り降りのしやすさも、このクルマの隠れた美点といえるだろう。
V60クロスカントリーは、V60シリーズで唯一、機械式4WD(ボルボは4WDではなく“AWD=オール・ホイール・ドライブ”と呼ぶ)を採用しているのも特徴だ。他のV60に用意される4WD機構は、いずれも後輪をモーターで駆動させる仕組みだが、V60クロスカントリーのそれは“ハルデックスカップリング”と呼ばれる電子制御多板クラッチを用いた最新システムで、前輪駆動を基本としつつ、必要な際には瞬時に後輪へと駆動力を伝達。最大で駆動力の約50%を後輪へと伝える。
そんなV60クロスカントリーにおける北欧車らしい個性は、どこにあるのか? 結論からいえば、実は車内に乗り込んだ直後から「やはりスウェーデン生まれのクルマだな」と実感させられた。
例えば、カーナビで目的地を設定する際、一般的なナビは素手でないとタッチ操作を受けつけてくれないが、感圧式や静電容量式ではなく、赤外線式を採用するボルボ車のモニターは、手袋をはめたままでも操作が可能。極寒の地では、乗り込んだ直後の車内は寒すぎるので手袋を外したくない。とはいえナビの目的地はセットしたい…。そんな切実な悩みを解決しているのだ。
さらにハンドルには、ドライバーの手を温めてくれるステアリングヒーターを内蔵。しかもオン/オフだけでなく、シーンや好みに合わせ、温度を3段階に調整できるのだ。
かつてのボルボ車で見られた「厚手の手袋をはめたままシフトレバーを動かしたり、ハンドルを握ったりしても違和感なく操作できる」という北欧車らしさとは方向性が変わったものの、極寒の地で生まれたクルマらしいホスピタリティは、最新モデルでも健在だ。
■予想外に走るのが楽しい雪上のボルボ
ワゴンとSUVの美点を“いいとこ取り”したV60クロスカントリーだけに、雪道における走破性も気になるところ。そこで特設のテストコースを使い、走りの実力をチェックしてみた。
その際、重宝したのが、“ドライブモード”と呼ばれる走行特性の切り替え機能だ。V60クロスカントリーには、悪路走行用の「オフロードモード」が用意されているのだが、それを選択すると、エンジンとトランスミッションの制御がトラクション重視となり、タイヤが空転するとブレーキを制御。もちろん、タイヤの空転を止める仕掛けも作動する。
テストコースでは、最大傾斜20度の坂を上り下りしたり、22度のバンクを走ったり、雪の塊に見立てた高さ20cmの段差を乗り越えたりしてみた。当然のことながら、特別なテクニックなど求められることはなく、いずれもあっけなく、しかもスムーズに走り抜けることができた。
ちなみに20cmという段差は、どんなクルマでも気軽に乗り越えられるものではない。V60クロスカントリーの場合、最低地上高が210mmもあるから楽勝に感じるが、実はこの値は、トヨタ「ランドクルーザー」(225mm)やスズキ「ジムニー」(210mm)といった本格オフローダーにも匹敵するレベル。クロスオーバーSUVの中には、最低地上高が160〜170mm程度のモデルも珍しくないが、それだと20cmの段差を乗り越えるのは、相当厳しいはずである。
同様のシーンをリアルワールドに当てはめると、一般的なクロスオーバーSUVでは、除雪された雪道なら問題なく走れるものの、道路から外れて駐車場へ入る時など、かなり苦労しそうだ。最低地上高の低いクルマは、除雪された雪が盛り上げられた路肩を超える際に“亀の子”状態となり、動けなくなるケースもある。しかし、最低地上高が210mmもあるV60クロスカントリーなら、そうしたリスクをかなり軽減できるのだ。
一方、予想外だったのは、限界領域におけるクルマの挙動。パイロンの周囲をグルグル回る“定常円旋回”と、陸上競技トラックのような楕円形のコースを高い速度で走る“旋回コース”でドライブすると、日常的なシーンでは体験できない、V60クロスカントリーの限界域における“本性”が顔を出す。そこで何より驚いたのは、このクルマには“ふたつの顔”があることだ。
まず、ドライブモードをデフォルトの「コンフォート」にしたままだと、挙動はとても安定。アクセルペダルを踏み過ぎたなどで挙動が乱れそうになると、電子制御が介入して車体の挙動を落ち着かせ、雪上でも危なげなく、かつ確実に、クルマを走らせることができる。
ところが走行モードを「ダイナミック」にすると、エンジン、トランスミッション、ステアリング、ブレーキのセッティングが一変。クルマの横滑りを抑える“ESC”もスポーツモードとなり、運転を楽しめるよう、多少の横滑りを許容するようになる。
ダイナミックモードで走った時の印象は、「スイッチひとつで、ボルボはここまで楽しくなるの!?」というものだった。アクセルペダルを踏み込んで後輪を横滑りさせ、ドリフト状態に持ち込むと、V60クロスカントリーはドライバーのアクセル操作にリニアに反応し、ダイナミックな走りを堪能させてくれる。
もちろん、ドリフトの角度がつき過ぎると、V60クロスカントリーは「もうこの辺にしとけよ」とばかりに挙動を立て直し、状態を安定させてくれるのだが、その介入の度合いが「楽しい運転は許すけれど、危ない領域には踏み入れさせない」といった、ちょうどいい塩梅なのだ。
もちろん、とことん限界まで振り回して遊ぶ、ということはできないため、腕に覚えのあるドライバーには少し物足りないかもしれないが、そういう人向けに、ボルボは“ポールスター・パフォーマンス・ソフトウェア”というオプションを用意している。これを追加すれば、リアタイヤにより多くの駆動トルクを配分できるようになり、さらにダイナミックな走りを楽しめるようになるという。そうした選択肢を用意する辺りは、「ボルボ、分かってるね!」といいたくなる。
今回、雪の北海道でV60クロスカントリーをドライブし、最新のボルボ車にもしっかりと、車内でのホスピタリティを始めとする北欧車らしさが息づいていることを実感した。特に今回ドライブしたV60クロスカントリーは、210mmという最低地上高を武器に雪道でも優れた走破性を発揮し、その上、ドライビングも楽しめる電子デバイスまで用意している。こうした多面的な個性こそが、生まれ故郷の北欧だけでなく、日本を始めとする世界中で、ボルボ車が高い評価を得ている理由ではないだろうか。
<SPECIFICATIONS>
☆T5 AWD Pro
ボディサイズ:L4785×W1895×H1505mm
車重:1810kg
駆動方式:4WD
エンジン:1968cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:8速AT
最高出力:254馬力/5500回転
最大トルク:35.7kgf-m/1500〜4800回転
価格:664万円
(文/工藤貴宏 写真/&GP編集部)
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