■近年では珍しい純和風スタイルのグランエース
トヨタの「アルファード」といえば、大ヒットを記録しているラージサイズミニバンで、街中で目にするたびに「大きいな!」と感じていた。だが、そんなアルファードも、グランエースの前では形なしだ。何しろグランエースのボディサイズは、全長5300mm、全幅1970mm、全高1990mmで、アルファード(全長4950mm、全幅1850mm、全高1950mm/ハイブリッド仕様「エグゼクティブラウンジS」)をすっぽり包み込んでしまうほどの大きさなのだ。おまけに、グランエースのスクエアなスタイルは存在感が強いものの、アルファードとは対照的に、威圧的な雰囲気は感じられない。その秘密は、グランエースの“純和風スタイル”にある。
モデルライフの長いビジネス仕様、ということもあり、グランエースはオーソドックスでありつつ、質感が高く、存在感のあるデザインを目指したとのこと。その上で開発陣は、ひと目で日本車と分かるスタイルも重視したという。その背景には、海外でのニーズや外国人の目線を意識した、ということもあるだろうが、グランエースは系統的に、フォーマルなシーンで活躍してきた、かつての「クラウンセダン」のポジショニングを目指したのではないだろうか。その落ち着きある雰囲気は、まさに“現代版クラウンワゴン”と呼びたくなる。それは、ボディカラーのラインナップからもうかがえる。設定されるのは、落ち着きある色調の、ブラック、ホワイトパール、グレーメタリック、シルバーメタリックの4色のみ。しゃれっ気は薄いが、そのたたずまいはどこか凜としている。
グランエース誕生の背景には、大勢の人と多くの荷物を同時に運べる、快適性の高い送迎車が日本車には不在だった、という事情もある。唯一のライバルといえるのは、メルセデス・ベンツの「Vクラス」で、開発担当者が「都内の超一流ホテルにあるワゴンタクシー用の乗り場にはVクラスしか停まっていない」というように、これまで日本車が挑んでこなかったカテゴリーなのだ。
現在、日本車で送迎用ミニバンの主役を務めるのは間違いなくアルファードだが、2名の顧客と彼らの荷物を同時に運ぶには、荷室容量が不足するケースがある。そのため、Vクラスのようなフルサイズミニバンが重宝されているのである。
とはいえ、いくら商売上手なトヨタといえども、グランエースの年間目標販売台数を600台と控えめに見積もるように、ニッチな市場であることは間違いない。そこでトヨタは、自社で展開する多彩なモデルの中から、グランエースのベース車には何が最適かを吟味。その結果、2019年より海外マーケットに投入されている、新型「ハイエース」の標準ボディ車に白羽の矢が立った。
そういわれれば確かに、雰囲気や形状に新型ハイエースの面影を残すグランエースだが、中身は別物といえるほどの改良が加えられている。まず、走行安定性を高めるべく、モノコックボディ自体を改良。ストレートラダー構造を持つフロアに加え、上屋となるボディパネル内部を“環状骨格構造”とすることで、ボディ剛性を高めている。さらに、リアのサスペンションを新開発したほか、日本の道路事情を加味したチューニングを加えることで、アルファードと同等の快適な乗り心地を実現したという。
エンジンは、2.8リッター直列4気筒クリーンディーゼルターボを搭載し、最高出力177馬力、最大トルク46.1kg-mというパワフルさを誇る。なお、トランスミッションは6速ATで、駆動方式はFRのみとなる。
■ボディサイズを活かした広くて快適なキャビン
ボディの大きさを活かし、とても広々としたキャビンを手に入れているグランエース。そのグレードラインナップは至ってシンプルで、3列シートを備えた6人乗りの上位グレード「プレミアム」と、4列シートを備えた8人乗りの標準仕様「G」の2種類のみとなる。
中でも、グランエースのコンセプトを最も体現しているのがプレミアムだ。広いキャビンには、フロントの2席以外にリアの4席しかなく、しかもリアシートのすべてが、多彩な機能を盛り込んだ独立式の“エグゼクティブパワーシート”となる。このシートには、電動式のリクライニング機能とオットマンに加え、シートヒーターや調整式大型ヘッドレストなどが備わっており、しかも、他の乗員に気を使う必要がないよう、リクライニングとオットマンの使用スペースも十分割かれている。
中でも2列目シートは、ファーストクラスと呼びたくなるほどの快適さ。その上、2列目/3列目シートの足下にゆとりのスペースを確保したまま(3列目シートはリクライニング角度に制約が生じるが)、最後部に約90Lのスーツケースを4個収納できるだけの荷室も確保した。
8人乗りのGグレードは、2列目シートにこそエグゼクティブパワーシートがおごられるが、3列目シートはシンプルなキャプテンシートに、4列目シートはソファシートになるなど、ポジションによってシート形状が異なっている。おまけに、プレミアムよりシートが1列増えたことで、当然のことながら足下スペースのゆとりはスポイルされており、このクルマを選ぶ価値がやや薄れている感がある。
ちなみにリアシートへのアクセスは、左右に大型の電動スライドドアを備えること、そして、2列目シートの間に(Gの場合は3列目シートの間も)しっかりと通路スペースが確保されていることもあって、乗り降りしやすく、車内での移動もラクだ。そんな中、唯一、課題となりそうなのは、フロアの高さだろう。後席への乗降性を高めるべく、スライドドアを開けた内側にステップが設けられているのだが、その高さが路面から410mmの位置にあるため、乗り降りしにくいと感じる人もいるだろう。ただしこの点は、トヨタも課題として捉えているようで、今後、オプションで追加ステップの設定などを検討しているということだ。