送迎車だけじゃもったいない!?ドライバー目線で見たトヨタ「グランエース」の魅力と未来

■グランエースは心地良さと運転する楽しさを両立

グランエースの走りで最も注目すべきは、送迎車として見た場合の快適性だろう。実際、リアシートに座って乗客目線で評価した場合、その走りは快適そのものだった。

静粛性の高さは上々で、ディーゼル車のため小さなエンジン音こそ響くものの、最後列のシートに座っていても、ドライバーとストレスなく会話ができるレベルでしかない。降りる際に、ドアを開けてすぐ耳に飛び込んでくる街の喧騒を実感したほどだ。これなら移動中、車内でミーティングなどを行うことも十分可能だろう。

もちろん、乗り心地も申し分ない。単にソフトというだけでなく、しっとりとした感触で、クルマの動きが不快なものとして伝わってこない。全長5mをはるかに超える長いボディながら、運転席と後席とで感じるクルマの動きに差異がない。開発者によると、「移動時に酔わないクルマを目指した」というが、それも十分うなずける。高いボディ剛性とこだわりの足回りによる賜物といえるだろう。

そんなグランエースであえて強調したいのが、ドライバー目線によるドライブフィールだ。

全長が5mをはるかに超え、しかも、車幅も2mに迫る巨体と聞けば、運転すること自体、厄介に感じるのではないだろうか? 何を隠そう、筆者も試乗前にはそうしたイメージを抱いていた。しかし、それは杞憂に過ぎなかった。グランエースはかなり運転しやすく、しかも運転を楽しめるクルマだったのだ。

グランエースはプロドライバーが運転するクルマだけあって、ドライバビリティへのこだわりがものすごい。まずFRレイアウトを採用しているため、車体の動きにクセがなく穏やか。おまけに、ハンドルをいっぱいに切ると前輪が45度も切れるため、最小回転半径はアルファードと同等の5.6mしかなく、見た目よりも小回りが利く。もちろん、狭い道路を走る際や駐車時などは、ボディの大きさを踏まえた運転操作が必要となるが、それさえ押さえておけば、大きさを持て余すシーンはそうそうないだろう。

一方、強靭なボディと粘りある足回りは、いかなる時でも安定感ある走りを提供してくれる。その上、コントロール性に優れるブレーキ、滑らかな油圧式パワーステアリング、トルクフルなディーゼルターボエンジン、シフトダウン&キープといった変速やアクセルワークに対して的確な6速ATなどが相まって、グランエースはドライバーの意のままの走りを実現している。“ドンくささ”とは無縁であり、コーナリング時の安定した姿勢はスポーティにさえ感じるほどだ。

開発者が「世界初・日本初の機構や装備はひとつもない。その代わり、クルマとしての基本を忠実に磨き上げた」と力強く語るグランエース。その言葉を裏づけるように、実に真面目に作られたクルマだと思う。ニッチな市場向けに開発されたクルマだけあって、特にオーナーカー目線でチェックした場合、あら削りな部分も見受けられるが、トヨタ自身、グランエースはしっかり育てていかなくてはならないと認識しているため、この先、進化を重ねていくことだろう。

個人的には、走りの素性の高さから、グランエースに「GR」仕様が登場しても面白いのではないか、と想像した。GRとは“GAZOO Racing(ガズー・レーシング)”の頭文字を冠したトヨタのスポーツカーブランドであり、モータースポーツ活動やスポーツカーの企画・開発を担当するトヨタの社内カンパニー“GRカンパニー”がプロデュースする仕様だ。

かつてアメリカのフルサイズワゴンには、走りのイメージを強く押し出した仕様が存在していたし、欧州のルノーは“ワンオフ”で、「エスパスF1」というF1エンジン搭載のミニバン型レーシングカーを発表したこともあった。くだらない妄想といえばそれまでだが、丁寧に基本を作り込まれたクルマにはそれだけの伸びしろがあり、あらゆる可能性へとつながっていく。この先、グランエースというクルマがどんな成長を遂げるのか、未来の展開が楽しみでならない。

<SPECIFICATIONS>
☆プレミアム
ボディサイズ:L5300×W1970×H1990mm
車重:2740kg
駆動方式:FR
エンジン:2754cc 直列4気筒 DOHC ディーゼル ターボ
トランスミッション:6速AT
最高出力:177馬力/3400回転
最大トルク:46.1kg-m/1600〜2400回転
価格:650万円

<SPECIFICATIONS>
☆G
ボディサイズ:L5300×W1970×H1990mm
車重:2770kg
駆動方式:FR
エンジン:2754cc 直列4気筒 DOHC ディーゼル ターボ
トランスミッション:6速AT
最高出力:177馬力/3400回転
最大トルク:46.1kg-m/1600〜2400回転
価格:620万円

(文&写真/大音安弘)


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