■992型はスタンダード仕様でもワイドボディを採用
1964年の初代デビュー以来、911はリアにエンジンを搭載する車両レイアウトを基本とし、進化を重ねてきました。50余年にも及ぶヒストリーをひと言で語ることなどできませんが、その歩みをたどると、守るべきは守りつつ、4WDモデルの設定やエンジンの水冷化など、時代の要請に合わせて大きな変化も遂げています。
では、2019年秋に日本へ上陸した最新型の“タイプ992”は、果たしてどのような進化を遂げたのでしょうか? シリーズの先陣を切って日本に上陸した4WDモデル、「911カレラ4S」を中心にチェックしてみたいと思います。
最新型911で注目すべき進化は、大きく3つ。まずひとつ目は、ボディの拡大です。新型のスリーサイズは、カタログ値で全長4519mm、全幅1852mm、全高1300mm。先代の“991型”カレラ4Sと比べると、全長でプラス14mm、全幅は変わらず、全高はプラス5mmという具合。あまり変わっていないように見えますが、これは、現行モデルも先代カレラ4Sもワイドボディが標準だから。
先代のベースグレードである2WDの「カレラ」は、全幅が1808mmと45mmほど細身でしたが、新型ではベーシックなカレラの全幅も拡幅され、1852mmのワイドボディが採用されています。それに合わせ、タイヤ&ホイールのサイズも拡大されていて、ホイールは991型の前後19インチから、フロント20インチ、リア21インチとなっています。
エクステリアを仔細にチェックすると、丸いヘッドライトや緩やかなカーブを描くルーフライン、張り出したリアフェンダーなど、911を象徴するアイコンに変わりはありません。しかし、バンパーに設けられたインテークの形状や、横一文字型のテールランプといったディテールが最新ポルシェに準じた意匠となったこと、また、ドアハンドルが格納式となったことに気づきます。
しかし、そういった見た目の変化は、今回のモデルチェンジにおいてはほんの序の口。ボディ各部に軽量なアルミ材を使用し、車体サイズが拡大した分を相殺するなど、見えない部分まで進化を遂げています。ボディ単体の重量は240kgで、先代のそれより12kgも軽量化。それと同時に、ボディ単体の曲げ剛性とねじれ剛性も向上しています。今回試乗したカレラ4Sは、車両重量1565kgと従来よりも微増となっていますが、ボディサイズの拡大やメカニズムの充実などを踏まえると、かなり頑張った数値であるのは間違いありません。
ふたつ目は、水平対向6気筒エンジンの進化です。先代の991型カレラ4Sは、2015年のマイナーチェンジで3.4リッターの自然吸気式から3リッターのツインターボエンジンへと刷新されました。新しい992型は同エンジンを継承しながら、ターボチャージャーの大型化や吸排気系の見直しを図ることで、従来型を30馬力上回る、450馬力の最高出力を獲得しています。また、組み合わされるトランスミッションも、出力特性に合わせて多段化。デュアルクラッチ式の8速“PDK”が標準となりました。
■まさにスキなしといえるほど充実した先進デバイス
そして3つ目の進化が、“ADAS(アドバンスド・ドライバー・アシスタンス・システム/先進運転支援システム)”を始めとする先進デバイスの充実です。
衝突被害軽減ブレーキや、前方/後方に障害物を検知すると警告するパークアシストなどはもちろん標準ですが、オプションとして“アダプティブクルーズコントロール”や“レーンキープアシスト”なども用意されており、長距離ドライブにおける疲労軽減も図られました。
また、シャーシや制御系については、路面状況やドライビングスタイルに応じてサスペンションの減衰力をコントロールする“PASM(ポルシェ アクティブ サスペンション マネジメントシステム)”や、車両の挙動を安定させる“PSM(ポルシェ スタビリティ マネジメントシステム)”を標準装備。さらに、降雨時などに路面の水を検知し、ドライバーの運転操作を支援する“ウェットモード”も備えるなど、まさにスキなしといえるほどの充実ぶりです。
加えて、ポルシェには欠かせないスポーツドライビング向け装備として、スポーツエグゾーストシステム(43万3890円)や“PCCB(ポルシェ セラミックコンポジット ブレーキ)”(148万7037円~)、“リアアクスル ステアリング”(37万4815円)がオプションリストに記載されていますし、最大限のスロットルレスポンスが20秒間継続する“スポーツレスポンス”や、よりダイレクトなドライビングを楽しめる「スポーツ」、「スポーツ+」などの走行プログラム設定が可能な“スポーツクロノパッケージ”(38万8056円)も用意されています。
走りを心底楽しみたい! という人に対し、信頼性がしっかり担保されるメーカーオプションも充実しているというのは、911ならでは。
またオプションリストには、こうした機能装備に加え、内外装のアレンジやオーディオ、インテリアのコーディネートなど、実に多彩なメニューも記載されています。年間2万5000台規模で生産される911であるにも関わらず、こうした細かなオーダーに応えてくれるところも、ポルシェの魅力といえるでしょう。
■911らしさが残るインテリアと走行フィール
タイプ992の実車と対面しての第一印象は、やはり「大きくなったな」というのが偽らざるところ。水冷化された直後の“996型”、“997型”も、初対面の際には同じような印象を抱きましたが、その一方、ボディを構成する曲線には、柔らかさや線の細さによって生まれる繊細な美しさがありました。では、最新の992型が曲線的な美しさを失ったのか? と問われれば、そんなことはありません。むしろ、アスリートや肉食動物のような躍動感や力強さが増した、というのが正確かもしれません。
とはいえ、ドアを開けてシートに収まり、フロントウインドウ越しに望むフェンダーの峰や、サイドミラーに映るリアフェンダーの膨らみを見ると、「そうそう、これが911だよね」という、不思議な安心感があります。それは、インテリアデザイン全体から受ける印象も少なからず影響しているのかもしれません。
例えばセンターコンソールには、10.9インチのモニターが収まり、ドライバー正面に位置するメーター類も、タコメーターの左右はついに液晶パネル化されました。しかし、眼前に広がるメーターパネルは、間違うことなき911のそれ。ダッシュボード形状が空冷エンジン時代のモデルをモチーフとした意匠に改められたのも、そうした印象を強くしているようです。
さて、「ドンッ!」とも「ボンッ!」とも表現しがたいサウンドとともに目覚めたフラット6エンジンの迫力に圧倒されつつ、公道へと歩みを進めます。威勢のいいエンジンスタートとは裏腹に、ストップ&ゴーを繰り返す市街地や、ゆるゆると這うように進むようなシーンでも気難しさを感じないのは、これまでの911と同様。まずはひと安心です。また、車体の背後から聞こえる硬質なフラット6サウンドは、直噴ターボ仕様となっても踏めばしっかり応えてくれるタイプで、従来モデルを知る人なら納得の響き、初めて聞く人にとっても心地よい高揚感を与えてくれる音質です。
程なく、少々流れの速い自動車専用道路へと上がりましたが、真っ先に感じたのは、車体が従来以上にガッシリしたな、ということ。そして、車重を感じさせない軽やかさや、全体を貫く圧倒的な精度感がさらに増した、ということでしょうか。まるでアルミの塊から削り出したかのような強固なボディ、一切ゆがみのないピシッと芯の通ったステアリング系や足回りの高い精度…、そんなイメージの感触です。快適性を追求したサルーンではありませんから、足回りは相応な硬さではありますが、大小を問わず不快と感じる振動などを感じることはありません。
走る舞台を山道に移しても、そうした好印象は変わりません。しかも昨今の911、少なくともカレラ系モデルは、腕に自信のあるドライバーがサーキットでなければ真価を見出せない、といった仕立てではなく、ゆったり流す程度でも気持ちいい走りや価格に見合った作りの良さを感じられるのも美点。特に最新の電子制御+4WDを搭載したカレラ4Sでは、もはや苦手科目などあるはずもなく、路面コンディションを気にすることなくワインディングを楽しめます。
完全無欠というと、いささか褒めすぎではありますが、最新の992型カレラ4Sは、スーパーカーリーグにおいても上位に食い込めるだけのパフォーマンスを有しながら、普段使いもこなせるほど扱いやすいのは事実。ドライバーをアシストする電気仕掛けも多数採用されていますが、“機械”としての骨太な作りと精度の高さは、群を抜く仕上がりを実現したといっても過言ではないでしょう。
価格などを考えると高嶺の花ではありますが、一度でも触れてしまうと、それも納得させられるだけの魅力に満ちあふれた最新の992型。“最新こそ最良”なる911の形容詞は、依然として健在です。
<SPECIFICATIONS>
☆カレラ4S
ボディサイズ:L4519×W1852×H1300mm
車重:1565kg
駆動方式:4WD
エンジン:2918cc 水平対向6気筒 DOHC ツインターボ
トランスミッション:8速AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:450馬力/6500回転
最大トルク54.0kgf-m/2300~5000回転
価格:1804万8148円
(文&写真/村田尚之)
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