■日本でもなんとか日常使いできそうなサイズ
キャデラックといえば、GMを代表する、アメリカきっての高級車ブランド。現在、日本で発売されているGMのブランドは、キャデラックとシボレーのふたつのみですが、アメリカ本国ではそのほかに、ビュイックやGMCを展開。また、古くからのクルマ好きであれば、かつてオールズモビルやポンティアックなど、多彩なブランドをラインナップしていたことをご存知のことでしょう。
ここでは、世界を取り巻く経済状況の変化などにはあえて触れませんが、リーマンショックと前後して、GMではブランドの統廃合や整理が進んだのも事実。そんな中にあってキャデラックという響きは、やはりアメリカ人にとっては特別で、アメリカ本国では日本にも導入されているサルーンの「CTS」と「CT6」や、クロスオーバーSUVの「XT5」に加え、サルーンの「CT4」と「CT5」、クロスオーバーSUVの「XT4」も展開しており、それぞれ好調なセールスを記録しています。また、キャデラック製SUVといえば、日本でも販売されているフルサイズモデルモデル「エスカレード」の堂々としたたたずまいを思い浮かべる人もいるかもしれませんね。
さて、2020年1月から日本への導入が始まったXT6は、エスカレードよりひと回りコンパクトな新世代クロスオーバーSUVとして、2019年のデトロイトショーでデビューを飾りました。「ひと回りコンパクト」とはいえ、XT6の全長は5060mm、全幅は1960mm、全高は1775mmとなかなか立派なサイズで、車内には3列シートを配置。本国には6人乗りと7人乗りが用意されますが、日本向けには2列目席が左右独立した、キャプテンシート仕様の6人乗りが選ばれています。
3列シートSUVといえば、真っ先に思い浮かぶのはマツダ「CX-8」ですが、XT6はそれよりも160mm長く、120mm幅広いサイズ。同じく3列シートを配したボルボ「XC90」と比べると、110mm長く、幅は同じ、というディメンションを採ります。また、レクサスSUVの頂上に立つ「LX570」よりは、全長、全幅ともに20mm小さいといえば、XT6の大きさを想像いただけるでしょうか。さすがに入り組んだ市街地では気をつかうサイズですが、他車との比較を見れば、日本でもなんとか日常使いできそうな範囲に収まっているといえるでしょう。
■キャデラックならではの高級感の“見せ方”
XT6に搭載されるのは、3.6リッターのV6直噴エンジンで、最高出力は314馬力、最大トルクは37.5kgf-mを発生します。トランスミッションには最新の9速ATが採用されていて、駆動方式は4つのドライブモード(ツーリング/AWD/スポーツ/オフロード)を備える4WDとなっています。
また、“ADAS(先進運転支援システム)”を始めとする安全装備類も充実。前方の交通状況をモニタリングし、衝突の危険性を感知すると警告を発して自動ブレーキをかけ、被害を軽減する“フォワードコリジョンアラート”や、“フロント歩行者対応ブレーキ”、先行する車両との距離を一定に保って追従する“アダプティブクルーズコントロール”などを標準装備するほか、“レーンキープアシスト”やオートマチックパーキングアシストなど、多彩なセーフティデバイスが備わります。
さらに、豪華で快適な装備類も、高級車ブランドの面目躍如といったところ。シート生地にはセミアニリン仕上げのレザーが用いられていますし、前席と2列目席にはシートヒーターを内蔵。
その上、2列目と3列目シートは電動可倒式で、それらをワンタッチですべて折り畳むことで、ラゲッジスペース容量は最大2228Lまで広がります。
そのほか“キャデラックユーザーエクスペリエンス”と呼ばれるインターフェイスは、タッチ操作を始めとする多彩な操作に対応。イマドキのクルマらしく、Apple CarPlayやAndroid Autoにも対応しています。
このような予習を踏まえた上で、ようやく初対面が叶ったXT6は、エッジと面の巧みな使い分けと、凛々しい顔つきとが相まって、SUVとしてはかなりスマートな印象です。もちろん、相応のサイズ感はあるものの、だらしなく大きいわけではなく、ラグビーやアメフト選手のように堂々とした体つきといった雰囲気。また、細部に配される上質なメッキパーツが、程よく知的なイメージをプラスしています。
さて、ドアを開けて運転席に収まります。ドアを開け閉めする際の感触も、かつてのアメリカ車とは一線を画す、しっとり上質なタッチで、これなら欧州車から乗り換えても違和感はなさそう。以前のアメリカ車は、デカくて重いドアを開け、硬い金属どうしが「ガシャン」とぶつかる…といったイメージでしたが、そうした感触は、もう2世代、3世代の前の話ということを、改めて学びました。
インテリアに目を向けると、樹脂製パーツの質感や感触もプレミアムブランドらしく上質で、インパネ回りのデザインや色使いも品よく、モダンにまとめられています。このように書くと、「グローバル化でアメリカ車の個性も失われてしまったのか?」と思われそうですが、そんなことはありません。
例えば、身長180cmの筆者にも十分なサイズのシートは、表面のタッチはしっとりソフトで、クッション部分のストロークもたっぷり。それでいて、芯となる部分はガッチリしていて、快適かつリラックスした姿勢をとることができます。さらに、緩やかに傾斜したインパネや、十分な頭上空間により、フロントシート回りの開放感は良好です。
その上で、ルーフライニングにはシートカラーとコーディネートされたバックスキン調素材が使用されるなど、高級感の“見せ方”もさすがといったところ。
また、室内スペースも車体サイズをムダなく生かしており、セカンドシートは一般的な体格であれば足下や頭上空間や十分以上。サードシートも窮屈さを感じることはありません。
■なかなかの美声を響かせる3.6リッターV6エンジン
走らせてみると、XT6はアメリカ車の美点はそのままに、全体的な信頼感が大きく向上していることを実感しかす。ハンドルやペダル類は比較的軽めに設定されていますが、操作フィールは自然ですし、反応もスムーズ。また、レバーやスイッチ類なども節度感ある感触で、クルマを動かすために触れる部分で、不自然さを感じることは一切ありませんでした。
そんな中、思わずニヤリとしてしまったのが、想像よりも洗練されていたエンジン音と乗り心地。運転席に座りながら、3列目シートの乗員と自然に会話を楽しめるほど、優れた静粛性が確保されている一方、右足に力を込めると「シュルシュル」と品の良いV6サウンドがかすかに響きます。昨今のガソリンエンジンとしてはなかなかの美声で、クルマのキャラクターに合った心地良い音といえるでしょう。
また、乗り心地も洗練されていて、当たりはソフトなのに懐深くコシがある、といった印象。ちょっとしたワインディングでも不安を感じることはありません。もちろん、車重が約2トン超えの重量級ですから、活発な走りを望むのは的外れかもしれませんが、滑らかな加速感と程よくソフトな乗り味は、長距離ドライブも難なくこなしてくれそうです。
今でも「アメリカ車はデカくて…」というステレオタイプなイメージを拭いきれない人がいるかもしれません。「時代錯誤もはなはだしい」とは分かっていても、筆者もそんな印象を少なからず抱いていたひとりでした。しかしXT6は、アメリカ車らしい“大らかさ”こそ感じさせますが、“大味”な感触は皆無。「ミドルクラス以上のSUVを検討しているが、なかなか決め手に欠ける」という人にとって、XT6は望外の驚きにあふれた出合いとなるかもしれません。
<SPECIFICATIONS>
☆プラチナム
ボディサイズ:L5060×W1960×H1775mm
車重:2110kg
駆動方式:4WD
エンジン:3649cc V型6気筒 DOHC
トランスミッション:9速AT
最高出力:314馬力/6700回転
最大トルク:37.5kgf-m/5000回転
価格:870万円
(文&写真/村田尚之)
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