■軽自動車と“カニバって”もホンダ車が売れればいい
――新型フィットの車内空間は、3代目と比べて広くなっているわけではありませんよね。「広さはもうこのくらいでいい」と、ユーザーは感じているという解釈ですか?
田中さん:そうですね。歴代モデルを通じ、広さについてはかなり満足いただいていたので、新型ではやはりニーズとしてあった、コンパクトなボディサイズの実現を優先しました。ただし広さについても、数値上はやや狭くなっているものの、必要な部分の広さは確保していて、事実上、変わらない広さを確保しています。
――フロントウインドウ越しの視界の広がり方は、新しい価値だと感じました。
田中さん:そこはこだわった部分ですね。ワイドに広がる景色を面白いと感じていただきたいのと同時に、運転しやすいとも感じていただきたいと思っています。視界のよさを望む潜在ニーズは、少なくありませんでした。
――ところで新型は、これまでと比べて新しく高価な“e:HEV”と呼ばれるハイブリッドシステムを用いています。また、発売タイミングの関係もありますが“ホンダセンシング”という先進安全装備も上級モデルを上回る内容が盛り込まれました。それでいて価格は、3代目に比べて1.5倍になったわけではありません。どこでどのように帳尻を合わせているのでしょう?
田中さん:大胆に資源の再配分を行う、ということを、開発初期に決めました。おっしゃる通り、e:HEVやホンダセンシングにはコストがかかっています。その分、3代目に備わっていたもののうち、どこかを削らなければなりませんでした。例えば新型は、初代から3代目まで備わっていたリアシートのリクライニング機能を省略し、背もたれの角度を、快適だと感じる人が多いとされる27度に固定しました。そのほかでは、パドルシフトもなくしています。
――それらについて、不満は出ていませんか?
田中さん:確かに、不満に感じられるお客さまもいらっしゃると思いますが、それよりも優先すべきと考えたものがあった、ということです。その一例が、先代よりも使用範囲を減らした加飾パーツです。3代目のインテリアは、クロームのパーツをところどころに配して高級感を演出していましたが、新型のインテリアでは、ダイヤルスイッチの縁取り部分などを除き、ほとんど“光りモノ”を使っていません。方向としては、快適性を向上させる部分に重点配分しています。
――さて、ホンダには“Nシリーズ”という、脱・軽自動車レベルの内容を誇る軽自動車があります。その上級グレードは、価格もフィットのベーシックグレードと重なってくるのですが、田中さんからご覧になられて、Nシリーズとはどういう存在ですか?
田中さん:価格的にはフィットと重なる部分があり、“カニバる”かもしれませんが、私はそれでいいと思っています。どちらにせよ、ホンダ車が売れるということですので(笑)。われわれ売る側は、軽自動車市場と登録車市場があると考えがちです。メディアの皆さんもそうかもしれません。でもお客さまにしてみれば、どちらも150万円~200万円のスモールカー市場に存在する、2種類の商品だと思うのです。コンパクトカーと軽自動車の販売台数を合わせると、ものすごいボリュームになりますよね。乗用車として最大の市場です。その大市場に対し、メーカーが複数のモデルを展開したとしても、不思議ではありません。
――200万円~300万円、300万円~400万円といった他の価格帯の市場にも、多様な選択肢があるじゃないか、ということですね?
田中さん:そうですね。一方、お客さまの中には、イメージや好みなどさまざまな理由から、いくら内容がよくても軽自動車は候補から外す、と決めている方や、必ず軽自動車の中から選ぶ、という方もいらっしゃいます。なので、価格帯を区切って商品を用意する必要はなく、それぞれ良いクルマを用意することが大切だと思います。
* * *
何を聞いても面白く、歯切れよく回答してくださった田中さん。開発責任者の話が面白ければ、たいてい生まれてきたクルマも面白く、そうでない場合は、そうでないことが多い…。そうした点を踏まえても、新型フィットは久々に、魅力的な国産コンパクトカーだといえる。中でも筆者のオススメは、スムーズで力強い走りが魅力のハイブリッド仕様だ。
<SPECIFICATIONS>
☆NESS[ネス](FF)
ボディサイズ:L3995×W1695×H1540mm
車重:1090kg
駆動方式:FF
エンジン:1317cc 直列4気筒 DOHC
トランスミッション:CVT
最高出力:98馬力/6000回転
最大トルク:12.0kgf-m/5000回転
価格:187万7700円
<SPECIFICATIONS>
☆e:HEV HOME[ホーム](FF)
ボディサイズ:L3995×W1695×H1515mm
車重:1180kg
駆動方式:FF
エンジン:1496cc 直列4気筒 DOHC+モーター
トランスミッション:電気式無段変速機
エンジン最高出力:98馬力/5600〜6400回転
エンジン最大トルク:13.0kgf-m/4500〜5000回転
モーター最高出力:109馬力/3500〜8000回転
モーター最大トルク:25.8kgf-m/0〜3000回転
価格:206万8000円
(文/塩見 智 写真/&GP編集部)
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