■モデル3のサイズ設定は日本の道とも好相性
日本においては、日産「リーフ」の健闘もあり、徐々にではありますがEVが市民権を獲得しつつあります。一方のテスラは、本拠地のアメリカやヨーロッパではかなり頻繁に見かけますし、東京都内など日本の都市部でも、モデルSを見掛ける機会が増えてきました。
そんな中、2019年5月に日本での受注がスタートし、昨秋からデリバリーが始まった新しいモデル3は、これまでスポーツカー、ラージサルーン、大型SUVを上陸させてきたテスラにとって、日本市場でのラインナップ拡充とさらなるセールス拡大を図る上で、待ち望まれていたモデルといえるでしょう。
そんな重責を担うモデル3のボディサイズは、全長4694mm、全幅1849mm、全高1443mmで、イメージとしてはメルセデス・ベンツ「Cクラス」や「マツダ3」のセダンより、やや幅広いといったところ。スッキリと洗練されたデザインもあって、寸法よりコンパクトに映りますが、実際にはサルーンとして大きすぎず、小さすぎずという絶妙なサイズ。混雑した都市部や狭い駐車場などでも、扱いに困ることはなさそうです。
モデル3はグレード展開もなかなか巧みで、EVに興味がある人にとっては、かゆいところに手が届く設定となっています。現在、日本向けには、
◎スタンダードプラス(パーシャルプレミアムインテリア)
・価格:511万円
・駆動方式:後輪駆動
・航続距離:409km
・0-100km/h加速:5.6秒
◎ロングレンジ(プレミアムインテリア)
・価格:655万2000円
・駆動方式:デュアルモーターAWD
・航続距離:560km
・0-100km/h加速:4.6秒
◎パフォーマンス(プレミアムインテリア)
・価格:717万3000円
・駆動方式:デュアルモーターAWD
・航続距離:530km
・0-100km/h加速:3.4秒
という3グレードを展開。メカニズムにおける違いは、駆動方式からも想像できる通り、スタンダードプラスはひとつのモーターがリアシート下部に、ロングレンジとパフォーマンスでは、それにプラスしてフロントにもモーターが備わるほか、リチウムイオンバッテリーの容量も異なります。
ちなみに、充電は“ウォールコネクター”と呼ばれる自宅用充電器のほか、日本国内に20カ所以上設置されている、“スーパーチャージャー”と呼ばれる専用の急速充電器で行うほか、日本各地にある急速充電器“CHAdeMO(チャデモ)”や、普通充電器にも対応しています。
装備内容は、エントリーグレードというべきスタンダードプラスでも、ヒーター付きの12ウェイ電動調整式フロントシートなど、快適装備がひと通りそろっていますし、ロングレンジとパフォーマンスでは、さらに14スピーカーのプレミアムオーディオや、交通状況がリアルタイムで反映されるナビシステムを始めとする“プレミアムコネクティビティ(1年間)”も備わります。
また、イマドキ欠かせない先進運転支援システムは、テスラらしさが最も色濃い部分で、160m離れた物体も捉える前方レーダー、車両周囲を見渡す12の超音波センサー、360度をカバーするカメラなどを搭載。その上、衝突警告や緊急ブレーキ、同一車線内での運転支援などを行う“オートパイロット”なども標準装備されます。ちなみにモデル3は、さらに高度な運転支援にも対応可能ですが、こちらは法整備の状況によりけり、というところ。とはいえ、通信を利用してシステムのアップデートで対応可能となる点は、テスラの真骨頂ともいえるでしょう。
気になる性能は、スペックシートを見る限り、航続距離は十分実用的で、加速性能に関しては、スタンダードプラスでも2リッター級の国産スポーツモデルを凌駕。パフォーマンスに至っては、ポルシェ「911カレラ」をしのぐほどです。もちろん、日本は寒暖差が激しいですし、都市部ではストップ&ゴーが頻繁ですから、これらのデータはあくまで“ご参考”までにというレベルですが、EVオーナー予備軍の要求を満たすグレード展開とパフォーマンスを実現したモデルといえそうです。
■クルマとしての完成度が大幅に高まった
今回試乗したモデル3は、高性能版のパフォーマンス。その第一印象は「クルマとしての作りが随分しっかりしてきたな」というものでした。筆者はデビュー直後のモデルSにヨーロッパで触れた機会があるのですが、当時のテスラはその価格を考えると、内外装におけるディテールの仕上げや感触などが「もうひと頑張りして欲しい」というのが、正直な感想でした。とはいえその後、各モデルとも細部のクオリティが日を追うごとに向上し、今回のモデル3に至っては、プレミアムセダンとして見ても、しっかり水準をクリアしています。
カードキーをフロントドア後方のピラー部にかざしてドアロックを解除し、車内に収まります。シートの出来は想像以上で、ソフトな表皮とストロークのあるクッションによって生まれる掛け心地は、ちょっとした高級ソファのよう。しかし、腰や腿の辺りは程よくサポートしてくれるので、運転中にカラダが揺れて不安、ということはありません。
インテリア全体を見渡すと、ダッシュボードやセンターコンソールなどの質感や仕立ても、なかなか上質です。とはいえ目の前に広がるのは、横基調のダッシュボードとその中央に備わるタッチパネル式の15インチモニターのみ、というのは、装飾的なクルマの内装を見慣れた目には、ちょっと違和感があるかもしれません。「実用上どうなのか?」といえば、視線の移動を伴わない旧来の物理スイッチやダイヤルは、安全性や信頼性という点で勝る部分がありますが、エアコンやナビゲーション、オーディオといった主要操作を音声コマンドで行えるモデル3も、不便に感じることはありませんでした。
デザインとして見るならば、シンプルさやクリーンさを追求するというのも、ひとつの手ですし、インテリアショップなどに足を運んでも、ミニマル、シンプル、シックな家具が今では定番となりつつあります。モデル3の、手ではなく音声認識で操作するインターフェイスや、シンプルさを極めたデザインなどは好みが分かれるところではありますが、「こういうスタイルもありますよ」というテスラからの提案ともいえそうです。
■EVらしくシームレスかつ伸びやかな加速
そんなモデル3で気になる走りは、まさに痛快! のひと言。試乗したパフォーマンス仕様は、並のスポーツカーなど瞬く間にバックミラーの彼方に追いやるほどの加速力を有していますし、高速道路での追い越し時など、「ここぞ!」という加速が必要な時も、右足に力を込めるだけで弾けるようなダッシュを得られます。
しかし、何より驚かされたのは、その加速が実にシームレス、かつ伸びやかで、その上とても扱いやすいこと。急加速する際はもちろん、極低速域において発進や停止を繰り返すようなシーンでも、気難しさを感じることは一切ありません。また、バッテリーをフロア下部に収めた低重心設計が、走行性能に少なからぬ好影響を与えているのでしょう、ワインディングにおいては、「路面に磁石で吸い付いているのでは?」というほどに安定感があります。
モデル3に触れてみると、決して奇々怪々な存在ではなく、プレーンかつ素直なクルマであること、また、スポーティなプレミアムカーとしても十分満足できるクオリティを実現していることに気づきます。メカニズムはもちろん、エクステリアやインテリアもテスラらしい個性に満ちあふれていますし、これぞEVというべき、静かで滑らかな走りもなかなか魅力的です。
もちろん、いざEVを自宅のガレージに収めるとなると、自らのライフスタイルとの兼ね合いや、自宅や近所に充電施設があるか否かなど、クリアすべき問題も少なくありません。また、購入前後の疑問や不安を解消してくれるサポートも不可欠ですから、今後数年間は、こうしたことが普及に向けてのカギとなりそうです。とはいえ、こうした思いを強く抱いたのは、モデル3が魅力的に感じられた証なのかもしれません。
<SPECIFICATIONS>
☆パフォーマンス
ボディサイズ:L4694×W1849×H1443mm
車重:1860kg
駆動方式:4WD
最高出力:非公表
最大トルク:非公表
価格:717万3000円
(文/村田尚之 写真/村田尚之、&GP編集部)
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