N-BOXはありふれてるって人に!日産「ルークス」は軽自動車の勢力図を変える実力派

■ルークス最大のアドバンテージは充実した安全装備

今、日本の自動車マーケットで一番人気のあるジャンルが、軽自動車のスーパーハイトワゴンだ。昨2019年、年間を通して最も売れた乗用車(普通車/小型車)はトヨタの「プリウス」(12万5587台)だが、軽自動車を含むすべての日本車へと範囲を広げると、ナンバーワンはホンダの「N-BOX(エヌ・ボックス)」。その販売台数は25万3500台だから、実にプリウスの2倍以上も売れている。ちなみに2番手は、ダイハツ「タント」で17万5292台、3番手は、スズキ「スペーシア」で16万6389台と、トップ3を軽スーパーハイトワゴンが独占している。

先頃登場した日産のルークスは、そんな激戦の軽スーパーハイトワゴン市場に投入されたニューモデル。従来モデルは「デイズルークス」というネーミングだったが、今回のモデルチェンジを機に、ルークスへと車名が改められた。

新型ルークスに課せられた役割は単純明快。ライバルたちに迫り、あわよくば王者であるN-BOXを蹴落とそうというものだ。とはいえ、日本で一番人気のカテゴリーだけあって、ライバルとの競争は熾烈。いずれのモデルも、装備や技術面で力の入った開発が行われていて、切磋琢磨しているからだ。そんな激戦区に切り込むといっても、単に新しいだけでは市場に認められない。ライバルに対してどれだけのアドバンテージを備えていて、それを人々にアピールできるか? ルークス成功のカギは、そこに尽きるといってもいい。

その点、ルークスには、まず先進安全装備という大きな武器がある。まずは、昨今、新車を買う人の多くが気にする衝突被害軽減ブレーキについて見てみよう。ルークスはその前段階ともいうべき、ブレーキ警告機能の性能でライバルを凌駕する。

新型ルークスの、レーダーを使った前方予測警告機能は、前を走るクルマだけでなく、さらにその前を走る、2台前のクルマの動きまで監視。仮に、2台前のクルマが減速し、ブレーキを掛ける必要はあるとクルマが判断すると、前を走るクルマがブレーキを掛ける前であっても、音と表示で警報を発し、ドライバーにブレーキを踏むよう注意喚起を促す。これにより、玉突き事故などを回避するのだ。

また夜間走行時は、ライトができるだけ広い範囲を照らすことが安全運転につながるが、ルークスは照射範囲を細かく分けて部分的にハイビームとロービームとを調整する“アダプティブヘッドライト”を、上級グレードの「プロパイロットエディション」に搭載。前を走るクルマや対向車など、ハイビームが当たると相手がまぶしく感じる部分だけをロービームとし、それ以外はハイビームで明るく照らして優れた視認性を確保する。

さらにプロパイロットエディションには、“プロパイロット”と呼ばれる日産独自の安全運転支援システムを搭載。高速道路では、ドライバーがブレーキやアクセルを操作することなく、前を走るクルマとの間隔を一定に保ちながら自動で速度を調整。さらに、車線の中央を走るよう、ハンドル操作も補助してくれる。

ちなみにこのハンドルアシストは、渋滞時の完全停止まで作動。さらに完全停止後は、ドライバーがブレーキを踏まなくても電動パーキングブレーキによって停止状態を保持してくれる。これら先進安全装備の充実ぶりは、ライバルを一歩リードしている。

■新型ルークス後席も荷室も広くて使える

では、普段使いにおいて気になる実用性や快適性はどうだろう? この点においても、新型ルークスは健闘している。

例えば、後席に乗り込もうとリアのスライドドアを開ける際、新型ルークスでは電動スライドドアに手を触れることなく、足の動きを合図に開閉できる機能を上級グレードに装備。サイドピラーの根元付近で足を前後に動かすと反応する同機能は、荷物を抱えて両手がふさがっている時や、子供を抱きかかえている際などに重宝する。

その上、スライドドアの開口幅が650mm(最大部)とライバル各車より広く、また、サイドピラーに大きなグリップが備わることから、小さな子供から年配の人までラクに乗り降りできるのだ。

そんな新型ルークスの実用面における真骨頂が、優れたパッケージングだ。例えば、後席のニールーム(後席に座る人の足下と前席との間隔)は、ライバルと比べてもナンバーワンの広さ。これは、スペースに限りのある軽自動車においては、相当なアドバンテージといっていい。

さらにリアシートのスライド量は、同クラスで最長。前方へスライドさせれば、後席に人が座れる状態をキープしながら、ラゲッジスペースに機内持ち込み可能なスーツケースを4個積み込める。

今度は運転席に座ってみよう。まず気づくのは、着座位置が高いことだ。地面からの距離はライバルよりも高く、これがミニバンのような良好な視界につながっている。さらに、インパネ上面の高さを抑え、また、ナビゲーションなどの画面をドライバーから離して配置した結果、開放感も高めている。

使い勝手の面では、助手席のリクライニングレバーが背もたれの側面、しかも運転席側に付いていて、ドライバーが手を伸ばし、簡単に操作できる点がライバルにはないポイント。これは、後席に付けたチャイルドシートに座る子供とのコミュニケーションを考慮したアイデアのようだ。

■走りの快適性を高めるべく高コストパーツを投入

そんな新型ルークスをドライブしてみて、まず驚かされるのは、走りの仕立ての良さだ。軽自動車の3気筒エンジンとは思えないほど、乗員に伝わってくる微振動が遮断されていて、不快な印象がない。これは“液体封入エンジンマウント”を始め、コストを惜しまず、快適性を高めるパーツを採用してきたことの成果といえる。

背が高いこともあり、サスペンション自体はそれなりに硬めだ。そのため、高速道路など速度の高い領域では、路面の起伏による車体の上下動が気になるシーンもある。とはいえ、市街地走行時は、路面の段差などを乗り越えた際の衝撃もしっかり緩和されていて、乗り心地も上々。この辺りは、高剛性ボディや大容量のショックアブソーバーなどが効いているのだろう。

また、静粛性の向上もしっかり考慮されていて、特にリアシートに座った際の静かさは驚くばかり。高速道路を巡行中でも、運転席と後席とで普通に会話を楽しめた。この辺りも、クラストップの実力といっていい。

今回の試乗車はターボ仕様だったこともあり、気になる動力性能については、全く不満を感じなかった。また、制御が大幅に改善されたCVTはなかなかの出来栄え。アクセル操作に対する加速の反応に遅れがなく、ストレスフリーにドライブできた。

新型ルークスは、もしかすると、日本市場における日産自動車の最量販車種になる可能性がある。それだけに、ハードウェアに関しては、相当、力を入れて開発されたことがうかがえた。まさに、日本市場での日産の復活を左右する1台といえるだろう。

一方、ライバルにしてみれば、新型ルークスのアドバンテージを黙って見過ごすわけにはいかないはず。例えば、そう遠くない将来にマイナーチェンジがウワサされているN-BOXは、どこまで進化してくるのか。はたまた、タントやスペーシアはどう動くのか。新型ルークスの出来が上々なだけに、ライバルの今後の動向からも目が離せない。

<SPECIFICATIONS>
☆ハイウェイスターG ターボ プロパイロットエディション(2WD)
ボディサイズ:L3395×W1475×H1780mm
車重:1000kg
駆動方式:FF
エンジン:659cc 直列3気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:64馬力/5600回転
エンジン最大トルク:10.2kgf-m/2400〜4000回転
モーター最高出力:2馬力/1200回転
エンジン最大トルク:4.1kgf-m/100回転
価格:193万2700円


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文/工藤貴宏

工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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