オシャレで使えるメルセデス「CLAシューティングブレーク」はワゴンの新理想形

■欧州市場で鉄板だったワゴン人気にも陰りが

運転感覚はセダンと同様ながら、ラゲッジスペースが広くて優れた実用性を備えるステーションワゴンが、今、不遇の時代を迎えつつある。

ワゴンは1980年代から’90年代中盤にかけ、アメリカ市場で我が世の春を謳歌していた。それが今では、すっかりSUVにその座を奪われ、販売面は壊滅的な状態に。“スポーツワゴン”とも呼ばれる、スバル「アウトバック」のようなワゴンボディを持つクロスオーバーSUVが、なんとか生き残っている程度だ。

日本市場も状況はそれに近い。日本車メーカーから発売されているステーションワゴンは、トヨタ「カローラ ツーリング」やホンダ「シャトル」、そして、「マツダ6」やスバル「レヴォーグ」など数モデルに限られ、SUVやミニバンが人気を集めている。

一方、欧州市場では、状況が少々異なる。ドイツやフランスなどでは、街でステーションワゴンの姿を多く見かけるし、それらの国に本拠を置く自動車メーカーは、今も多くのワゴンをラインナップしている。

その理由はふたつ。ひとつ目は、荷物をたくさん積んで愛車でバカンスへ出掛けるという文化があるから。その場合、セダンのラゲッジスペースでは積載性が物足りない。そしてもうひとつは、高速道路や峠道における平均速度の高さ。重心高という物理的特性から、車高の高いSUVやミニバンよりも、重心の低いステーションワゴンの方が走りは安定。これが運転時の安心感につながるのだ。日本や北米に比べて移動速度が高い欧州のドライバーは、ドライブ時の安心感にこだわる人が多く、背の高いミニバンやSUVには、抵抗を覚える向きが多い。

とはいえ、そんな欧州でも、ここへきて状況が変わりつつある。SUVやミニバンの走行性能が高くなったのに加え、高速道路における平均速度が、かつてと比べて低くなっているからだ。ドイツでは環境や安全面への配慮から、アウトバーンと呼ばれる速度無制限の高速道路でも速度規制区間が増えているし、フランスやイタリアでは速度違反の取り締まりが厳しくなり、ハイスピードで走ること自体が難しくなっている。つまり、走りの面においても、ワゴンのアドバンテージは薄れつつあるのだ。

■美しさで勝負するシューティングブレーク

ではこの先、欧州でも規模が縮小すると思われるステーションワゴン市場に対し、各メーカーはどのように対処しようというのか? 先頃、2代目となる新型が日本に上陸したメルセデス・ベンツのCLAシューティングブレークは、それに対するひとつの答えといえる。

しかし、どうしてメルセデス・ベンツは、CLAのワゴンをステーションワゴンではなく、シューティングブレークと呼ぶのだろう?

ひと目見て分かる通り、CLAシューティングブレークはステーションワゴンの仲間だ。シューティングブレークのルーツをたどれば、荷室に猟銃や猟犬を載せるのに適したクルマを指し、“シューティング=狩猟”のための“ブレーク=ワゴンのフランス流の呼び方”というのが、ネーミングの由来となっている。

かつてのシューティングブレークは、荷室を広げた2ドアクーペを指すケースが多かったが、現在では、美しいデザインをまとったステーションワゴンを意味するケースが多い。あえてステーションワゴンと呼ばない理由は、実用性を重視した普通のワゴンではなく、美しさやカッコ良さで勝負するワゴン、というメーカーの意思表示にほかならない。メルセデス・ベンツの場合、4ドアなのにクーペを自称するデザインコンシャスな「CLAクーペ」が存在することから、そのワゴン版はシューティングブレークを名乗っていると考えれば分かりやすいだろう。

そうしたネーミングからも分かる通り、CLAシューティングブレークのポイントは、機能第一ではなく、スタイル重視のデザイン系ワゴンだということ。

今後、欧州市場でもSUVがますます増加し、ステーションワゴンのシェアは減っていくと予想されるが、そうした中で誕生したCLAシューティングブレークは、ワゴン衰退への危機感が生んだ、チャレンジングなモデルともいえるだろう。

■荷室容量は「Cクラス」のワゴンより大きい!

CLAシューティングブレークは、「ストイックに積載性を求めなくても、美しければそれに惹かれる人がいてくれる」という、メルセデス・ベンツの戦略から生まれたクルマといっても過言ではない。メルセデス・ベンツがこうしたプランを描けた背景には、CLAというクルマのポジショニングが関係している。

CLAシリーズは、フォルクスワーゲン「ゴルフ」などと同じカテゴリーに属すハッチバック「Aクラス」をベースに誕生したセダン&ステーションワゴンだ。このAクラスには、多くの派生モデルが存在する。実用性を重視して背を高くした「Bクラス」に始まり、セダンボディの「Aクラスセダン」、そして“カッコいいセダン”のCLAクーペと、そのワゴン版のCLAシューティングブレーク。さらには、まだ日本に上陸していない、SUVの「GLA」と「GLB」などがそれに当たる。

そんなAクラス系で唯一のワゴンボディをまとうCLAシューティングブレークは、想像以上にラゲッジスペースが広い。荷室フロアの前後長は、リアシートの背もたれを倒さなくても1mを超え、ドイツ工業会が定めた計測方法・VDA方式での荷室容量は、505Lとたっぷりしている(CLAクーペ比では45L大きい)。兄貴分ともいえる「Cクラス ステーションワゴン」は470Lだから、それさえも上回っているのだ。

その秘密は、車体サイズとパッケージングに隠されている。実はCLAシューティングブレークのボディサイズは、Cクラス ステーションワゴンと大きく変わらない。その上、FRレイアウトのCクラスに対し、CLAはFF車というメリット活かし、ボンネットの短いパッケージングを採用。結果、CLAのキャビンはCクラスより広い空間が確保されている。

ただしCLAは、ルーフを低く抑え、軽快なスタイルを実現した分、リアシートの背もたれより高い部分の空間に割り切りが見える。Cクラスを始めとする一般的なステーションワゴンと比べ、CLAシューティングブレークでは荷室の上方空間が狭く、その影響から、一般的なステーションワゴンのように荷物を高く積み上げて積載するのには向いていない。あくまで荷室は、セダン+αと考えるのが正解だ。とはいえ、リアシートの背もたれを倒して荷室を拡大すると、段差が小さく広いフロアが得られるから、AクラスやCLAクーペよりも利便性は格段に高まっている。

それでも、CLAシューティングブレークはリアゲートの開口部が小さく、荷室フロア後端にセダンのような段差が存在することから、一般的なステーションワゴンに比べると、大型のスーツケースなど大きく重い荷物の積み下ろしには少々難儀する。とはいえこれは、実用性よりもデザインを優先した結果。見た目でこのモデルを選んだ人にとっては、大きなウィークポイントとはならないはずだ。

ちなみに後席の居住性は、ベースとなったCLAクーペよりゆったりしている。足下スペースの広さは2台とも同じで、大人でも快適に座れるだけの前後スペースがとられているが、ルーフ形状の違いにより、CLAシューティングブレークは後席に座る人の頭上空間にゆとりがある。また、オプションの“パノラミックスライディングルーフ”がルーフの外側にスライドするなど、キャビンの頭上空間をスポイルしない工夫も見られる。これらはリアシートに人を乗せる機会が多い人にとって、うれしいポイントといえるだろう。

そんなCLAシューティングブレークは、1.3リッターのガソリンターボを搭載するベーシックな「CLA180シューティングブレーク」(457万円)から、421馬力の超高性能エンジンを積み、スポーツカー顔負けの走りを堪能できるメルセデスAMG「CLA 45S 4マチック+ シューティングブレーク」(875万円)まで、全5グレードをラインナップ。そのほか、今回の試乗車に積まれていた2リッターのガソリンターボ車や、経済性に優れる2リッターのディーゼルターボ仕様なども設定され、選択肢が豊富なのも魅力だ。

いずれも、10.25インチの大画面液晶パネルを用いた“ワイドスクリーンコクピット”や、タービンをデザインモチーフにしたエアアウトレット、「ハイ!メルセデス」と対話しながら操作できるインフォテイメントシステム“MBUX(メルセデス・ベンツ ユーザーエクスペリエンス)”などが設定され、最新のメルセデス・ベンツならではの先進性を感じられる。

CLAシューティングブレークは、ステーションワゴンの未来の姿を模索し、世間に投げかけた意欲作だ。「一般的なステーションワゴンのような積載性や実用性はいらないけれど、実用的でオシャレ、そして手頃なサイズのクルマが欲しい」と考える人にとって、ジャストフィットの1台といえるだろう。

<SPECIFICATIONS>
☆CLA250 4マチック シューティングブレーク(AMGライン装着車)
ボディサイズ:L4695×W1830×H1435mm
車重:1630kg(パノラミックスライディングルーフ装着車)
駆動方式:4WD
エンジン:1991cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:7速AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:224馬力/5500回転
最大トルク:35.7kgf-m/1800~4000回転
価格:575万3000円


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文/工藤貴宏

工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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