■重要視していなかったドイツ勢も続々と投入
ひと昔前まで、3列シートを備えた大型SUVといえば、アメリカ車ばかりが盛り上がっていた。リンカーン「ナビゲーター」やキャデラック「エスカレード」など、アメリカを代表するプレミアムブランドが展開する全長5mオーバーの巨大モデルが幅を利かせていたのだ。
一方、ドイツのプレミアムブランドにとって、3列シートSUVはさほど重要なモデルではなかったようだ。かつてメルセデス・ベンツ「Gクラス」に用意されていた3列目シートは、横向きに座る簡易的なものだったし、しっかり座れる3列目シートを備えるSUVといえば、GLSの前身である「GL」やアウディ「Q7」が存在する程度。さりとてこの2台も、定番といえるほどの存在ではなかった。
だがここへきて、状況が大きく変化。ドイツ勢から3列シートSUVが次々と登場し、クルマ好きの間で話題となっている。例えばBMWは、2019年に「X7」という新しい3列シートSUVを日本で発表。スポーティな走りが自慢のX5よりひと回り大きな車体が特徴のモデルで、ヒエラルキーとしては同社のフラッグシップセダン「7シリーズ」と肩を並べる。
今回採り上げるメルセデス・ベンツのGLSは、そんなX7とガチンコのライバル関係にある。近年、メルセデス・ベンツのSUVは、特別扱いのGクラスを除くと、“GL”というSUVを示す記号の後に、車体クラスを表すアルファベット1文字を追加して車名としている。この法則によると、GLSはセダンカテゴリーにおけるフラッグシップ「Sクラス」と同格の旗艦モデルであり、メルセデス・ベンツのSUVとしては最高峰に位置する。
勘のいい人はお気づきかもしれないが、新しいGLSは先行上陸したひとクラス下の「GLE」(新しいGLEは歴代モデルで初めて3列シート車となるなど、世のトレンドを反映したモデル)と車体の基本設計を共用。その上で、GLSはGLEと比べて全長を280mm、ホイールベースを140mm伸ばしており、この“伸び代”がGLSというクルマの個性へとつながっている。
GLSの乗車定員はGLEと同じ7名だが、2列目/3列目シートともに席と席との前後間隔が広く、座った時のヒザ回りスペースも広々としていてゆったり座れる。
特に2列目シートは「これはSUVなの?」と思わずにはいられないほど広々としていて、特等席といえるほど居心地がいい。また、前後スライドや背もたれのリクライニングといった各種調整は電動式で、シートヒーターも標準装備。上級グレードには、シート生地の表面から風を吹き出してムレを抑えるベンチレーションまで組み込まれていて、単に広いだけでなく、快適性もとことん考えた構造となっている。
さらに3列目シートにも、シートヒーターやスマホの充電などに重宝するUSB端子が備わり、前席、2列目席とさほど変わらない快適性が与えられている。GLEに対してボディサイズが拡大され、3列目シートのスペースも十分広いことから、短時間であれば苦痛を感じず移動できそうだ。
SUVとして気になるラゲッジスペースは、3列目シートを使用する場合、必要最小限の広さといったところ。しかし、2列目/3列目シートの背もたれを倒すと、レジャーユースの相棒として十分満足のいく広い空間を得られる。特に、2列目/3列目シートの背もたれをすべて倒した時に現れるスペースは、ビックリするほど広大だ。
その上でGLSは、運転はドライバーに任せ、主(あるじ)は2列目シートに座る、なんて使い方にもマッチする。GLEに対して格の違いを見せつけるこの2列目シートこそGLSの真骨頂であり、Sクラスと同じ性格を備えたクルマであることを強く感じさせる。
■3列シート車のニーズはミニバンからSUVへ
ところで、なぜ今、3列シートSUVの人気が高まっているのだろうか? それは、大型SUVにとって最大のマーケットである北米市場のトレンドが影響している。
そもそも北米では、近年、大きくてプレミアムなSUVの人気が根強く、さらに富裕層がかつてのミニバンの代わりに、ファミリーカーとして3列シートSUVを選ぶケースが増えている。アメリカは大家族が多く、たくさんの子どもを後席に乗せて移動することもあるため、3列シートSUVが重宝されているのだ。
一方、日本でも、ミニバンに代わる存在として3列シートSUVの人気が高まりつつある。確かにミニバンと比べると3列目シートは狭いが、「日常的に3列目シートを使うわけではないが、いざという時にはあると便利」といった、もしもの時を考えて選ぶ人が増えているのだ。確かにそうしたニーズであれば、わざわざミニバンを選ぶ必要はない。
加えて、車体が大きい分、室内スペースにゆとりがあるのも3列シートSUVの美点といえる。例えば、スマッシュヒットを記録したマツダ「CX-8」も、基本設計を共用する2列シートモデル「CX-5」と比べ、2列目シートが広くゆったりとしていて、ロングドライブなどではとても快適。2列目シートに座れば明らかに広さを実感できる点こそ、3列シートSUVの魅力だろう。
■3列目席と高い走破性は本家Sクラスにはない魅力
今回試乗した「GLS400d 4マチック」は、オプションの“AMGライン”(50万5000円)を装着したスポーティな出で立ちで、エンジンは直列6気筒のディーゼルターボを搭載している。一般的に、ディーゼルエンジンはうるさくて細かい振動が伝わってくるから、快適性に劣りエンジンのフィーリングも気持ち良くない…と思われがちだが、メルセデスの直列6気筒ディーゼルターボにはそれらが全く当てはまらない。
静かで振動が少ない点は、最新のエンジンかつ、回転バランスに優れる直列6気筒だから当然だとしても、アクセルペダルを踏み込んだ時に回転が上昇していく際のフィーリングは、スムーズかつ盛り上がりがあり、全くもってディーゼルらしくない。この優れたドライバビリティは鳥肌モノで、クルマ好きをも満足させる実力の持ち主。あまりの滑らかさについ間違えて、軽油ではなくガソリンを給油しそうになったほどだ。
2.5トンを超える車両重量の影響もあり、コーナリング時はキビキビというよりも、ドッシリ安定したフィーリング。そういう意味では、コーナリングを楽しめるクルマではない(当然といえば当然だが)。一方、直進安定性とその際の快適性はさすがのひと言で、アメリカの広大なフリーウェイを1日中走り続けても疲れを感じそうにない。そう思わせるほど、高速クルージングが心地良いクルマだ。
ファミリーカーとして申し分のない広さを誇り、ロングクルージングも疲れ知らず。その上、運転はドライバーに任せ、オーナーは2列目シートに座ってゆったり移動、なんて使い方にもマッチするおまけに“SUVのSクラス”には3列目シートが備わり、悪路だって苦にせず走れるのだから、日々の利便性では本家Sクラスを大幅に上回る。
<SPECIFICATIONS>
☆GLS400d 4マチック AMGライン
ボディサイズ:5220×2030×1825mm
車重:2590kg
駆動方式:4WD
エンジン:2924cc 直列6気筒 DOHC ディーゼル ターボ
トランスミッション:9速AT
最高出力:330馬力/3600〜4200回転
最大トルク:71.4kgf-m/1200〜3200回転
価格:1263万円
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文/工藤貴宏
工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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