真打ちは遅れて登場!?マツダ100周年特別記念車は名車の“色”がモチーフです

■かつては再現が困難だった白いボディ色を採用

マツダの創業者である松田重次郎は、1920年、前身となる東洋コルク工業を広島に設立しますが、同社は1925年に大きな火災に見舞われ、工場の大半を消失してしまいます。それを機に重次郎は、自らの志の原点に立ち返って機械工業に専念しようと、1927年に社名を東洋工業へと変更。そして1931年、エンジンを始めとするすべての部品を国産化した3輪トラック「マツダ号・DA型」を発表し、自動車メーカーとしての第一歩を記します。

しかし、本拠のある広島は1945年の原爆投下で被災。本社屋は壊滅的な被害こそ免れたものの、社員119名が命を落とすなど甚大な被害を受けてしまいます。それでも重次郎は度重なる困難をものともせず、物資の輸送に欠かせない3輪トラックの1日も早い生産再開を決断。そして同年12月には生産再開へとこぎ着け、被災した故郷の復興を後押しします。

そんな同社が当時の持てる技術を余すところなく投入し、初めて乗用車を発表したのは1960年4月のこと。軽自動車初となる4サイクルエンジンを投入したほか、アルミやマグネシウム合金の採用などで軽量化を実現した「R360クーペ」は、ライバル車より2割以上安い価格設定もあって、マイカーを所有したいという人々の夢をグッと身近なものにしたのです。

先日、登場したマツダの100周年特別記念車は、そんなR360クーペのカラーリングに着想を得て開発されたもので、夢に挑戦する志を継承し続ける、次の100年に向けたマツダの誓いを示すシリーズと位置づけられています。

100周年特別記念車に採用される真っ白なボディや、白×赤のインテリアは、R360クーペの上級グレードに採用されていたモダンな色づかいがモチーフ。このアニバーサリーモデルはコンパクトカーの「マツダ2」からフラッグシップSUVの「CX-8」まですべての現行モデルに設定され、上記の特別なカラーリングのほか

◎フロアカーペット(バーガンディ)
◎フロアマット(バーガンディ/100周年記念バッジ付き)
◎ヘッドレスト(100周年スペシャルロゴ刻印)
◎キーフォブ(100周年スペシャルロゴ刻印&専用化粧箱入り)
◎100周年記念バッジ
◎センターホイールキャップ(100周年スペシャルロゴ付き)
◎ソフトトップカラー(ダークチェリー/ロードスターのみ)

といった、100周年特別記念車の専用アイテムもおごられます。

しかし、R360クーペと100周年特別記念車を見比べると、ボディ色がかなり異なることに気づきます。モチーフであるはずのR360クーペの基調色は、白というよりもベージュやクリーム系といった色合いです。その理由は、当時は技術的に塗装で白を表現することが難しかったから、なのだとか。実際、マツダのデザイン部が過去の資料を検証したところ、そこには“アルペンホワイト”というカラー名が明示されていて、当時の開発陣が白の表現に対し、技術的な課題にぶつかっていたことがうかがえたといいます。

そうした経緯もあり、100周年特別記念車のカラーリングはR360クーペのそれを忠実に再現するのではなく、塗装の技術が進化した現代らしい色味へとアレンジ。結果、R360クーペではクリームホワイトだったボディの基調色はスッキリとした色あいの“スノーフレイクホワイトパールマイカ”に、華やかな赤いシートはシックな“バーガンディ”のシート生地に置き換えられ、大人っぽさや上質さを演出しています。

なお、赤いソフトトップでツートーンの配色を再現した「ロードスター」以外のモデルでは、R360クーペと同じようなボディの塗り分けはさすがに難しかったとのこと。その代わりに、アニバーサリーモデルならではの特別感を感じてもらえるよう、すべてのモデルでインテリアに敷かれるフロアカーペットやフロアマットのカラーをバーガンディに変更しています。

中でも、通常はブラックとなるフロアカーペットの色変更は、生産面での制約が多く、想像以上に難しい作業だったとか。また、各モデルに採用されるバーガンディのレザーシートも、車種ごとにスムースレザーやパーフォレーションレザーなどマテリアルが微妙に異なることから、色合いの統一を図るのが困難だったように思われます。こうした細部の徹底ぶりを見ても、今回のアニバーサリーモデルは単なる“色替え”仕様ではなく、100周年を飾るにふさわしい仕立てであることが分かります。ちなみに100周年特別記念車は、2021年3月末までの期間限定販売となっています。

■マツダ初の量産EVにも100周年特別記念車がある!?

このように特別感満載のアニバーサリーモデルですが、実はもう1台、とっておきの隠し球が用意されているようです。それが、2019年の東京モーターショーで世界初公開された「MX-30」の100周年特別記念車です。

現在のところ、MX-30の日本仕様に関するスペックや販売時期などの正式発表はありませんが、ヨーロッパではプレオーダーの受付がスタートし、日本市場への導入も秒読み段階といわれています。そんなマツダ初の量産EV(電気自動車)にも、100周年特別記念車が用意されている模様です。というのも、同社の広報写真や公式ホームページ上において、「MX-30 100周年特別記念車」の姿がすでに公開されていたのです。

例えば、100周年特別記念車の全ラインナップが並んだ広報写真では、右奥に小さく、しかししっかりと、MX-30の姿を見てとれます。

また、100周年記念特別サイト内にある「マツダアカデミー」では、クイズに全問正解すると“修了証”をもらえるのですが、その中の1枚にはっきりと、MX-30 100周年特別記念車が描かれているのです。

この特別仕立てのMX-30は、スノーフレイクホワイトパールマイカをボディの基調色としながら、R360クーペと同じようにルーフを赤く塗り分けています。しかも、同じ赤でもお馴染みの“ソウルレッドクリスタルメタリック”ではなく、ボルドーと呼びたくなる深みのある色合い。これまでにない色づかいは、マツダにとっての新たなチャレンジといえるでしょう。

ちなみに、モーターショーに出展されるコンセプトカーや、「MX-5」というロードスターの海外名などからも明らかなように、同社にとって特別な意味を持つクルマには、車名に“MX”の2文字が使われています。マツダによるとMXとは「クルマの種類に関係なく、またそれまでの慣習にとらわれることなく、新しい価値の創造と提供に挑戦するモデルに与えられるもの」。その点、電動パワートレーンや観音開き式の“フリースタイルドア”に加え、カラーリングの面でも新たな挑戦が打ち出すMX-30 100周年特別記念車は、真の意味でマツダの創業100周年を飾るにふさわしいモデルといえそうです。


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文/上村浩紀

上村浩紀|『&GP』『GoodsPress』の元編集長。雑誌やWebメディアのプロデュース、各種コンテンツの編集・執筆を担当。注目するテーマは、クルマやデジタルギアといったモノから、スポーツや教育現場の話題まで多岐に渡る。コンテンツ制作会社「アップ・ヴィレッジ」代表。

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