試乗した日はあいにくの天候。雨に濡れたプジョー車の中でひと際異彩を放っていたのが“クープ・フランシュ”こと赤と黒のツートーンにペイントされた308GTiでした。
クープ・フランシュは、308GTi 270 by プジョー・スポールだけに用意されるオプションカラー(30万円/受注生産)。愛車のハイスペックぶりを声高にアピールしたいプジョー好きには、見逃せないカラーリングです!
もちろん単色のボディカラーでも、308GTi 270 by プジョー・スポールは“ただものではない感”を醸し出しています。専用デザインのフロントグリル、前後左右の空力パーツ、そして、デュアルのエキゾーストパイプがスポーティ。やはり専用デザインのホイールは、なんと19インチ。そこに、235/35の薄いタイヤが巻かれます。
試乗車は、派手なカラーが“うれし恥ずかし”のクープ・フランシュ仕様。ドアを開けて運転席に座れば、本格的なバケットシートがやんわり背中を抱いてくれます。バックスキンとテップレザーをあしらった贅沢なシートで、バックレストには“PEUGEOT SPORT”の文字が入れられます。
プジョー・スポーツとは、現FIA(世界自動車連盟)会長のジャン・トッドが、1981年に興した組織。WRC(世界ラリー選手権)やル・マン24時間耐久レースに、数々のレーシングカーを送り込んだことで知られています。ラリーフィールドで活躍するプジョー「205ターボ16」の姿に胸を躍らせた、なんて方も、多いのではないでしょうか。
さて、話を戻しましょう。308GTiに装着されるステアリングホイールは、楕円の小径タイプ。ステアリング位置は低めで、高めのダッシュボードとの相乗効果で、(気分的には)なんとなく、腹の前にハンドルがあるような、プジョー独特のポジションとなります。
「プジョーの量販車史上、最強のホットハッチ」と謳われる308GTiですが、クラッチペダルが特別重いこともなく、ステアリングはむしろ軽く、乗り心地も拍子抜けするほど滑らかです。これならなんの問題もなく、毎日の足に使えそう。
スターターボタンの横に設けられた“SPORT”ボタンを押すと、メーターの照明が赤くなり、スロットルレスポンスは高まり、ステアリングのパワーアシストも弱まってよりダイレクトなフィールに変わります。
けれど、運転感覚が激変!…ということにはなりません。一定の快適さを保ったままです。では、308GTiの“スポーツ度”って大したことないの? とんでもありません!
試乗会場には、クローズドスペース内に、疑似的なレースコースが用意されていました。完全なウエット路面であるのをいいことに、ちょっと意地悪なテストをしてみました。
プジョーのハッチバックというと、かつてはコーナリング中にスロットルを緩めると、リアタイヤが容易に横滑りするという、ちょっとトリッキーな、でも、それが楽しく感じられるハンドリング特性を持っていました。
21世紀のプジョーの場合、さすがにリアは相応に落ち付いていますが、それでもコーナリング中、スロットルの増減でクルマの向きを微妙にコントロールできます。
試しにタイトコーナーにオーバースピードで突っ込み、いわゆる“アンダーを溜めて=思ったように曲がらない状態”にしてからアクセルをゆるめると、「あやうくスピン!」という挙動を見せつつ、しかし、キチンと電子デバイス“ESC”が介入して、ぶざまに“回る”ことを防いでくれます。うーん、素晴らしい。
その上、上級版GTiたる270 by プジョー・スポールには、フロントにトルセン式のLSDを装備。その効果は絶大で、タイトなカーブでもスロットルを開けると、ステアリングを切った方向へグイグイと曲がり、加速してくれます。
感心したのは、パーシャルスロット(=全開ならぬ半開の状態)でも、想像以上にラインをトレースしてくれること。これならミニサーキットなどを走る時でも、タイムを出しやすいんじゃないでしょうか。
もちろん、ストッピングパワーも強化されています。フロントはベンチレーテッドタイプのディスクブレーキで、大型キャリパーは対向4ピストン! キャリパーが赤く塗られているのは、単なる“こけおどし”ではないんですね。
攻めるも守るも、豪腕のホットハッチ…。ワタクシ、プジョーを少々侮っておりました。308GTi 270 by プジョー・スポールは、想像以上に本格的なスポーツハッチでありました。