■ミニバン感覚で選ばれる軽スーパーハイトワゴン
スーパーハイトワゴンといえば、代表的なモデルはホンダの「N-BOX」。同車は2019年、年間25万3500台というビッグセールスを記録し、軽自動車でありながら“日本車の中で最も売れた乗用車”の座に輝いた。
軽自動車は現在、日本の乗用車市場の約4割を占めるなど、注目が集まるカテゴリーだが、中でもその人気を牽引しているのが、スーパーハイトワゴンのクラス。N-BOXのほかにも、ダイハツ「タント」、スズキ「スペーシア」、三菱「ekスペース」「ekクロススペース」、そして今回紹介する日産自動車のルークスなどの実力派がしのぎを削り、大激戦区となっている。
そんな軽自動車のスーパーハイトワゴンを、昨今、ミニバンを選ぶような感覚で購入する人が増えているという。
もちろんミニバン感覚といっても、スーパーハイトワゴンはシート配列が3列ではなく前席と後席の2列だし、軽自動車だから乗車定員も最大4名と制約がある。そもそもボディサイズだって、ミニバンのように大きくはない。
しかし「運転がラク」とか「ボディサイズの大きいクルマは不要」といった理由から、軽自動車のスーパーハイトワゴンを選ぶ人が増えていると聞くと、「確かにそうだろうな」とも思う。というのも、スーパーハイトワゴンはとても便利な乗り物だからだ。
実際、スーパーハイトワゴンに触れてみて、まず美点として感じるのが、乗り降りが抜群にしやすいことだ。着座位置はクルマの脇に立ったオトナの腰の高さとだいたい同じだから、乗り降りする際にかがんだりすることなく、ラクな姿勢でスッと乗り込める。その上、後席にアプローチするためのリアドアがスライド式だから、例えば、隣にクルマが停まっている駐車場や壁が迫る場所などでも、大きく開くことができるのだ。
そして、ひとたび車内に乗り込めば、フロントシートは視界が広く、まるでミニバンのように周囲を見下ろす感覚を味わえるし、リアシートは足元スペースの広さに驚愕するほど。3列目シートの必要性がないなら、これで十分納得できてしまう。そういった美点が、ミニバン感覚で選ばれる要因となっているのだろう。
■広さも使い勝手もデザインも欲張りなルークス
そんなスーパーハイトワゴンの最新モデルが、日産自動車のルークスだ。ルークスに関しては、以前、ターボエンジンを搭載した「ハイウェイスターG ターボ プロパイロットエディション」を紹介したが、今回はより販売台数が多い自然吸気エンジン搭載の「ハイウェイスターX プロパイロットエディション」の実力を検証したい。
あらためて新型ルークスに触れると、ミニバン的な要素がしっかり磨かれていることに気づく。正直いって、あまりにも出来が良くて驚くほどだ。
例えば、リアシートに乗り込もうとしてスライドドアを開けるとする。その開口幅は最大で650mmとクラストップの大きさで、軽自動車でありながら後席の乗降性はミニバンのそれに迫る。その上、スライドドアの電動開閉機構には、手を触れることなく、足の動きをきっかけにドアを開閉できる仕掛けを組み込んでいる。このハンズフリー機構を左右両側のスライドドアに備え、開くことも閉じることもできるのはクラス初だ(兄弟車である三菱自動車のeKスペース/ekクロススペースも同時採用)。
そして気になるリアシートの居住性も、足元スペースの広さはクラストップ。その上、天井が高くて窓も大きいから開放感があり、オトナが乗ってもゆったりと寛げる。「3列目シートがいらないなら、これでいいかな」という気になるのも自然な流れだろう。
しかし、そうした実用性や居住性だけが新型ルークスの魅力ではない。例えばスタイリングは、「コレは本当に軽自動車なのか?」と思ってしまうほど、見た目が立派なのだ。
軽自動車の多くは、優しさを感じさせるルックス、もしくは逆に、ギラギラと攻めたスタイリングを採用するケースが多い。しかし新型ルークスは、全体のシルエットがとても端正だ。フロントグリルこそ大胆な形状だが、しっかりと節度をわきまえている感じで上質感がある。そうした雰囲気に「質感が高くてオトナが乗っても気恥ずかしくない」と感じる人は多いだろうし、実際、筆者自身もそう思う。
そうしたルックス以上に驚かされるのが、メーカーオプションとして用意される「プレミアムグラデーションインテリア」(6万6000円)の上質さ。シート生地にはキルティング処理が施され、ドアトリムのクロスは合皮製となり、ステアリングホイールは本革巻きに。さらに、ダッシュボードの表面もステッチ入りのレザー調素材にアップグレードされるなど、軽自動車とは思えない上質さだ。インテリアの雰囲気がミドルクラスのミニバンに負けないほどプレミアムなものにアップグレードされるから、コストパフォーマンスはかなり高い。これはルークスを買う際の必須オプションといえるだろう。
その上ルークスは、見えない部分も驚くほど先進的だ。スーパーハイトワゴンをミニバン代わりに使うなら、長距離移動をする機会も多いことだろう。イマドキのミニバンは、高速移動時も先進の運転アシスト機能がサポートし、ドライバーの疲労を軽減してくれるものが多いが、ルークスも負けてはいない。
特に、上級グレードの「プロパイロットエディション」は、高速移動時にアクセルやブレーキを操作することなく、前を走るクルマに速度を自動調整して走ってくれるし、渋滞などで前のクルマが止まると自動で完全停止し、ドライバーがブレーキを操作しなくてもその状態をキープしてくれる機能(スーパーハイトワゴンでは初採用)も搭載している。
さらに、車線の中央部をキープして走れるよう、ハンドル操作をアシスト。上級ミニバンでも備わっていないことがある先進の運転アシスト機構を搭載しているのだ。つまり最新のスーパーハイトワゴンは、小さいからといって装備が見劣りするのではなく、ボディサイズだけが軽自動車の範疇に収まった“小さな普通車”なのである。
■走りに余裕を求めるならターボ仕様が正解
そんな新型ルークスの走りはどうか? 車体やサスペンションの仕上がりは上々で、街中の交差点や峠道を曲がる際の挙動も、想定していた以上に落ち着いている。エンジンの振動が少なく、車内の静粛性もしっかり保たれているから、路面状況が良好で、エンジンの負荷が小さいシーンなどでは、助手席やリアシートに座る乗員とも無理なく会話を楽しめる。
一方、動力性能については意見が分かれるところだろう。新型ルークスの自然吸気エンジン車は、ドライバーがひとりで平坦な道を移動するシーンや、速度が高まり高速巡航状態に入った状況などでは、思ったほど力不足を感じない。とはいえ、4人で移動したり、上り坂を上ったりといった場面では、やはり自然吸気エンジンならではのトルク不足を感じる。その際、エンジンの回転数が高まるから、音もうるさくなりがちだ。こうした点に関しては、同じ自然吸気仕様でもホンダのN-BOXの方が頼もしい印象。ルークスの走りに余裕を求めるなら、やはりターボ仕様を選ぶのが正解だと思う。
小さなミニバンが欲しいと考えた時、リアシートが広く、狭い道や駐車場でも扱いやすい軽自動車のスーパーハイトワゴンは、ベストな選択肢といえる。中でも、見た目も室内も“小さな普通車”といえるほど上質な新型ルークスは、そうした条件にまさにピッタリ当てはまるクルマといえるだろう。
<SPECIFICATIONS>
☆ハイウェイスターX プロパイロットエディション(2WD)
ボディサイズ:L3395×W1475×H1780mm
車重:970kg
駆動方式:FF
エンジン:659cc 直列3気筒 DOHC
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:52馬力/6400回転
エンジン最大トルク:6.1kgf-m/3600回転
モーター最高出力:2.7馬力/1200回転
エンジン最大トルク:4.1kgf-m/100回転
価格:184万3600円
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文/工藤貴宏
工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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