さて、そんな340iをドライブできた日は、あいにくの悪天候。時に激しい雨と風にさらされるひどいコンディションでした。
後期型となった3シリーズは、前後のライトがLED化され、よりスッキリとした顔付きになりました。ポジショニングランプが、LEDヘッドライトを丸く縁取るような、独特の形状になるのは相変わらず。カッコいいですね!
Mスポーツ仕様のスポーティなシートに座って走り始めれば、340iはそれなりの重厚感を持って動き出します。荒れ模様の窓の外とは裏腹に、落ち着いた、大人な雰囲気が漂う室内です。
ひと昔前なら“直列6気筒”+“FR”+“BMW”とくれば、これはもうクルマ業界の“大正義”ですから、手放しで絶賛すればいい“超”優良物件だったわけです。世間的にも、ストレート6の音も高らかに、都会を颯爽と駆け抜けるBMWが、シティボーイズ&ガールズ、および大人になったクルマ好きたちの憧れだった時代が長く続きました。
ただ昨今では、クランクシャフトが長くなる直列6気筒よりもV型6気筒の方が「その作動においては高い精度が出る」とか、「ストレート6は衝突時のクラッシャブルゾーンを確保しにくい」などといわれ、直列6気筒は“過去のエンジン形式”と見なされる一面もありました。
FR(後輪駆動)に関しても、「FF(前輪駆動)の方が全般的に走行安定性が高い」とか、増大する一方のエンジンからのアウトプットを受けとめるには「後輪だけでは不足」とも見なされていました。
さらにBMWは、長らくMINIブランドにのみ採用し、BMWブランドとは切り離していたFFモデルを、「2シリーズ アクテティブツアラー」や「同グランツアラー」の登場に合わせ、BMWブランドにも展開するに至りました。
そのため“直列6気筒”+“FR”+“BMW”という3要素を、かつてのように無邪気に称賛するのは「いかがなものか?」という、ちょっとしたひっかかりが、多くのモータージャーナリストや市井のクルマ好きの人たちの間に芽生えていたのではないでしょうか? 少なくとも、私はひっかかっていました。
ところがですね、新しい340iのステアリングホイールを握って峠を走り出したら、そんなこだわりは風とともに吹っ飛びぬ。いやぁ、ストレート6を積んだFRのBMW、ホント素晴らしいですわ。スポーツセダンとして、文句のつけようがありません。
ところどころ川が流れるような、完全ウエットの峠道でしたが、節度を持って走る限り、ステアリングフィールはあくまでスムーズ。340iは淡々と、力強くカーブをクリアしていきます。
これがFFのハイパワー車だと、時に、濡れて滑った前輪が駆動力を増減させてステアリングフィールに悪影響を与え、ドライバーはなんとも落ち着かない気持ちになるものです。でも、操舵と駆動を前後のタイヤで役割分担したFR車なら、ハンドル操作時にそんな雑味が加わりません。
気になる新しいストレート6は、滑らかな中に独特のとろみがあって、まさに“エンジンの大トロ”…なんていったら、バイエルンのエンジニアは怒るかしら? 低回転域からトルキーで、過給による段付きのない、条件の悪い環境下でも頼もしいターボユニットです。
おまけに、乗り心地も絶品。基本的におだやかな足まわりですが、一方で、タイトな“曲がり”でも腰が砕けたりはしない。ふところの深さを実感させるサスペンションセッティングです。
少々“時代遅れ”と捉えられても「ウチはこれでやってるんだ!」とばかりに、当たり前のように直列6気筒を出してくる。新世代エンジンはスペックも立派ですが、むしろ、数字に表れないスムーズな感覚、上質なドライブフィールに、BMWの底力を強く感じさせられました。
最後に気になるお値段は、“ダコタレザーシート”がおごられた豪華な「340iラグジュアリー」、スポーツサスペンションを装着する「340i Mスポーツ」ともども、776万円です。
<SPECIFICATIONS>
☆340i Mスポーツ
ボディサイズ:L4645×W1800×H1430mm
車重:1660kg
駆動方式:FR
エンジン:2997cc 直列6気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:6MT
エンジン最高出力:326馬力/5500回転
エンジン最大トルク:45.9kg-m/1380〜5000回転
価格:776万円
(文&写真/ダン・アオキ)