■日本市場における定説を打破したジープ
日本の自動車マーケットには「アメ車は売れない」という定説がある。諸外国と比べると、日本という国には自動車メーカーが多く、その上、街を行くクルマの9割以上を日本メーカーの車種が占めている。しかも、残り1割にも満たない輸入車の多くはドイツ車で、アメリカ車に残されたマーケットはごくわずかに限られる。
そんな逆風下にあるアメリカ車にも、実は日本で売れているブランドがある。それが、今回フォーカスするジープだ。日本での販売台数は年々伸長していて、2019年度の新車販売台数は1万4170台と、前年度比127.7%のアップ。その結果、輸入車全体におけるシェアも3.62%から4.87%へと拡大している。
ちなみに、対前年度比127.7%アップという実績は、正規輸入のない年間十数台レベルの少量輸入車を除けば、マクラーレンやランボルギーニといったスーパーカーブランドに次ぐ伸び率。日本マーケットにおけるジープの成長はここ数年著しく、「アメ車は売れない」という定説もジープには当てはまらなくなっている。
そんなジープ人気をけん引するのが、定番モデルともいうべきラングラーだ。2009年、わずか516台だった日本での販売台数は右肩上がりで伸び続け、2019年には4873台のセールスを記録。今ではここ日本が、本国アメリカに次ぐ世界第2位のマーケットとなっている。
いうまでもなくラングラーは、ジープブランドで最も卓越した悪路走破性を備えたモデルであり、第二次世界大戦中に軍用車両として開発された小型軍用車両(後にジープという愛称で呼ばれた)をルーツとする、独自の世界観を持つ唯一無二の存在だ。2018年に登場した最新モデルも、そうした伝統をしっかり継承。強靭なシャーシに悪路走破性を重視した4WDシステムを組み合わせている。また最新モデルは、現代的な快適性を身に着けながら、ひと目でラングラーと分かるスタイリングを守り続けている点もこだわりといえるだろう。
ベーシックグレードでも490万円と、決して手頃なモデルではないが、インポーターであるFCAジャパンによると、日本におけるラングラーオーナーの平均年齢は38歳と結構若い。クルマ離れが叫ばれる層から支持されている点も興味深いところである。
■ラングラーとともに道なき道を進む冒険
そんなラングラーを始めとするジープブランドの主要モデルで、極悪路を走る機会を得た。ルートは、スキー場のゲレンデや林間コース、そして、管理用道路をベースとした特設のオフロードコースだ。時折、ハードな段差があったり、大きな石がゴロゴロしていたりと、本格オフローダーでなければ走る気も起きないような劣悪なコース。おまけに、雨が降ったり止んだりで滑りやすくなっており、信頼できる走破性を備えたクルマでなければ安心して走ることさえできないようなシチュエーションだ。
ではなぜ、今回、スキー場が試乗ステージに選ばれたのか? そんな疑問に対してジープの担当者は「人工的に作ったオフロードコースではなく、自然の中で楽しんで欲しいと考えたからです。なぜならそれが、ジープの醍醐味ですから」と説明してくれた。本場アメリカでは、全長30kmを超える険しいオフロードコース“ルビコントレイル”を始め、天然のオフロードコースを走るジープ愛好者が多いという。それに近い体験を通じ、ジープの世界観をより深く理解してもらおうというのが彼らの狙いなのだ。
始めに、ラングラー用として用意されていたのは、ボンネットよりも高い草が生い茂る、まるで背の高い麦畑のようなゲレンデを一気に駆け下りる非日常体験だ。おまけにスタッフからは「好きなところを走ってください」とのアドバイスが! 好きな場所とは、まだ誰も走っていない未開のルートであり、まさに道なき道。これぞ冒険といえるだろう。
正直いうと、コースインするまで「こんな状況で本当に前へ進めるのだろうか?」という不安があった。今回のようなイベントではなく、荒野で自分ひとりしかいない状況ならば、立ち往生することを恐れ、最初の1歩さえ踏み出せなかったことだろう。それでもスタッフは「大丈夫ですから、ぜひどうぞ」と笑顔で送り出してくる。
ようやく意を決してコースインすると、ラングラーはそんな難コースでも何事もなく、涼しい顔をしながらボンネットより高く伸びた草をかき分け、道を切り拓きつつグイグイ前へと進んでいく。もちろん不安感など一切ない。絶対的な走破性と安心感が不安を消し去ってくれたのだ。
おまけに、この体験を通じてプラスαの発見が。難コースを走破しながら、ラングラーはドライバーになんともいえない楽しさをもたらしてくれたのだ。道なき道を進んでいるのにドライバーからは思わず笑みがこぼれる。これこそが、ジープの真価なのだろう。
■夢が広がり所有欲を満たしてくれる存在
ラングラーに続いて、「チェロキー」、「グランドチェロキー」、「レネゲード」といったジープの主要ラインナップでも、オフロードコースを堪能した。タイヤこそ本格的な悪路用に交換してあったものの、チェロキーやグランドチェロキーはもちろんのこと、街乗り向けクロスオーバーSUVと思われがちなレネゲードでも、高い走破性と安心感を備えていることを改めて実感した。
もちろん、すべてのジープオーナーがこれほどハイレベルな悪路走破性を必要とするわけはない。むしろ、性能をフルに使い切れるオーナーなど少ないはずだ。では、彼らはジープのどこに惹かれたのだろう? それはジープが、その気になれば道なき道だって走り切れる、卓越した性能を備えたツールである点。持つだけで夢が広がり、何物にも代えがたい所有欲を満たしてくれるのだ。
そしてもうひとつ、ジープ、特にラングラーが愛される大きな要因は、アメリカを象徴するモデルだから、ではないか。ラングラーを選ぶ人は、日本車のようにイージーに乗れるクルマを求めているわけではない。快適性や扱いやすさ、燃費性能では劣るものの、ジープが醸し出す“アメリカらしさ”を味わいたいのだ。ラングラーにはそうした思いを叶えてくれる個性があり、それが今では、ジープブランド全体の価値にもつながっている。
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文/工藤貴宏
工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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