■W124はメカニカルエンジニアリングの頂点
――W124のインテリアに関して、何か特筆すべきところはありますか? パッと見た限り、質実剛健のデザインですが。
岡崎:確かにインテリアはデザインの色気が足りないね。でも、シートの出来は抜群だよ。W124のシートは、スプリングやクッションの間に馬の毛やヤシの実の繊維が挟まれていて、通気性がしっかり確保されている。だから暑い季節に長く座っていても蒸れないし、冬場はシートヒーターが付いていなくても冷たくない。天然の素材ってすごいんだなと改めて感じたな。
おまけに、クッションに使われているウレタンがカラダにきちんとフィットしてくれるからか、ロングドライブでも疲れにくいんだ。コーナーで横Gがかかってもカラダが一切動かないバケットシートのようなものではないけれど、カラダをしっかり支えてくれる。だから長く乗っていても、腰が痛くなったり、お尻が痛くなったりすることがないんだよね。
――エクステリアデザインに関して触れておくべきことってありますか? セダンとしてはオーソドックスなルックスですよね?
岡崎:W124は“セダンがセダンらしくいられた時代”のカタチをしているね。各ピラーも立ってるし、その分、運転していて視界がいい。左ハンドル車だけど、ちょっと振り返るだけで右斜め後方がすべて見渡せるんだ。そんなオーソドックスなセダンなんだけど、空力性能は相当突き詰められている。その分、現代のクルマと比べても、高速道路での風切り音などはとても静かだよ。
――購入されてからすでに2年間で2万km以上お乗りになられたとのことですが、W124と毎日を過ごされてみて、何かお気づきになったことはありますか?
岡崎:アクティブサスペンションを思わせる足回りとか、抜群の速度コントロール性など、W124は今の時代においても魅力的なクルマだし、各社の最新モデルは、可変式のショックアブソーバーやアクティブクルーズコントロールといった電子デバイスで、それを実現しようとしている。でもW124は、今から30年以上も前に、それらをメカニカルな技術で実現していたんだ。だからW124のハンドルを握っていると、この30年間のクルマの進化って何だったんだろう? と思っちゃうこともあるよね。
つまり、この30年間で進化したものって、電子デバイスや電子制御の領域がメインだったんだ。でも、電子制御に頼り過ぎたせいで、メカニカルな技術がスポイルされてしまったものもあるよね。
――多くの要素が機械の上に成り立っていたクルマというのは、メルセデスの場合、W124が最後かもしれませんね。そういう意味でW124は、ひとつの時代を極めたモデルといえるかもしれません。
岡崎:家具でも食器でも楽器でもそうだけど、モノづくりの世界において安く大量に生産することに注力してしまうと、職人さんが活躍できるステージはどんどん少なくなってしまう。世の中、シンセサイザーばかりになると、ピアノを手掛ける職人さんはいなくなってしまうよね? そういう意味でW124は、クルマというモノづくりにおいて、メカニカルエンジニアリングの頂点にあったんじゃないかな。
――それもあってか、今になって改めて、W124を研究している自動車メーカーもありますよね。
岡崎:とあるメーカーのエンジニアは、W124のリアサスペンションを分析していて「思わずクルマを抱きしめたくなった」といってたよ(笑)。なぜこういう構造になったのか、なぜこうした仕組みを採り入れたのか、それらを突き詰めていけばいくほど、W124の足回りを手掛けた開発者たちの理想の高さや思考の深さに、思わず感動させられたんだって。
実際、そのエンジニアが所属するメーカーは、W124を参考に、最新モデルの操舵フィールを従来のそれとは一変させてきた。電子デバイスがふんだんに採り入れられている最新モデルにおいても、W124にはリスペクトすべきところがあるというわけだね。
――なるほど。W124って知れば知るほど奥深いクルマなんですね。
岡崎:あとW124って、自分でクルマをいじる楽しみも味わえるんだよね。インテリアにはネジがむき出しになっている部分が多く、それらは簡単に外すことができるから、例えば、メーターパネルだって案外簡単に外せるんだ。おまけに、旧車だけどさほど壊れないし、徐々にキツくなってきてはいるけれど、トラブった時のパーツの供給体制も整っている。オーナーとしては助かる話だよね。
――そういればW124って、ショックアブソーバーとブッシュを交換すると、新車の時の乗り味が復活するという逸話がありますよね?
岡崎:ショックアブソーバーとブッシュの交換は、個人的にも非常に注目している。でも、新車時の乗り味を知らない僕としては、少しヤレたような今のクタッとした乗り味も捨てがたいと思っているけどね(笑)。
<SPECIFICATIONS>
☆300E(1990年)
ボディサイズ:L4740×W1740×H1445mm
車重:1470kg
駆動方式:FR
エンジン:2960cc 直列6気筒 OHC
トランスミッション:4速AT
最高出力:185馬力/5700回転
最大トルク:26.5kgf-m/4400回転
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コメント/岡崎五朗 文責/上村浩紀
岡崎五朗|青山学院大学 理工学部に在学していた時から執筆活動を開始。鋭い分析力を活かし、多くの雑誌やWebサイトなどで活躍中。テレビ神奈川の自動車情報番組『クルマでいこう!』のMCとしてもお馴染みだ。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。