袋から豆を出し、まずは目で見て状態をチェック。そして重さを量る。合格基準の重さが定められていて、これより重いと乾燥が足りず、軽ければ古いとみなされる。基準の範囲内に入っていて品質が安定したコーヒーを買い取ることがポイントだ。この日はすべての豆が合格。どれも美しいぐらい粒がそろっている。
ここはペランギアン集買所。緯度は赤道よりほんの少し南、インドネシア・スラウェシ島トラジャ地方の山の中腹、標高約1500mにある村だ。ここの村長宅では、収穫期になると週に1回コーヒー豆の出張買い取りが行われている。日本のコーヒーメーカー、キーコーヒーがここトラジャで集買事業を始めた1977年から続いているという。
周囲は見渡す限りの山。トラジャ地方最大の町であるランテパオから険しい山道を登り、ようやくたどり着くような場所で、日本のコーヒーメーカーが40年以上もコーヒー農家から豆を買い取っているのだ。
「コーヒーで生活は良くなったんだよ」
村のまとめ役であるマルコスさんは、笑顔でそう話す。
「我々は“トアルコ・ジャヤ”にしか売らないんだ。彼らは、質の良いコーヒー豆を収穫するための栽培方法を教えてくれた。そして品質は上がり、いい値段で買ってもらっている。信用してるんだよ」
キーコーヒーがトラジャ事業のために設立したトアルコ・ジャヤ社。ここがコーヒー農家から豆を買い取り、集めた豆を日本に送っている。
この村の村長をつとめるユーノスさんもコーヒーを栽培してる。
「コーヒーは昔から飲んでいたけど、トアルコ・ジャヤが来て仕事になったんだ。うちは米も作っているけど、それは自分たちで食べるため。仕事はコーヒーさ」
ここペランギアン周辺にはそうした農家が多い。畑や田んぼもやっているがコーヒーもやる。野菜や米はあくまで自分たちで食べるもの。コーヒーは貴重な現金収入だ。
近年「コーヒーの2050年問題」が取り沙汰されている。気候変動が進むと、2050年にはコーヒーが穫れなくなる=飲めなくなるという危機的状況というのだ。また、気候変動や病害なども大きな要因だが、コーヒー農家が生活していけるだけの収入を得られないこと、これも大きな問題と言われている。食えなければ誰もやらない。だからこそ重要なキーワードがある。それが“サステナビリティ(持続可能性)”だ。
トラジャでは、適正価格で買うことからさらにもう一歩進めて、品質が高いコーヒーを生産すればより高値が付くことから、そのための品質向上の手助けも行われている。農家は、高品質のコーヒーを作れば収入が上がる。その結果、コーヒー産地としての評価が上がり、コーヒーメーカーは高品質の豆を販売できる。キーコーヒーはこの作業を40年以上も続けている。
この日は、苗木の無償提供も行われた。受け取った人たちはみな笑顔。いや、そもそもみんなとにかく明るい。この表情がトラジャ事業の成果を物語る。