瀟洒な外観のビルを3階にのぼると、細いアプローチの先に「うなぎ 藤田」の印が染め上げられた白いのれん。割烹料理店のようなすっきりと美しいたたずまいの外観に目を奪われつつ店内へと一歩踏み込むと、目の前には白木のカウンター。そして、ガラス張りの焼き場が目に入る。心地よいおもてなしの空間という印象。さっそく鼻腔をくすぐる香ばしいうなぎの香り。期待感が膨らまないわけがない。
店のしつらえはシンプルで無駄がない。それでも目をやった先にはひとつひとつ心遣いを感じさせてくれる。店を守る4代目店主 藤田将徳さんと女将の藤田清美さんは実はご姉弟でそれぞれがまだ40代前半といったところだろうか。店の伝統やのれんを守りつつも、新しく清々しい空気も感じさせる居心地のよい店構えだ。
うなぎ好きならば、やはり“焼き”を眺めながら食事が楽しめるカウンター席へ。男性同士で座ってもゆったりできる間隔で配置される椅子はたった6席。こちらの席を熱望するのであれば要予約である。
まず、最初にいただきたいのは自慢の「きも」料理である。同店では、浜名湖産を中心に国内産のうなぎのみを使用。浜松の清冽な井戸水(深さ115m)を使用し、えさを与えず約1週間泳がせる“活かし込み”により驚くほど臭みがないきも料理が実現する。「きも焼き」や「きもわさ」はもちろんだが、珍しい「きもの天婦羅」はぜひ押さえてほしい1品だ。
夜であれば、さらに蒲焼きと胡瓜を甘酢で和えた「う作」や、おきまりの「う巻」などもひととおり味わいたい。静岡の銘酒「開運」「出世城」をはじめ、店主が選りすぐった約10種の日本酒との相性は言うまでもない。
杯を重ねながらそうこうしていると、お待ちかねの「うな重」が目の前に。備長炭で香ばしく焼き上げたうなぎの香り。食欲を増幅させる香りにたまりかねて蓋を開けると、ふっくらとした身に艶やかなタレを纏ったうなぎが登場。
まずは山椒をかけずにひとくち頬張ると、弾力のある身質にふんわりと空気を含んだような贅沢な食感と、甘過ぎず辛過ぎず、シャリと絶妙な関係性を結ぶタレの塩梅が口の中いっぱいに広がる。粒がたつようにギリギリの水加減で炊き上げたシャリも絶妙。山椒は飛騨高山よりわざわざ取り寄せているもの。香りがややワイルドで、これをささっと纏わせるとさらなる風味・旨みの極みが味わえる。
たれは3代目によって完成されて以降50余年、継ぎ足し継ぎ足し使い続けられているもの。延々と繰り返される焼きの作業のなかで、うなぎの旨みがたっぷり溶け込んでいるという。
関東風に背開きしたうなぎを素焼き・深蒸し上げのあと、秘伝のたれをくぐらせながら、備長炭の火床近くで短時間で繰り返し焼きを3回。炭を見ながらに絶妙な焼き技でしっかり余分な脂を落としたうなぎは、ただただふっくらと、際立つ旨みが印象に残る。
この贅沢な空間がゆえもあるのだが、執筆業界では暗黙のNGワードとなりつつある漢字3文字〈至福感〉そのものが味わえる。うなぎ道は奥が深すぎるのでこれ以上余計なことは書くまい。うなぎに目がない方々は、ぜひ同店に一度足を運んでみてはいかがだろう。
※本文記載の価格は税別です
【浜松「うなぎ 藤田」白金台店】
東京都港区白金台4-19-21
白金IGAXビル3階
昼11:30~14:00、夜17:00~21:00 月曜休
03-6432-5636
www.unagifujita.com
(文/松浦 明)
英国・ロンドン「Sotheby's Institute of Art」で西洋美術史を学び、帰国後は美術図録の編集に携わる。ギャップ出版入社後、ライフスタイルマガジン『gap』や数々の書籍の企画・編集を手がけ2003年に独立。現在は雑誌・ウェブマガジンでの記事執筆、食ブランドや企業のフリーペーパーなどの企画・編集等を手がけている。
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